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病弱従姉妹を支える婚約者と、令嬢の確信

作者: 日奈子
掲載日:2026/05/01

「家同士の婚約の条件という契約を守れない相手と、どうして愛を交わせると思って?」


また婚約者が予定を潰した。

家にいる従姉妹が倒れたのだと。


一度目は偶然。

二度目は必然。


そして、三度目は確信。



「家同士の婚約の条件という契約を守れない相手と、どうして愛を交わせると思って?」




また婚約者が予定を潰した。

家にいる従姉妹が倒れたのだと。


一度目は偶然。

二度目は必然。


そして、三度目は確信。


予定のある日だけ倒れること。

医師でも魔術もない婚約者が『安心できるから』という理由だけで引き留められ、婚約者との時間を潰していることに、従姉妹も、婚約者の家も、婚約者本人も『病弱な従姉妹のために寄り添う優しい男』に酔いしれていた。


ならば、私は?


婚約者に予定を潰され、婚約式に向けての打合せも進まない。

交友関係を広げる場でわたくしひとりで参加させても「すまない」のひと言で済ませ、たまに来たかと思うと、従姉妹への愛情を嬉々と語り、それを守る自分の愛情深さに酔いしれる話ばかり。


ふぅん。

三度目の詫びに、婚約者が我が家に来た時に、父も母も同席して、次にこんなことがあれば、と話しましたのに。


四度目は、悪意でしょうか?


謝罪の面会を断り、手紙も使者の伝言も受け取らず、お茶会への参加も含め社交を一切止めて、家の中と庭だけで過ごした三週間。


婚約者の従姉妹が倒れた、という噂を聞くことは一度もなく。

むしろ、わたくしに冷たくされた婚約者を慰める病弱な従姉妹との良い関係ばかり聞こえてきて。


ふぅん。

さて、と。


わたくしは、侍女を呼び、三週間かけて書き上げた物語を渡しました。


──そして、一月後。


社交界で、面白い噂が聞こえてきました。


『婚約者がいる従兄弟に甘える世間知らずな娘は、どうなのか』

『たとえ庇護欲をかき立てられても、今後、どこかの家に嫁ぎ子を儲けることもできない娘を、身内だからと貴族の家においておく意味はなんなのだろう』

『そもそも、我が国の医師が数年かけ診ていて回復しないのであれば、静養先で落ち着いて治療することが、誰にとっても良いのではないか』

『婚約者と病弱な身内を天秤にかけ、身内を選ぶのは愛なのか愚かなのか』


 


世論というものは、好奇心と正義感と、強い印象で決まるもの。


わたくしが書き上げた物語は、それまで世の中に出ていた『真実の愛は何よりも尊く強いもの』という世論を書き換え、『真実の愛を讃え、現実を無視するなら、その反動も受け入れるべき』という、現実的なもの。



家同士の婚約は、甘い愛だけで終わるはずはなく、お互いの事業や領地という仕事を親世代から引継ぎ、守り、繁栄させるためのもの。その一環として次代となる子を生み育てるためには、夫婦としての最低限の信頼と優しさは必要なのは言うまでもなく。


そう。

貴族の婚約や結婚は、仕事なのよ。


しかも、我が家に婿入り予定の婚約者は、我が家を仕事先として契約した婚約なので、それに付随する、わたくしとの時間も業務の一環。


愛情が無い仕事上の関係になるか、仕事仲間としての夫婦であってもお互いを尊重し愛を育むか、それは片方の努力だけでは成り立たないのに。



それを、婚約者は、軽んじた。



仕事先に、見習いが「うちに身を寄せた従姉妹が体調悪いから休みます」と言って、それが何度も続くことが、仕事先からどう思われるのか考えることもせず。


婚約者という、我が家に婿入するまでの見習い期間に必要な役割も果たさず。


⋯⋯婚約者、という名目だけで、何を安心したのかしら。


数日後、婚約者とその親が揃って我が家に頭を下げに来て、わたくしの親と、婚約解消の書類にサインをする、その最後の顔合わせが我が家で行われました。


そのサインをする手を一瞬止めた婚約者が、わたくしに「本当にもう、やり直せないのか?俺は君を愛しているのに」と言うのです。


ふふ。おかしくて、笑ってしまう口元を扇で隠し、わたくしは言ったのです。



「家同士の婚約の条件という契約を守れない相手と、どうして愛を交わせると思って?」



──その後は、顔を赤く染めた親から叱責され、青白くなった元婚約者には手続きが終わったことを確認しお帰りいただき、わたくしに新しい縁談を探そうと親は動き出し、ひとり部屋に戻ったわたくしは、侍女がいれたお茶を飲み思うのです。


次に書く物語は、周りが見えない真実の愛でなくとも、お互いの契約を守り支え合いながら育てる愛のお話もいいかなと。


やがて彼女が、親が選んできた新しい婚約者と愛を育むのは、そう遠くない未来のお話。







【御礼】誤字報告ありがとうございました。



病弱従姉妹、婚約解消というテーマを使いたくて書いてみました。


元婚約者たちは、その後、従姉妹の療養を理由に長閑な土地に送られ、ヒロインに会うことはありませんでした。


ヒロインは、跡取りということで責任感を優先した結果、愛情や優しさは二の次というか、まずは跡継ぎ=仕事としての考えだったので、それを放棄した形になった婚約者のことは別れられてスッキリ。夫婦の形はそれぞれとはいえ、仕事もしない、従姉妹とはいえ婿入り先以外を優先させ、婚約者としての責務も愛情も無い無能を婿入りさせるわけにいきませんから。


そんな相手となぜ婚約したのかは仕事上の条件が合ったから。まあ、よくある話ですね。



お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
こういう「病弱な従姉妹・幼馴染を婚約者より優先する婿入り予定の男」って、そのまま婚約者と結婚した後どうなるんだろうね。 結婚後「従姉妹・幼馴染が倒れた」と聞いた時、やっぱり会いに行ったりするのか、それ…
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