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第三話 尊い生命

 おや、皆様こんばんは。また、お会いしましたね。幸人でございます。今日のお客様は、あなたですか? 対価は何を頂きましょうかね?

あ、違うのですか? 冗談でございます。不幸の人にしか対価は頂きませんのでご安心ください。おっと、お客様が来られたみたいですね。

では、皆様失礼致します。皆様に幸あらんことを。


 一人の女子高生が、幸福館の扉を開けた。彼女の名前は、山上琴音。ごく普通の高校生だ。

琴音は、うす暗い幸福館の中を進んでいく。進んで行くと、目の前に扉が現れ、その扉を開けて中に入った。中に入ると、幸人が待っていた。

「こんばんは。この館で幸せ案内人をしてます、幸人と申します」

と、深々とお辞儀をした。琴音は、幸人に誘導され、椅子に座った。幸人も椅子に腰をかけ、水晶玉にむかって手をかざす。すると、水晶玉が光始めた。水晶玉に手をかざしたまま幸人が

「あなたの名前は、山上琴音さんですね」

「はい。そうです」

「では、山上様この水晶玉を見つめてください」琴音は、幸人に言われた通りに水晶玉を見つめると、意識が薄れていった。次第に琴音の瞳が、虚ろになっていく。

幸人が、虚ろな瞳になった琴音にむかって

「さぁ、あなたの不幸を聞かせてください」

と言うと、琴音が

「私は……」


 琴音は、ごく普通の女子高生。そんな琴音が、ある事で、不幸になってしまった。

 琴音は、いつものように、眠い目をこすりながら、授業を受けた。何とか授業をこなして、放課後帰る準備をしていると、琴音のところに二人の不良、夏生と夏奈子がやって来た。

「ちょっと、琴音! 今日、私達に付き合いなさいよ」

と、強引に誘ってきた。 「うん……分かった」

と、琴音は言って、二人に渋々付いて行く事にした。 琴音は、夏生と夏奈子が嫌いだった。

琴音は二人にいじめられていたのだ。いつも、使いパシリにされたり、時には、お金を巻き上げられたりと散々な日々を送っていた。

 もう空は、ほしが瞬く時間になっていた。琴音は、家に帰りたかったが、付いて行かないと後で酷い仕打ちが待ってる事を知っていたため二人の後を追った。

夏生と夏奈子は、仕事帰りのサラリーマンがたくさん集う夜の繁華街に着いた。琴音は、さすがに不安になり

「あの、こんなとこに来てどうするんですか?」 と、夏奈子に言うと

「あんたは、私達に質問なんかしなくていいの! 黙って私達の言う事を聞きなさいよ」

と、睨み付けられた。

「これからあんたには、私達の為に小遣い稼ぎをしてもらうから」

と、夏生が言うと繁華街の中に消えて行った。

「琴音、あんたにはこれから夏生が連れて来るおじさんと援交してもらうからね。私達の小遣いをあんたの体で稼いでもらうから」と、夏奈子に言われ、さすがに琴音は

「そんなの嫌です。私、そんなことしたくない」 と反抗するも、夏奈子に髪を引っ張られ

「うるさいわね! 黙って言う事を聞きなさいよ。あんたが、憎たらしいぐらい可愛いし、スタイルも抜群だからムカつくのよ。だから私達は、あんたが嫌いだから援交さしてお金をもらうのよ」 と、夏奈子は、目を吊り上げて言った。

しばらくすると夏生が、少し禿げあがった頭をしたおじさんと一緒に戻ってきた。

「連れて来たよ」

と、夏生が言うと夏奈子が、琴音を見ながら

「ほら、琴音相手をしてあげなさいよ」

と、琴音の背中を押した。背中を押された琴音は、ふらつき禿げあがったおじさんにぶつかった。おじさんは、荒い息をたてながら、琴音に

「君、可愛いね。スタイルもいいし、今日はよろしくね。ゆっくり楽しもうね」

と、琴音の体をじっくりと見つめてニヤニヤしながら言った。

夏生がおじさんに

「言った通り可愛いでしょ。おじさん、しっかり楽しんで来てね。ちなみに、琴音は、初めてだから優しくしてあげてね」 「初めてなのか。それは、是非優しくしてあげるよ。で、いくらかな?」 「そうだなぁ~、初めてってのを考えて、五万でどうかな?」

と夏生が言った。

「五万で、初めての子と出来るなら安い方だよ。じゃ、よろしくね」

「じゃ、商談成立と言う事で、いってらっしゃい。しっかり楽しんでね」と夏生が言っておじさんを送りだした。

琴音は、抵抗をしようとしたが、おじさんの力は強く、引っ張られてる手を振りほどけなかった。 そうしてる間に、ホテルの前まで来てしまっていた。

「琴音ちゃんだっけ、おじさんが優しく相手をしてあげるから、早く入ろうよ」

と、琴音の耳元で荒い息とともに言った。琴音は 「いや、やっぱりダメです。私は、入りたくない。許してください」

と、必死に抵抗をするも おじさんは、急に険しい表情になり

「ここまで来て、それはないだろ。あんまり抵抗すると無理矢理するぞ」 と、無理矢理手を引っ張り琴音をホテルの中へ連れ込んだ。

ホテルに連れ込まれて二時間後、琴音は、泣きながら出てきた。おじさんは、琴音の腰に手を回して満足気な表情をしていた。

「いやぁ~、琴音ちゃん、良かったよ! おじさんも久々に興奮しまくりだった。また、よろしくね。琴音ちゃんだったら、おじさんお金なら幾らでも出すから。これ、おじさんの携帯番号ね。また、したくなったら連絡してくれよ」

と、言って紙を渡し、帰って行った。

琴音は、ショックで、涙が止まらなかった。

「何で、何で私が、こんな目にあわなくちゃならないの?」

と、何度も何度も呟きながら、繁華街の入口まで辿り着いた。

繁華街の入口には、夏生と夏奈子が待っていた。二人は琴音のところに行き

「早く、お金だしなよ。五万貰ったんでしょ。っか、泣いてんじゃないわよ。たかが、これくらいで」

と、夏奈子が言って、琴音が握っていた、お金を取り上げた。

「私達のお金が無くなったら、また今日みたいに稼いでもらうから、そのつもりでいるのよ」

と、夏生が言って二人は帰って行った。

一人取り残された琴音は、涙が止まらず泣きながら家路に着いた。

家に着いた琴音は、すぐに自分の部屋に入り、布団にくるまり泣きつかれるまで泣いた。

 それからというもの、二週間に一回のペースで、夏生と夏奈子に連れ出され援交をさせられた。

 無理矢理援交をさせられて、五ヶ月たった頃、琴音は、朝起きて、ご飯を食べていたら、急に、気持ち悪くなって、嘔吐した。そんな琴音を見ていた母親が

「琴音、どうしたの? 大丈夫?」

「うん……でも、何だか最近、いつも気持ち悪くって……」

琴音は、母親にいじめられて、無理矢理援交させられたと言う事を告げれずにいた。

学校に行っても、気持ち悪く、昼で早退し、琴音は、もしかしたらと思い薬局で、妊娠検査薬を購入して、家に帰った。

家に帰ってすぐ、調べると、陽性が出てしまっていた。琴音は、言葉を失い検査薬をそのままゴミ箱に捨てて座り込んでしまった。

夕方になって、母親が帰って来て

「ただいま、琴音。今日のご飯は何かな?」

と、キッチンを覗くも琴音の姿はなかった。

その変わりにゴミ箱から、妊娠検査薬を見つけた。母親は、急いで琴音の部屋に行き

「琴音! ゴミ箱から検査薬が出てきたけど、あんた妊娠したの? なんで、高校生のあんたが、こんなバカげた事をしたのよ。ちょっと出て来て何とかいいなさい」

と、母親は、怒って琴音の部屋の扉を叩いた。

母親は、部屋のドアを開けると、座ったまま泣いてる琴音を見つけた。

泣いている琴音を見た母親は、琴音に近づき

「琴音、何があったの? 怒らないから話してごらん。ママは、何があっても琴音の味方だから」 と、泣いている琴音の頭を優しく撫でた。琴音は 今まで、いじめられた事、無理矢理援交させられた事を母親に告げた。

「私だって、最初は、好きな人としたかったし、好きな人の子供を授かりたかった……なのに、なんで私ばっかりこんな目にあうの? もう嫌だ……私、死にたい」

と、母親に抱きつき泣いた。

「ごめんね、琴音。ママが、離婚したばっかりに琴音を育てようと仕事ばっかりに気がいっちゃって、琴音の事考えてなかった。母親失格だね」

「ううん、ママは、私の為に頑張ってたんだから悪くないの。私が、悪くの。ごめんなさいママ」  次の日、母親と琴音は、学校に行って、校長に琴音がいじめられている事を告げ、夏生と夏奈子がいじめを認めた為、二人は退学処分になった。その日の放課後、琴音は、帰宅していたら、夏生と夏奈子が数人の男を連れて、琴音の前に現れた。琴音は、逃げようとしたが、囲まれてしまった。夏生が

「琴音! よくもチクったわね! 許さないから。覚悟しなさい」

と、琴音を囲んでいた、男達に合図して、琴音を殴る蹴るの暴行を加えた。琴音が

「止めて、もう止めてよ。何で、何でこんな事するの?」

と、言っても聞き耳をもたずに夏生と夏奈子が

「あんた達、この子痛め付けたら、犯っちゃっていいから、存分にしてちょうだい」

と、笑いながら言った。 その後も、暴行を受け好き放題されて、琴音は気を失った。気がついた琴音は、足を引きずりながら家に帰る途中に、スーツを着た男の人に呼び止められた。 「どうかなさいましたか? あなた何か、不幸がおありのようだ。不幸のままだと、周りの人にまで不幸がうつるかもしれません。もし、不幸を解消したいのであれば、ここにお越しください」

と、告げ幸福館と書いてあるチラシをくれた。

そうして、その帰りに琴音は、幸福館に立ち寄った。


 琴音は、虚ろな瞳のまま全てを語った。

幸人が、指を鳴らすと琴音は元に戻り、幸人を見つめた。幸人は

「なるほど、あなたの不幸を全て聞かせていただきました。あなたは、これまで起きた事をなかった事にしたいのですね」 「はい……出来るのであれば……お願いします」 と、琴音は暴行を受け傷ついた体の痛みにこらえながら言った。

「分かりました。あなたの不幸を解消します。その変わりにあなたの一番大事な物を対価として頂きますがよろしいですか?」

「大事な物って言われてもよく分からないですけど、分かりました。お願いします」

「では、あなたの不幸を取り除きます」

と、幸人は、琴音の前に立ち琴音に手を向けると、手がゆっくりと光を帯びてゆく。しばらくすると手の光が消えて

「これで、貴方の対価は頂きました」

と、幸人は琴音に告げ、再び琴音の額に指先で、おまじないを書いた。

「これで、全て終わりました。あなたは、幸せになれますよ。ただし」

「ただし……何でしょうか?」

「貴方が、私に対価を払ったと言う事を誰にも言ってはいけません。もし、誰かに言ってしまうとたちまち不幸がふりそそぐ事になりますからお気をつけください」

「分かりました。もう不幸になんかなりたくないから……誰にも言いません」

「では、琴音様あなたに幸あらんことを」

その瞬間、琴音の目の前が真っ白になり、琴音は、意識を失った。


 目が覚めた時には、幸福館が消えていた。

琴音は、不思議に思いながらも家路に着いた。

家に着いた琴音は、リビングに行くと、母親が待っていた。母親は、琴音のアザだらけの身体を見て

「琴音! どうしちゃったの? そのアザは? 何があったの?」

と不安な表情を浮かべて聞いた。

「放課後、帰ってる途中に、待ち伏せされてたみたいで、暴行受けたの。しかも、男の人数人連れていたみたいで、無理矢理……私、もう学校行きたくない」

と、言った時に琴音は、腹部に激痛がはしった。 琴音は、腹部を押さえうずくまった。母親が

「琴音! 琴音! どうしたの? お腹が痛いの?」

「急に、お腹が痛くなったの。痛いよ、ママ、痛いよ」

と、言った途端に琴音は倒れてしまった。

母親は、慌てて救急車を呼び、病院へ搬送してもらった。

病院で、診察を受けた結果、気を失っている琴音の横で、先生が母親に

「琴音さんのお腹の中にいた赤ちゃんなんですが……ひどく腹部に暴行を受けられていて、赤ちゃんの心臓が動いていません。すぐに、取り出さないと、琴音さんの命にも関わります」

と、先生に説明され母親は

「琴音の命を助けてください。お願いします」

と、頭を下げた。

そうして、手術をし、琴音は助かった。

琴音が目を覚ました時、母親は、琴音の手を握りしめていた。

「ママ、ここは……?」 「病院よ、琴音が倒れたから救急車で搬送してもらったの。それでね、琴音のお腹の中にいた赤ちゃんなんだけど……暴行を受けた時に赤ちゃんにも影響があって、心臓が動いてなかったの。それで、琴音の命にも関わるから、赤ちゃんを取り出したのよ」

と、母親は、琴音の手を強く握りしめながら言った。琴音は

「そうだったんだ……赤ちゃんには、悪い事しちゃったけど……もし、産んでても、幸せには出来なかったかもしれないし……」

と、涙をこらえながら言った。その時、琴音は、あの時に払った対価が、お腹の中の赤ちゃんだったんだと気付いた。

 退院してからは、琴音は、転校して、違う学校で、楽しく過ごしている。いじめられる事もなく、友達もたくさん出来て、幸せな日々を過ごしている。琴音をいじめていた、夏生と夏奈子は、琴音の母親が、学校と警察に連絡し、今は、保護観察処分を受け暮らしている。


 おや、皆様いらしたのですか? いじめに耐えながら、過ごすのが嫌で、幸福館に訪れた琴音様。対価は、赤ちゃんを頂きましたが、今は、友達も出来て幸せに暮らしていられるようで、私としても、嬉しく思います。 琴音様をいじめていた、二人は、琴音様の不幸がうつったみたいで、大変そうですね。皆様も不幸を招く者には、必ず見返りが来ると言うのを覚えておいてくださいね。

おやおや、もうこんな時間ですか?

では、いずれまたお会いしましょう。皆様にも幸あらんことを


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