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第七話 両親が残した物

 おや、皆様、こんばんは、幸せ案内人幸人です。皆様、最近どうですか? 不幸にはなっておられませんか?

私としては、皆様が不幸になって、いつこの幸福館に訪れてくれるかたのしに待っているのですが。それにしても、対価を飾っている棚が、そろそろいっぱいになって来ました。あと、どのくらいあつまるのやら。

おや、今回のお客様が来られようですね。


「幸人お兄ちゃん、お客様を連れて来たよ」


はいはい、分かりました。今、行きますよ。

では、皆様、この辺で失礼致します。

皆様に幸あらんことを。

 一人の中年男性が、幸福館の扉を開いた。男性の名前は、佐々木正造。中肉中背の五十代の男性だ。

正造が、薄暗い幸福館の中を歩いていると、一人の少女を見つけた。少女は

「ようこそ、幸福館へ、私は、幸人様の助手の奈美です。さぁ、あなたを幸人様の元へと案内しますので、着いて来て下さいね」

と、言うと、館の奥の方へ歩き始めた。正造は、 奈美の後を着いて行く。 すると、突き当たりの扉の前で止まった。

「この部屋の中に、幸人様が、いらっしゃいます。では、中へどうぞ」

奈美に言われ、正造は、部屋の扉を開け中に入った。部屋の中は、ぼんやりと蝋燭の炎に灯され、霧のようなモヤが部屋中を包んでいた。正造は部屋の奥に進むと、奈美が走りだし一人の男の元へ 行った。正造も、その男の前まで、行くと

「ようこそ、幸福館へ。私は、この幸福館で幸せ案内人をしています、幸人と申します」

と、お辞儀をした。

幸人は、続けて

「あなたが、ここに訪れたと言う事は、不幸がありましたね」

「はい、そうです」

と、正造が答えると、幸人が

「では、あなたの不幸を見させて頂きますので、こちらへどうぞ」

と、椅子へと案内した。奈美に、椅子へと誘導された正造が椅子に座ると、幸人も向かい合って座り、水晶玉に向かって手を伸ばした。しばらくすると、水晶玉が光だして、幸人が

「あなたのお名前は、佐々木正造様ですね」

「はい、そうですよ」

「では、あなたの不幸を見させて頂きます。では、この水晶玉を見つめて下さい」

と、幸人に言われ正造は、光っている水晶玉を見つめた。しばらくすると正造は、意識が遠退いて行くのを感じた。そして、虚ろな瞳になった。

それを確認した幸人は

「では、あなたの不幸を聞かせてください」

と、虚ろな瞳の正造に告げると、正造は

「実は、ワシ……」


 正造は、平凡な毎日を過ごしていた。独身で、親と一緒に暮らしている。仕事も、平社員で年下の上司にペコペコ頭を下げてばかりだった。正造は、そんな生活でも自分は幸せな毎日を送っていると、しみじみ思っていた。しかし、そんな平凡だが、幸せな毎日が、突如、崩れさるとはその時、正造は、思ってもみなかった。あの日が、来るまでは。

その日の朝、正造は、親二人が旅行に行く為にバス停まで送って仕事に行った。道が渋滞したせいもあり遅刻をしてしまった。会社に着いて、すぐに年下の上司に呼び出され

「佐々木! お前、今何時だと思ってんだ。遅刻だ。やる気あるのか?」「へぇ、すいません」

と、平謝りをした。上司は、呆れて

「もういい、さっさと仕事しろ」

と、言った。

正造は、持ち場に戻り、いつも通り仕事をこなした。そして、昼になり会社の食堂で一人テレビをみながら食事をしていると、テレビから臨時ニュースを知らせる音が鳴った。正造は、何だろうと思いながらテレビをみていると

正造の親が乗ったバスが崖から落ちたという知らせだった。その後すぐに、その事故で亡くなった人の名前が、テロップで流れた。その中に正造の親二人の名前があった。 正造は、信じられなかったが、急いで遺体を安置しているところ向かった。着いて、遺体を確認し たところ親二人であった事に正造は、落胆の色を隠せなかった。

正造は二人の遺体の傍に座り込み、涙をながしながら

「嘘だろ、父ちゃん、母ちゃん、何で死んじまったんだよ」

と、遺体の親二人の顔を擦りながら言った。

その後、遺体を引き取りしめやかに葬儀を行なった。正造は、一気に両親を亡くしてしまい、ショックで、何日も仕事を休んだ。その為、仕事もクビになってしまった。

正造は、仕事も失ってしまい途方に暮れた。

しばらくたって、両親の遺品を整理し片付けている時、母親の鏡台の中に母親がよく付けていたブローチがあった。正造は、母親の形見をポケットにしまった。

そして、父親の遺品を整理している時に、何通かの封筒を見つけた。正造は、中を確認してみると、借金の借用書が入っていた。しかも、五千万もの大金を借金で、連帯保証人の欄には正造の名前が書いてあった。

両親は、大金の借金を残したまま亡くなったのだ。両親の遺産も、微々たるもので、到底返せる金額ではない。正造が、どうしようか考えていると、家のチャイムが鳴った。それと同時に、男の声で

「佐々木さ~ん、いるんでしょ、早くお金返してくださいよ。もう、期限とっくに切れてますよ。返事ぐらいしてくださいよ~」

と、チャイムを鳴らし続けた。正造は、息を潜め静かにしていると、今度は、玄関のドアを叩き始めた。

「おい、コラ佐々木! 居るのは分かってんだよ。早く、借りた金を返しやがれ!」

と、怖い口調で叫んでいた。しばらくすると、ドアを叩く音もなくなり

借金取りの男は

「次に来た時に返さなかったら、どうなるかおぼえとけや」

と、捨て台詞を吐いて帰って行った。

正造は、どうしていいのか分からないまま、とりあえず家を出た。

外に居ても行く場所はなく、近所の公園のベンチに座り、悩んでいると

正造の元に、少女が近寄って来た。少女は

「おじさん、どうしたの? 暗い顔して? 何か、不幸な事でもあったの?」

と、正造の顔を見るなり言った。正造は

「そうなんだよ。お嬢ちゃん。おじさんはね、親に死なれて、借金も残されてしまって悩んでたんだよ」

「ふ~ん、そうなんだ。じゃ、不幸なんだね」

「まぁ、不幸だな。てか、お嬢ちゃんにこんな話をしてもしょうがないかな」

と、正造は溜め息をついた。

「おじさん、幸せになりたい?」

「そりゃ、幸せになりたいさ」

「そっか、じゃ、いいところに連れて行ってあげるから着いて来て」

と、少女は言って歩き出した。正造は、ここにいても仕方ないと少女に着いて行く事にした。

少女の後を追ってしばらく歩くと少女は、大きな館の前で止まった。館から黒猫が出てきて、少女の元までやって来た。

「今日のお客様かニャ。なんだか、見るからに不幸そうだニャー」

「でしょ、ジルマもそう思うでしょ」

と、少女は黒猫と会話をしていたが、正造には黒猫相手に独り言を言っているようにしか見えなかった。少女は、正造の方に向き直り

「ここだよ。ここがいいところなの。さぁ、中に入ろ」

と、言って少女は黒猫を抱いて先に館の中へ入って行った。

正造も、後を追うように幸福館の扉を開いた。


 正造は、虚ろな瞳のまま、全てを語った。幸人が、指を鳴らす。すると、さっきまで虚ろな瞳だった正造の瞳が元に戻り、正気に戻った。幸人は 「あなたの不幸を聞かせて頂きました。あなたは両親を一気に亡くし、両親の残した借金の肩代わりをするはめになった。そうですね」

「ええ、そうです」

「あなたは、どうしたいのですか?」

「ワシは……出来れば、すぐにでも借金を返して平々凡々な暮らしが出来ればそれだけでいいんですよ」

「そうですか、分かりました。では、あなたを幸せに案内しましょう。でも」

「でも……何ですか?」 「幸せにする為に、あなたの大切な物を対価として頂くようになります」 「大切な物ですか?」

と、正造はポケットの中を探ると母親の形見を入れているのに気付いた。正造は、母親の形見のブローチを取り出し

「これは、母親の形見のブローチ何ですが、これでいいでしょうか?」

と、幸人に手渡した。

「母親の形見ですか? 分かりました。では、このブローチを対価として頂く事にしましょう」

と、ブローチを奈美に手渡した幸人は

「奈美さん、では、これを対価の棚に置いておいて下さい」

「分かりました。幸人様」

と、奈美が、幸人の後ろにある棚にブローチを置いた。幸人が

「では、対価を頂いた事ですし、あなたに幸せを授けましょう。では、こちらに」

と、正造の額に人差し指を付けておまじないを書いた。

「これで、終了です。あなたの幸せになれるでしょう。でも、私に、対価を払った事を誰かに言ってしまうとたちまち不幸になりますので気をつけて下さい」

「へぇ~、分かりました。ありがとうございました」

「では、佐々木正造様に幸あらんことを」

と、幸人が言った後、正造の目の前が白くなってゆく。しばらくすると正造は意識を失った。


 正造が、目を覚ました時には、幸福館がなくなっていた。正造は、不思議な気分だったが、とりあえず家路に着いた。家に帰る途中に、道端に落ちていた紙を拾った。よく見ると、宝くじだった。正造は、とりあえず持って帰り、宝くじの当選発表が、今日だと言う事を思い出し、新聞をひろげ確認してみると、宝くじに書いてある数字と、新聞に書いてある一等の当選番号が一致していた。

「おい……本当かよ……三億当たっちまったよ」 と、声をころし喜んだ。  次の日に、すぐ当選した宝くじを手に、銀行に向かい三億を手に入れた。すぐ、手元には貰えなかったが、一週間後、銀行の口座に三億円が入金されていた。

正造は、すぐに、一億円引き出して、父親が借金していた、金融会社に出向いた。

「あの、佐々木なんですが、借りていた五千万返しに来ました」

強面も男が

「やっとですか、でも返し頂ければ助かります」 と、五千万を受け取った。こうして、借金地獄から抜け出せた。

それからというもの、正造は人が変わったように娯楽を楽しんでばかりいた。キャバクラへ毎日のように通い遊び呆けていた。酔っ払った勢いで、正造の相手をしていたホステスに、

「ワシはな、最初不幸で、借金地獄だったんだ。だけど、幸福館ってところに行って、母親を形見を渡したら、その帰りに三億円の宝くじを見つけて、幸せになったんだよ」

と、幸福館で対価を払った事を言ってしまった。 正造は、酔っ払っていい気分のまま帰っていると、若い男たちに囲まれた。男の一人が

「おい、おっさん! 金だしな」

と、お決まりの科白を言うと

「はぁ、何だ、お前等は~、ワシに何の用だ。どけよ」

と、男の肩を押した。それを合図に、男たちは

「この野郎、やっちまえ」

と、男たちは、正造に飛び掛かり、正造は殴る蹴るの暴行を受け、しかも、全財産を入れていたカバンも奪われた。

正造は、重症を負いそのまま意識を失う中、幸人との約束を破った事に後悔しながら、息絶えた。


 皆様、いかがだったでしょうか? あれほど、対価を払った事を誰にも言わないで下さいと忠告していたのに、言ってしまい再び不幸になり、そのまま亡くなられるとは。全く嘆かわしいです。 人の忠告は、聞くものですよ。

それにしても、大金が入ると人は変わるものですね……

皆様は、気をつけて下さいね。大金が入ったからといって、遊び呆けないで下さい。

では、私はこれで、奈美ちゃんが紅茶を入れてくれてますので。

では、皆様に幸あらんことを。

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