第四話 兄妹愛
皆様、こんばんは。幸人です。いつも、ご鑑賞していただきありがとうございます。
いやぁ~、随分と対価が集まり、私としては、その分皆様が幸せになっていらっしゃるので、嬉しいかぎりですよ。
ご鑑賞していただいてる、あなた様も、不幸になったあかつきには、是非幸福館にいらしてくださいね。
この度、どのような人が、この幸福館の扉を開くのか、楽しみです。
おやおや、そう言ってる間にお客様が来られたみたいですね。
えっ、いつも、何でお客様が来たか分かるかですって? それはですね~、私の元に使い魔がいるのですよ! 私の使い魔にいつも不幸の人を探させて案内させてるのですよ。今回も、使い魔が連れて来たみたいです。では、私はこれで。
皆様に幸あらんことを。
一人の女の子が、幸福館の扉を開いた。女の子は、薄暗い部屋の中を歩いて、幸人のいる部屋まで辿り着いた。
女の子が部屋に入ると 「ようこそ、幸福館へ。私は、この館で、皆様に幸せの案内をしています、幸人と申します」
と、深々とお辞儀をした。女の子は、幸人に誘導され、椅子に座った。幸人も、女の子と向かい合って座り、水晶玉に手をかざす。水晶玉がゆっくりと光だす。そして、幸人が静かに話し出した。 「あなたのお名前は、如月亜子さんですね」
「はい、そうです」
「では、亜子様、この水晶玉を見つめて下さい」と、言われ亜子は水晶玉を見つめた。すると、亜子の意識が段々と薄れていき、虚ろな瞳になった。すると、幸人が
「では、あなたの不幸を教えてください」
「私は……」
亜子は、中学三年の十五歳。一つ上の兄、健太と暮らしている。亜子の両親は、父親の都合で海外出張中だ。亜子は、兄である健太の事が、大好きなのだ。兄妹だからではなく、一人の女の子として健太を好いていた。 兄の健太は、同じ年頃の女の子に触られると気絶してしまう体質を持っていたが、妹の亜子だけは大丈夫だった。その為亜子は、健太を守るのは私だけと、いつも、健太の傍にいれたのだ。
そのはずだったのだが、健太に彼女が出来てからと言うもの健太の体質が治り、家では、彼女の事ばかり話すようになっていた。それが、亜子には苦痛で仕方なかった。
朝は、いつものように亜子が、健太の部屋に行き 「お兄ちゃん、朝だよ。起きて」
「あともう少しだけ」
「ダメだよ。学校に遅刻しちゃうよ。起きて」
「大丈夫だって、まだ時間あるし」
「もう! 仕方ないなぁ、亜子いっきまぁ~す」 と声高らかに健太へとダイブした。
「うぎゃぁ~! 分かった、起きます」
と、健太は渋々布団から出た。
「おはよ。じゃ、早く顔洗ってご飯食べよ」
と、笑顔で健太に言った。健太は、亜子に言われた通り、顔を洗いリビングで待っている亜子のところに行き朝食を済ませる。ご飯を食べてる時に健太から
「今日は、ちぃちゃんとご飯食べて帰るから今日は遅くなるよ」
と、突然言われ亜子は
「えぇ~、今日は、亜子特製のオムライスにしようと思ってたのにぃ~」 「ごめんごめん、前から決めてたからさ」
「お兄ちゃん、彼女出来て変わったよね。いつも、私の事思っててくれたのに……今は、彼女の事だけだもん」
「そんな事言われてもなぁ~、じゃ、亜子もいい人見つけなよ」
「うぅ~、お兄ちゃん、私の気持ち分かってないよね。もう、いいよ。夕御飯は、私一人で食べるから」
と、頬を膨らまして言った。健太は参ったなぁ~と言う顔をしながら朝食を食べ、学校へ行った。 亜子も、後片付けをした後学校へ行き、親友である雪絵に、健太の愚痴を言った。
「ちょっと、聞いてよ、雪絵! お兄ちゃんったら、今日はせっかく私の特製オムライスを作る予定なのに、今日は彼女とご飯食べて帰るから遅くなるって言うんだよ。しかも、笑顔で……」
「あはは、まぁ、亜子の気持ちは分かるけど、健太さんも今は、楽しい時なんだから仕方ないんじゃないのかな~。体質も治った訳なんだし。亜子にとっては、複雑な気分かもしれないけど、大目に見てあげたら」
「別に、デートぐらいは、沢山すればいいと思うんだけど、ご飯ぐらいは、家で食べて欲しいのよ。お兄ちゃんがいなかったら、私一人だから寂しいし……」
「そっか、確かに一人だと寂しさよね。じゃ、今日私が、亜子のオムライスいただこうかな?」
「えっ、本当に! じゃ、部活終わったら一緒に帰ろうね」
「うん、分かったよ」
眠気を誘う授業が終わり、部活で汗を流した亜子と雪絵は、帰る途中にスーパーに寄り、夕御飯の買い出しを済ませて家に着いた。
「雪絵、部活で汗まみれになっちゃったから、一緒にお風呂入ろ」
「だよね、汗臭いままじゃ、嫌だしいいよ」
二人は、お風呂に入り、夕御飯の支度に取りかかった。
「じゃ、ささっと作るから、雪絵はテレビでも見てゆっくりしててね」
と、亜子が言って、手早く料理を始めた。
その後、二人は、夕御飯を食べ、たわいもない会話をしていたら、健太が帰ってきた。
「ただいま、帰ったよ」 と言いながら、リビングに入ってきた。
「あっ、お帰り、お兄ちゃん! 以外に早かったんだね。もう少し遅いのかと思ってたよ」
「まぁね、亜子が心配するといけないしさ。雪絵ちゃん、こんばんは」
「こんばんは、お邪魔してます」
「お兄ちゃん、ご飯食べて来たんでしょ。少し多めに作ったから、明日の朝にでも食べてね」
「うん。サンキュー。そういや、亜子、犬が好きだったよな」
「うん、犬は可愛いし大好きだよ」
「そう思って、犬のぬいぐるみ買ってきたよ。まぁ、ちぃちゃんが選んでくれたんだけどな」
「そ、そうなんだ……ありがとう……」
「そう言えば、雪絵ちゃん今日はどうしたの?」 「えっ、今日は、亜子の手料理を食べに来たんですよ。健太さんが帰るの遅いっていうから、亜子一人だと寂しいと思ってご飯をよばれてました」 「そっか、ごめんね」
「いえいえ、じゃ、そろそろ私は帰ります。お邪魔しました」
と、雪絵がリビングから出ようとした時、亜子が 「家まで送るよ。一緒にいてくれたんだし、じゃ、お兄ちゃん、雪絵を送ってくるね」と、亜子と雪絵は、家を後にした。
雪絵を送っていきながら、亜子は
「お兄ちゃん、変わったなぁ~、いつもならプレゼントとか、お兄ちゃんが選んで買ってきてくれてたのに……ちょっとショックだよ」
「仕方ないと思うよ。彼女が出来たら、やっぱり彼女が優先になるんじゃないかな?」
「そうなのかなぁ~、何か、私、お兄ちゃんに振り向いてもらえなくなって不幸って感じだよ」
「不幸で思い出したんだけど、何かうちらの学校で、変な噂があるの知ってる?」
「変な噂? 何それ?」 「何かね、不幸な人が深夜零時にパソコンのサイトで、幸せ案内っていれて検索したら繋がるらしいの? 不幸な人じゃなきゃ、見れないらしいのよ。何でも、そのサイトに書かれてる通り、幸せになれるんだって」
「雪絵、それ本当なの? 何か嘘っぽい」
「まぁ、あくまでも噂だからねぇ~」
と、話をしてる間に雪絵の家まで着いた。
「今日は、ありがとね。雪絵。それじゃ、また明日、学校で」
「うん、亜子おやすみ」 と、言って亜子は、家路に着いた。
家に帰った亜子は、夕御飯の後片付けをして、自分の部屋へ行った。
自分の部屋で、ボーッとしているとすでに、深夜零時を指していた。亜子は、雪絵が言っていた噂話を思い出し、パソコンをつついた。亜子は、インターネットで『幸せ案内人』と入れ検索すると、サイトに繋がった。サイトには、『あなたの不幸を取り除きます』と書かれていた。亜子は、半信半疑で、書いてある住所を紙に書き写した。そして、翌日の放課後、幸福館へと足を運んだのだ。
亜子は、虚ろな瞳で全てを語った。幸人が、指を鳴らすと、亜子は元に戻り、キョトンとしていた。幸人が
「なるほど、あなたの不幸を聞かせていただきました。あなたは、大好きなお兄さんに振り向いてほしい、自分を一番だと思ってほしいんですね」 と、幸人は亜子に問いただす。亜子は
「はい、私はお兄ちゃんが大好きなんです。私だけを見ていてほしいの」 と、答えた。
「分かりました。あなたの不幸を取り除きます。ですが……」
「何かあるんですか?」 「不幸を取り除く為に、あなたの一番大切な物を対価として頂きますが宜しいですか?」
「大切な物ですか? 分かりました」
「承知致しました。では、対価を頂きます」
と、言って幸人は、亜子の前に立ち、亜子の顔の前に手をかざす。次第に幸人の手が光だした。しばらくすると光がおさまり、
「これで、対価は頂きました。約束通り幸せになるでしょう。ただし、私に対価を払った事を誰かに言ったら、たちまち不幸になりますので、絶対に言わないようにして下さいね」
「分かりました。気をつけます」
と、亜子が言うと、幸人は、亜子の額に人差し指をつけて、おまじないを書いた。
「これで、全て終わりました。では、如月亜子様に幸あらんことを」
亜子の目の前が白くなってゆく。すると、亜子は、意識を失った。
目を覚ました亜子の前には、さっきまであったはずの幸福館が消えていた。亜子は、不思議に思いながらも家路についた。 家に着いた、亜子は、すぐに夕御飯の支度を始めた。いつもなら、夕御飯の支度の最中に健太は帰ってくるのだが、今日はなかなか帰って来ない。帰るのが遅くなれば、連絡をしてくるはずが、それもなかった。亜子は、心配になったが、もう少し待ってみることにした。しかし、いっこうに帰って来ない。夕御飯の支度も整い椅子に座って待ってても、時計の針はどんどん進んで行くばかりだった。亜子は、健太の携帯にかけてが、繋がらず、ますます心配になっていった。亜子は、もう一度健太の携帯にかけたがやっぱり繋がらない。 亜子は、健太の彼女の携帯にかけてみた。すると 「もしもし、倉橋です」 と、健太の彼女千夏がでた。亜子は
「もしもし、遅くにすみません。健太の妹の亜子です。お兄ちゃん、いますか?」
と、千夏に聞いた。
「えっ、健くんならだいぶ前に帰ったよ。たまには、亜子ちゃんと一緒にいなくちゃって言ってたから」
「そうですかぁ、まだ、帰って来ないので心配になってかけたんです。すみません」
「ううん、いいよ。でも、健くんは、亜子ちゃんを大切に思ってるんだね。ちょっと亜子ちゃんが羨ましいなぁ」
「えっ、そんな事ないですよ。お兄ちゃん、帰ってきたら千夏さんの話ばっかりするんですよ」
「あはは、そっか。じゃ、健くんが帰ってきたらよろしく伝えてね。それじゃ、お休みなさい」
「はい、お休みなさい」 と、電話を切った。
千夏のところにもいない事を知った亜子は、健太がいない事に、不安を感じていた。その時、ふと、幸福館での出来事を思い出し
「もしかしたら、私が払った対価ってお兄ちゃんだったのかな? お兄ちゃんがいない生活なんて、嫌だよ」
と、自分に言い聞かせ、 亜子は、急いで家を飛び出し幸福館があった場所へと向かった。
幸福館があった場所に着いた亜子は、周りを見渡すと、幸福館がある事に気付いた。直ぐ様、幸福館の中に入り、幸人がいた、部屋まで行った。
すると、幸人は、優雅に紅茶をすすっていた。亜子に気付いた幸人は
「おや、あなたは先程の、どうしたのですか?」 「あの、私の対価って何だったんですか? もしかして、お兄ちゃんですか?」
と、必死な表情で言い寄った。幸人は、静かに頷き
「はい、その通りですよ。あなたの一番大切な物を頂きましたが何か?」 「私、バカでした。お兄ちゃんがいなくなって、不安になって、やっぱり、お兄ちゃんがいてくれないと私は嫌なんです。お兄ちゃんがいないと、私絶対に不幸になっちゃう。そんなの嫌なんです。だから、お兄ちゃんを返してください」
と、大粒の涙を流しながら幸人に言った。
幸人は、泣き顔の亜子を見つめて
「やっと、分かってくれましたか。実は、あなたを試していました。私は、あなたの不幸の話を聞いていても、あなたが不幸な人生を送っているとは思いませんでした。話を聞いてて、それは、あなたのワガママでしかないと思いました。それで、わざとあなたのお兄さんを対価として頂いたのです」
「ごめんなさい。私は、お兄ちゃんが大好きなんです。でも、お兄ちゃんには彼女がいる。それなのに、私のワガママで、お兄ちゃんを彼女から奪おうとした。そんな事したら、本当の幸せなんか掴めませんよね」
「その通りですよ。あなたは、大好きなお兄さんの妹で、いつも傍にいれるだけでも幸せじゃないですか。その事を忘れないようにして下さいね」 「はい、分かりました」 「では、お兄さんをお返し致します。これからは、気をつけて下さいね」 「はい、これからは気をつけます」
「では、家に帰ってみてください。もう、お兄さんは家にいますから」
「分かりました。ありがとうございます」
と、亜子は、幸人に深々とお辞儀をして家路に着いた。
家に着いた亜子は、リビングに行くと、健太が椅子に座っているのを確認して、自然と涙が出た。 亜子に気付いた健太は
「亜子、こんな遅くに何処行ってたんだよ。心配したぞ」
亜子は服の袖で涙を拭き 「ごめんね、お兄ちゃん。お兄ちゃん、大好き」 と、健太に抱きついた。 健太は、訳が分からなかったが、亜子の頭を撫でながら
「亜子、あんまり心配させないでくれよ。俺にとって、亜子はかけがえのない大切な妹なんだからな。亜子がいなくなったら、俺は嫌だぞ。いつも、俺の傍にいてくれよ」 と、亜子を抱き締めながら言った。
「うん、ごめんね。私、お兄ちゃんの妹でよかった。私は、幸せだよ」
おや、皆様いかがでしたか。この度は、お兄さんを大好きなあまり独り占めしようとした亜子様に少し、お灸をすえた感じになりましたが、亜子様自身が気づいてくれて、幸せを掴めた事に、私は、安堵しました。
もし、皆様の中にも、亜子様のようなワガママを言っている人がいるようなら私がお灸をすえてあげますからあしからず。 まぁ、いないと私は信じていますが。
おやおや、もうこんな時間ですか?
では、皆様、またお会いしましょう。
皆様に幸あらんことを
この度、登場した、キャラクターの亜子、健太、雪絵、千夏は、前作のGirls knockout A Boyのキャラクターと姿、仕草、性格等は同じなのですが、Girls knockout A Boy の世界とは違う世界の人間として出演させました。




