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<番外編>少女天使

圭一が、レッスン室でピアノを弾いている。その膝には、子猫キャトルが丸くなって寝ていた。

圭一は弾き終わると、キャトルを撫でた。

キャトルが顔を上げた。


「うまくなったと思う?」


圭一がキャトルに尋ねた。


「にゃあ」


キャトルが答えた。


「それはイエスと取っていいのかな…。キャトルの言葉が、浅野さん達のようにわかればいいのに…」


圭一が寂しそうにそう言うと、キャトルが「にゃあ」と小さく鳴いた。

圭一が微笑みながら、キャトルを撫でた。


「いいんだ…。ごめん。」


圭一が言った。

すると、キャトルが膝の上に立ち上がり、圭一に向かってひと鳴きすると、その姿が消えた。


「キャトル!?」


圭一は辺りを見渡した。


……


「キャトルが消えた?」


浅野がバーの準備をしながら言った。


「キャトルの言葉がわかればいいのにって言ったら…」


浅野は「まぁキャトルも瞬間移動できるからな。」と言った。


「それに人間だった俺の時とは違って、生体をこっちに置いて天界にもいけるから、もしかすると大天使様に相談に行ったのかも知れないぞ。」

「…そうですか…」


圭一はほっとしたが、キャトルがキャトルでなくならないか心配だった。


……


キャトルはなかなか帰って来なかった。

圭一は、専務室にいた。カゴで眠ったように見えるキャトルがめざめるを待っている。もうバーが始まる時間だったが圭一は手伝いに行かず、ため息をつきながらキャトルが目覚めるのを待っていた。


が、ふと気がついた。


「キャトルの缶詰切れてたんだ!今のうちに買いに行こう!」


圭一は財布を確認して出て行った。


……


圭一はコンビニから出ると、暗くなりかけた空を見上げた。


「キャトルまだかな…」


そう呟いて歩き始めた。

すると目の前に、黒ずくめの男が立ち塞がった。


「!?」


圭一と男の姿が消えた。


……


誰も来ないバーで、浅野はぼんやりとしていた。


「今日は閉店しようかな」


そうため息をついた時、カウンターの前に、黒ずくめの男が出現した。


「あらお客さん、今日は何飲むの?」

「…すぐに屋上に来い。」


ふざける浅野にそう言うと、男は消えた。

浅野は慌てて閉店の札をドアの外にかけると、屋上に瞬間移動した。


……


「圭一君!?」


屋上で、圭一は気を失わされて横たわっていた。

その傍には男が立っている。浅野を見ると、姿を変えた。

悪魔だった。


「!?」


浅野も天使「銀髪のアルシェ」に姿を変えた。


「圭一君に何をする気だ?」


アルシェ(浅野)が言った。


「取引をしたい。」


悪魔が言った。


「こいつの声をもらいたい。」

「!?」

「だが、条件によっては、そのままにしておいてやる。」

「条件とは?」

「こいつに、歌うことをやめさせるんだ。」

「!?無理だ!圭一君にとって歌うことは生き甲斐なんだ。」

「じゃ死なせるかい?」

「!?」


アルシェは息を呑んだ。


「すぐにでも殺せたのに待ってやったんだぞ。」

「死なせることもできない。」


アルシェは必死に平静を保って言った。


「わがままな奴だなぁ…。」


悪魔がそう言って、圭一に指を向けた。

アルシェはとっさに弓を構えた。


「おいおい…今その弓を引いたら、どうなるかわかってるだろうな?」


悪魔がにやりと笑った。

アルシェは、歯ぎしりをするようにして弓を下ろした。


(リュミエルは何をしてるんだ!?)


アルシェは自動的に交信をして悟った。


(圭一君を殺すと言われて魔界に呼び出されたのか。それも足止めを食らっちまってる。)


アルシェは、そうちっと舌打ちした途端、


「え?ばか!リュミエル!こっちにくるな!」


と、いきなり叫んだ。

リュミエルが屋上に出現し、圭一をすぐさま抱き上げた。


「!しまった!」


悪魔が言った。その時、多数の悪魔もリュミエルを追って現れた。

リュミエルは圭一の体をアルシェに横抱きにさせると、空へ飛んだ。


「乱暴な助け方だなぁ…」


アルシェはそう呟くと、自分も空へ飛んだ。


「リュミエルはいい!アルシェを追え!」


悪魔がそう叫ぶと、悪魔達がアルシェに方向転換した。


「わー!来るなー!」


アルシェが後ろをみながら叫んだ。リュミエルが気づいて、光の刃で悪魔達を攻撃する。

アルシェは両手が塞がっているため弓が持てない。とにかく必死に飛んだ。


「!!アルシェ!」


目を覚ました圭一が驚いていた。


「説明は後!しっかりつかまって!」


圭一は頷いて、アルシェの首に腕を回し、しがみついた。


その時、悪魔達が急にアルシェを追うのをやめた。

一体一体引き返して行く。


「!?」


アルシェは止まり、体ごと振り返った。

圭一も不思議そうな顔をして、悪魔達を見送っている。


遠くから、何か若い女の子の声がしていた。

アルシェがそっと悪魔達の後を追った。


見ると、相澤プロダクションビルの上空で、少女形の天使が光のムチを振り回して悪魔達を叩いている。叩かれた悪魔は、バシッという音とともに痛みで歪んだ顔を見せ消えて行く。消滅ではなく、自動的に魔界に封印されているようだ。


少女形の天使は、髪は赤いストレートのロングヘアーで、ピンクの短いチュチュをはいている。顔は、クリクリっとした大きな目に小さな口元で、少女漫画から抜き出てきたようなあどけない顔をしていた。しかし、その姿とムチが合うような合わないような…


「叩かれたい子は私の前にひざまずきなさーい!」


少女形の天使はそう叫びながら、ムチを振り回していた。


「……」


アルシェと圭一は呆然と見ている。反対側の上空にはリュミエルも同じように、呆然と見ているだけである。


「かわいい顔をしてなんつーセリフを…。親の顔が見たいよ。」


アルシェが呟いた。


しかし悪魔達は何かうれしそうに、少女形の天使に向かっていっているように見える。順番に叩かれては消えて行く。

最初に圭一をさらった悪魔はもういなかった。一番に叩かれたのだろう。


少女形の天使は疲れも見せず、踊るように優雅に回りながら、最後の一体まで叩き続けた。


アルシェは屋上に降り、圭一を立たせるようにして、降ろした。リュミエルも向こう側に降りて、仕事を終えて屋上に降りた少女形の天使を見ている。

少女形の天使はムチを一降りした。するとムチは少女の手の中に入って行くように消えた。


少女は圭一に向いて、両手を広げた。


「パパー!」

「!?パパ!?」


アルシェとリュミエルが同時に叫んだ。抱きつかれた、圭一は目を見張っている。


「キャトル?」

「うん!大天使様にこの体もらったの!これからパパといっぱい喋れるよ!」


圭一は涙を目に滲ませて、キャトルを抱きしめた。


「僕もこうして…自分の子を抱きしめたかった…」


圭一が言った。

抱き合う圭一と少女キャトルを、アルシェとリュミエルは微笑んで見ていたが…。


「キャトル…ムチはどこで手に入れたんだ?」


アルシェが言った。


「大天使様がくれたの。」


圭一から離れて、少女キャトルが言った。


「大天使様が!?」


少女キャトルがコクンと頷いた。


「少女形なら、ムチだろうって…」

「どういう根拠だよ。」


リュミエルが苦笑した。


「じゃあ、さっきの「叩かれたい子は私の前にひざまずきなさーい」ってのも?」

「大天使様が、考えてくれたの。」


アルシェが目に手をやった。


「圭一君、親として君の教育が必要だよ。」


圭一が真剣な顔でうなずいて、少女キャトルに言った。


「大天使様の教えをちゃんと守らなくちゃいけないよ。」

「はい、パパ!」

「ちがーう!」


アルシェとリュミエルが思わず叫んだ。


(終)

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