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第二話 復讐心

 皆様、またお会いしましたね。幸せ案内人の幸人でございます。

今回は、どんな不幸な人が来るのか? 対価は何を出すのか? 気になりますが、皆様のはやる気持ちは分かりますが、落ち着いてくださいね。

 おやおや、お客様がいらっしゃいました。

では、失礼致します。皆様に幸あらんことを。


 この日も、一人の男の人が幸福館の扉を開いた。彼の名前は結城直人。彼は、まだ若手のサラリーマンだ。直人は、一番奥の部屋まで行くとそこに、幸人が待っていた。 「こんばんは、私は、幸福館の幸せ案内人の幸人でございます」

丁寧にお辞儀をする。

直人は、幸人に案内され椅子に座った。幸人も椅子に座り水晶玉に手をかざす。水晶玉が、ゆっくりと光をおびてゆく。

「あなたの名前は、結城直人さんですね」

「そうですが……」

「では、あなたの不幸を教えて下さい」

直人は、水晶玉を見つめると、意識が薄れていくのを感じた。そして、虚ろな瞳になり

「僕は……」


 直人は、上司から期待されている、若手の会社員だ。先日も、直人に任された会社のプレゼンが大成功に終わった。直人は、その事を一番最初に、三年前から同棲している彼女、三神志穂に伝えた。

「凄いじゃない! 直人!」

「うん! ありがとう。志穂が応援してくれたおかげだよ」

二人は、その日の夜プレゼン大成功を祝して、缶ビールで乾杯をした。


 一方、直人のプレゼン成功を喜ばない人もいた。直人と同期入社の山中康弘だ。康弘は、いつも直人と比べられるのが、腹立たしくて仕方なかった。しかも、直人が、プレゼンを成功させたと言うのは、悔しいほかなかった。いつも、部長には 「お前は、直人を見習ってしっかりやれ」と叱られてしまい、皆の前で恥をさらしてしまう始末。そんな毎日が嫌で仕方なかった。

康弘は、いつか直人に何かしてやろうと考え、一ヶ月後の直人と康弘の共同のプレゼンの日を迎えた。プレゼンは、直人のおかげで、成功したのだが、プレゼンが終わった次の日に、直人は、部長に呼び出された。

「直人! 昨日のプレゼンめ良かったぞ」

「ありがとうございます。部長」

「しかしだな、今日の朝、私の机の上に置いてあったんだが……お前が、会社のお金を横領して、プレゼンを成功させたという手紙が置いてあったんだが……どういう事なんだ」

と、部長は、不信感を募らせ直人に聞いた。

「僕は、会社の金を横領なんてしてませんよ。何かの間違いです」と、きっぱりと否定をしたのだが、部長は、書類を手に「しかし、此処に証拠があるんだ。お前が、横領した金額三百万の証拠がな! お前に期待していた私が馬鹿だったよ。お前は、もういい、クビだな」

「そんな……部長、待って下さい。本当に何かの間違いです」

と、直人が言っても部長は聞き耳を持たない。そんな中部長は、康弘を呼んだ。部長室をノックし、康弘が入って来た。

「部長、お呼びですか」「康弘、今日から、お前が直人に代わって頑張ってくれよ。直人は今日で退職だからな」

「そうなんですかぁ~、分かりました」と、康弘は不敵な笑みを浮かべて直人の方を見て言った。部長室から出た、直人は康弘に

「康弘! お前どういう事だよ。経費に関してはお前に任せておいたはずだぞ。それが、どうして、俺が会社のお金を横領した事になってんだよ」「はぁ~、何言ってんだよ。全ての責任は直人が持つんだろ。責任とって辞めるのは当然だな」

と、苦笑しながら言った。そんな康弘を見た直人は、咄嗟に康弘の胸倉を掴んで

「康弘、お前の仕業だな。白状しろよ」と、怒りを抑え切れずに睨みつけた。

「勝手に俺のせいにされても困るなぁ~。まぁ、強いていうなら、いつまでも、調子に乗ってたからバチが当たったんだろうな。いい気味だよ」

と、康弘はこの期に及んで不敵な笑みを強めた。直人は、そんな態度の康弘に怒りが爆発し、康弘の顔面目掛けて、拳を放った。

「きゃぁ~、喧嘩よ」と、女子社員の悲鳴に我に戻った直人は、康弘に

「お前だけは、許さないからな」

と、言って会社を後にした。

直人は、志穂に会社をクビになった事を告げられず、いつも帰ってる時間まで公園で過ごす事にした。公園にいても、康弘に対する怒りはおさまらずにいた。そんな直人の元に、不思議な格好をした男が声をかけてきた。「何か、不幸がおありのようですね。その不幸を解消したいのであれば、此処にいらしてください。そうすれば、幸せな人生が、戻って来ますよ」と、チラシを渡した。

チラシを渡された直人は、チラシに目を通すと、『あなたの不幸を取り除きます。幸福館』と、書いてあった。直人は、半信半疑だったが、とりあえず幸福館に行ってみる事にした。

そうして、幸福館に辿り着いた。


 直人は、虚ろな瞳のまま、全てを語った。

幸人が、指を鳴らした瞬間直人は、虚ろな瞳から元に戻った。元に戻った直人に幸人は静かに語りだした。

「あなたの不幸を聞かせて頂きました。あなたは、同僚のせいで、会社をクビになった。そうですね?」

「はい……そうです」

「分かりました。では、その不幸を取り除きましょう。その変わり」

「その変わり? 何ですか?」

「不幸を取り除く変わりに、あなたにとって一番大切な物、すなわち対価を払って頂きます」

「それってお金ですか? 持ってないんですが」「いや、お金じゃありません。あなたが、今一番大切にしてる物ですよ」「はぁ、分かりました。払いますので、お願いします」

と、直人が言うと幸人は、直人の前に来て人差し指を直人の額につけた。そうして、幸人の指がゆっくりと光を放ちはじめた。そして、幸人の指から光が消えていく。

「これで、対価は頂きました。あなたは、不幸から抜け出せ、幸せを掴めますよ」と幸人は告げた。直人は、呆気にとられたが

「ありがとうございます。助かりますました」

と言うと、幸人が

「ひとつ約束してください。私に対価を払って、幸せになった事は、他言無用ですよ。もし、誰かに言ったら、その時点で再びあなたに不幸がふりかかりますから」

「分かりました。気をつけます」

「では、直人様に幸あらんことを」

直人は、その瞬間、気を失った。

直人が、目を覚ますと、そこにいたはずの幸福館は消えていた。直人は、対価はなんだったんだろうと気になっていたが、とりあえず家路に着いた。

家に着くと、すでに志穂が、夕御飯の支度を済ませ待っていた。

「直人、今日は遅かったのね。忙しかったの?」「あ~、いろいろあってね」

直人は、クビになった事を志穂には言えずはぐらかした。

 次の日も、直人は公園で時間を潰した。公園で、ボ~ッとしていても、昨日の事を考えてしまい康弘に対し復讐心しか出てこないでいた。直人は、ふとホームセンターへ行き、刃渡り二十センチはあろう包丁を購入して、会社に向かった。直人は、包丁を隠し持って、康弘を探した。康弘を見つけた直人は、康弘に気付かれないように近付き「康弘! お前だけは、絶対に許さない。死んでしまえ」

と、直人は、大声で康弘の元へ駆け寄り、隠し持っていた包丁で康弘の胸部を二カ所、腹部を三カ所めった刺しした。

康弘は、抵抗する間もなく即死だった。直人は、康弘のかえり血が全身に飛び散っていたが、そんな事は、お構いなく大声で笑いながらその場に座った。

「こ、これでついに復讐が終わったぞ。康弘、ざまあみろ」と、言って康弘に刺さったままの包丁を抜き取った。

そんな惨劇な状況を見た、社員が

「人殺しだぁ~、誰かぁ~」と、助けを呼んだ。社員達が、だんだんと集まってきて

「警察を呼んで、早く」など慌てていた。

直人は、周りが慌てているのにも関わらず復讐出来た事に満足感を感じていた。

しばらくすると、警官がやって来た。警官は社員に案内され現場に着くと死んでいる康弘の隣に座っている直人に

「お前が、やったのか? お前の名前は?」

「結城直人です」

「結城直人、殺人容疑で逮捕する」

警官は、直人の腕を掴み冷たい手錠をかけた。

直人は、そのまま警察署へ連行された。

直人の犯した罪を聞かされた志穂は、信じられなかったが、警察署に行って、直人との面会を申し出た。しかし、面会は許されなかった。志穂は、直人宛てに手紙を書き、それを警察官に渡した。直人は、志穂の手紙を受け取り、手紙を見ると

「直人、あなたが殺人を犯すなんて信じたくはないけど……私は、そんな人と結婚なんか出来ません。別れましょ」

と、書いてあった。

その時、あの幸福館で払った対価が、志穂との関係だったと言う事に気づいた。

それから、しばらくして直人は刑務所に移され、服役している。直人は、結婚を約束していた志穂を失ってしまったが、直人は、康弘に復讐出来た事に幸せを感じながら牢屋の中で過ごしている。

 おや、皆様いらしたのですか? どうも幸人です。この度、直人様には、彼女との関係を対価として払って頂きました。直人様は、復讐をして幸せを感じられていたみたいですね。他人の幸せとは、他人それぞれです。誰がどのようにして、幸せを感じるのかと言うのは、なかなか分からないものですね。

ですが、直人様は殺人を犯してしまいましたが、直人様自身が、幸せを感じていると言うことは、運命なのでしょう。

私の後ろにある棚に、直人が払った対価が追加されましたね。おや、皆様には、見えませんか? 後一体いくつ対価が集まるのやら。

では、皆様この辺で失礼させて頂きます。もしかしたら、次のお客様はあなたかもしれませんね……

皆様に幸あらんことを

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