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年賀状の年の瀬

作者: 古紫 汐桜
掲載日:2025/12/01

そこは、とあるガード下に佇む屋台。

赤ちょうちんの「おでん」が、冬の空気に小さく揺れていた。


「オヤジ、熱燗といつもの」

「はいよ」


コトリと置かれた大根、こんにゃく、昆布。

湯気の向こうで、静かに熱燗が出される。

ひと口ふくむと、胸の奥がほんのり温まった。


「──もう……潮時かな」


こぼれた独り言は、夜風に溶けるように消えていく。


「オヤジ、二人いいか?」

ほろ酔いの二人組が暖簾をくぐる。


「すみません、生憎満席で」

「満席? 端の席が空いてるじゃ──」


客が指差した先には、昆布を口にしている“年賀状”がいた。


「うわっ……居たのか!」

「ふ……この存在感の薄さが、俺が消えかけてる理由かな」


皮肉めいた笑みに、自分でも苦くなる。


流れる演歌でさえ、「お前の時代は終わった」と囁くように聞こえた。


「オヤジ……文字に託す思いは、どこへ行ったんだろうな。

日本はずっと、言葉に心を乗せてきた民族だった。

古事記、万葉集、古今和歌集……

そんな文化が、LINEなんぞに取って代わられるなんてさ」


「はがき代、高いですからねぇ」


そう言って、オヤジが卵をひとつ皿に置いた。


「オヤジ……?」

「大丈夫ですよ。あなたは日本にとって、大切な文化ですから」


穏やかな声が、熱燗よりも深く染みた。


「今年も……俺を待って、ポストの前に立ってる子供の姿、見られるかな」

「見られますよ。だって、きみは大切な文化なんですから」


ふいに胸が温かくなり、年賀状はぬるくなった酒を飲み干した。


千円札を置き、立ち上がる。

背中に、優しい声が追いかけてくる。


「来年も……会いましょうね」


年賀状は、ひらりと片手だけ上げて応えた。


コートの襟を立て、年の瀬の寒気を受けながら歩き出す。

その背中に、木枯らしがそっと吹き抜けた。


やがて年賀状の姿は──

ひっそりと人混みにまぎれ、

風にさらわれるように消えていった。


お読み下さり、ありがとうございます。

以前から、忘れられつつある日本の伝統文化──

雛人形、五月人形、七夕、鯉のぼり、節分……

そんな行事や風習を、いつか物語にしたいと思っていました。


今回、ラジオ大賞の募集を目にして、

その中でもとくに影が薄くなりつつある“年賀状”に光を当ててみようと思い、このお話を書きました。


この作品を読んで、

「今年は久しぶりに年賀状を書いてみようかな」と

ふと思って頂けたら嬉しいです。

(……とはいえ、実は私自身はLINE派なんですけどね笑)

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