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第一話 家族の絆

今回は、ミステリアス連作短編集っぽくしてます。

 皆様、こんばんは。私は、幸福館で幸せ案内人をしています幸人(ゆきひと)と申します。これから、皆様とは、度々お会いする事になると思いますのでお見知り置きを。

皆様は、何故私が、このような幸せ案内人をしているのか気になっていると思いますが……今は、秘密にしておきましょう。強いて言うなら、ある御方からの指令とでも言っておきましょうか。

また機会がある時にお話いたします。

おや、お客様がいらっしゃたみたいですね。では、皆様この辺で失礼致します。皆様にも、幸あらんことを。


一人の女の子が、幸福館に訪れた。女の子の名前は、姫野弥生。中学一年生だ。

弥生は、幸福館の扉を開け中に入る。幸福館の中は、薄暗く、唯一蝋燭の灯が、ぼんやりと部屋の中を照らしていた。部屋の中を進んで行くと、もう一つ扉があった。その扉を開け、中に入るとそこには、全身黒のタキシード、頭にはシルクハットを着た、男の人が立っていた。

弥生は、霧のようなモヤが立ち込める中、男の人がいるところまで行くと 「ようこそ、幸福館へ。私は、この幸福館で幸せ案内人をしています、幸人と申します」と、丁寧にお辞儀をしてみせた。 幸人に誘導され、弥生は椅子に座る。

幸人も弥生に向かい合って座り、机の上にある水晶玉に手をかざすとゆっくりと話し出した。

「あなたの名前は、姫野弥生さんですね」

「えっ、何で私の名前を……」

「水晶玉が、教えてくれたのですよ」幸人が、手をかざしている水晶玉がゆっくりと光をおびてゆく。弥生は、水晶玉を見つめると、意識が遠退いていく感覚にみまわれた。その後、弥生は、誰かにとりつかれたように、虚ろな瞳で遠くを見ていた。そんな弥生に幸人は 「さぁ、あなたの不幸を教えてください」

弥生は、虚ろな瞳のまま、話し出した。

「実は……」


 弥生は、父と母と三人で暮らしていた。弥生の父は、大手企業の社員で 母は、専業主婦だった。 近所でも仲のいい家族と評判だった。弥生はと言えば、中学の陸上部に所属し、一年にして陸上部のエースと呼ばれ、全国大会で優勝するぐらいの実力の持ち主だ。

そんな弥生を親の二人はとても愛していた。

弥生も、いつも優しい親が大好きだった。

弥生の誕生日には、決まって高級レストランで食事をしたりと弥生にとっては毎日が幸せだった。  しかし、そんな幸せは突如として消えていく。 それは、父親が、部長に昇進した事から始まった。父親が、部長になってからというもの、いつも、帰りが深夜を過ぎるようになった。夕御飯は、家族全員揃って食べていただけに、最初は、仕方ないと思っていたが、毎日となると弥生も母親も不満が積もっていくばかりだった。唯一の日曜日にも、今までだったら、家族サービスをしていたのだが、全くしなくなっていた。そんな父に対して母が、とうとう不満を言った。「あなた、最近、仕事ばっかりで帰りも遅いし、日曜日には、ゴロゴロばっかりして、折角の日曜日ぐらい、家族サービスしなさいよ。部長になってからというもの、全然家族を省みてないじゃないの。本当にいい加減にして」

「うるさい! こっちは、仕事で毎日忙しいんだ。ゆっくり出来るのは、日曜日しかないんだ」 と、ケンカをするハメになった。

そんな状態が続き、日曜日になると口ゲンカばかりする親に対して、弥生が

「パパもママもケンカは止めてよ。いつもの優しいパパとママに戻って仲良くしてよ」

と、親のケンカを止めに入るが

「弥生は、関係ないのよ。これは、パパとママの問題なの。弥生は黙ってなさい」

と、怒鳴られる始末。

そんなギクシャクした日が続くうちに、父親と母親は会話もしなくなった。母親は、家族の事を考えない父親に嫌気をさして、通っていたエアロビの先生と浮気を始めた。 いつの間にか、夕御飯は弥生一人で食べるようになった。夕御飯も、母親の手作りではなく、レトルト食品が置いてあり、 「これを食べなさい」と置き手紙があるだけだ。 そんな中、母親が

「もう、私達は終わりね。離婚して下さい」と離婚届けを突き付けた。

父親は、離婚届けにサインをして

「お前とは、離婚だ。ただし、弥生は俺が育てるからな。弥生も、その方が幸せだ」それに対し

「仕事しか頭にないあなたに、弥生が育てられるもんですか。弥生は、私が育てます」と、言い返し、平行線のままだ。弥生としては、三人仲良く暮らしたいのだ。

弥生は、学校に行っても、これからの事を考えると憂鬱な気持ちになり、部活にも身が入らないでいた。憂鬱な気持ちのまま、部活を終え家路に着く途中に、すれ違う女子高生達の噂話に耳を傾けた。

「ねぇ~、知ってる? 何か、不幸の人にしか入れないサイトがあるらしいよ」

「え~、何それ? 気味悪い」

「何か、深夜零時になって、インターネットのサイトで、『幸せ案内人』って検索したら、出てくるんだってぇ~」

弥生は、女子高生の噂話を聞いて

「本当なのかな? 噂話っぽかったし、そんなんで幸せに戻れたら苦労なんかしないわよ」と、自分に言い聞かせ家路に着いた。家に帰っても両親はおらず、弥生は用意してあった夕御飯のレトルト食品を食べ、自分の部屋にこもった。

何もする訳でもなく、ボーッとしていると、あの噂話が頭をよぎった。時計を見るともう深夜零時を指していた。

弥生は、試してみる事にして、パソコンのインターネットで、『幸せ案内人』と入れると、サイトに繋がった。

サイトには

「あなたの不幸を解消します」と、大きく書いてあった。弥生は、藁をもすがる思いで、幸福館の場所をメモして、明日の学校の帰りに寄ってみる事にした。

そして、幸福館にやって来たのだ。


 弥生は、虚ろな瞳のまま、全てを語った。幸人が指をパチンとならした瞬間弥生はもとに戻り、キョトンとしていた。

幸人は、弥生に静かに話し出した。

「あなたの不幸は、どんなものか、聞かせて頂きました。あなたは、昔みたいに仲のいい家族に戻り暮らしたい。そうですね?」

「はい……そうです……叶うのであれば、幸せだった時の家族に戻りたいです」と、弥生は瞳に涙を浮かべながら言った。 「分かりました。あなたの不幸を取りましょう。ただし……」

「ただし? 何ですか?」と、弥生は不安な表情を浮かべる。幸人は、そんな弥生に構わず言葉を続ける。

「幸せにするには、条件があります」

「それは、何ですか?」 「あなたの一番大切な物を対価として頂きます」 「一番大切な物って急に言われても……何にも持って来てないんですけど……」

「そうですねぇ、例えば、あなたは陸上部のエースで足が速いですよね? そういう身体の部分的な事でもいいんですよ」 「はぁ、じゃ、もし、足を対価に出したら、足が無くなるんですか?」

「いえいえ、足が無くなる事はありません。ただ、二度と走れなくなりますが。対価と言うのは、そう言う事です。自分の大切な物を失う変わりに幸せを差し上げているのですよ。さぁ、どう致しますか?」

「じゃ、私が走れなくなる変わりに家族は元に戻れるんですね」

「はい、お約束いたします」

「だったら、私の足を対価として出します」

「かしこまりました。では、足を対価として頂きます」と、幸人は弥生の足に向かって手をかざす。幸人の手がゆっくりと光だした。その時、弥生は、足が重くなったのを感じた。幸人の手から光が消えていく。

「これで、対価としてあなたの足を頂きました。これで、終了です。ただ、注意する事があります。あなたは、私に対価を払いました。ずっと幸せでいたいのなら、対価を払った事は誰にも言ってはいけません。もし、言ってしまうと、たちまちあなたに再び不幸がふりかかりますので気をつけてくださいね」「分かりました。誰にもいいません」

幸人は、弥生の前に立ち、弥生の額に人差し指をつけて、さらさらと、おまじないを書いた。

「では、姫野弥生に幸あらんことを」

弥生の目の前が、真っ白になっていく。


 弥生は、気がつくとさっきまでいたはずの幸福館が消えていた。弥生は、 「さっきまでのは、全て幻だったのかな?」と、思ったのだが、足が妙に重い感覚はあった。

もうすでに空は暗く、満天の星が輝いていた。弥生は、急いで家路に着こうと帰っている途中、横断歩道で、信号待ちをしていた弥生に猛スピードで信号無視をしてきた車に轢かれ弥生は五メートルほど引きづられ意識を失った。

 弥生が、意識を取り戻したのは、二日後の事だった。弥生が、目を覚まして辺りを見渡すと、両親が心配そうな顔をして見ていた。

「弥生、弥生! 良かった。無事で」

母親は、涙を浮かべ喜んでいた。

病室のドアがノックされ、先生と父親が入ってきた。

「弥生さん、目が覚めましたね。良かった」と、先生は弥生に声をかけ、診察を始めた。弥生は、ベッドに座ろうと身体を起こしたが、足が動かない事に気付いた。

「先生、私の足動かないんですけど……」

と、不安そうな表情で、先生を見ると

「先程、ご両親にはお話すたんですけど……事故にあわれて、ここに運ばれて来た時には、重症でした。すぐ、手術をし、生命はとりとめましたが、事故の衝撃がすざましく脊椎を損傷されていて、下半身に麻痺が残ってしまったのです。残念ながらもう、車椅子生活になると思います」

「えっ、じゃあ、もう走れないどころか、歩けもしない……って事ですか……」

「はい、残念ながら」 先生は、静かに頷いた。 診察を終えて、先生が出て行ったあと、弥生の両親は

「弥生、ごめんな。パパとママが、ケンカばかりして、弥生を一人ぼっちにさせてしまったせいで、こんな事に……これからは、弥生とママの事を大事にしていくから。弥生も、頑張ろうな」

「パパ……」

「弥生は、私達の大切な娘なんだから、弥生の足が動かない分、パパとママが弥生の足になるからね。安心して」

「ママ……じゃ、また三人一緒に仲良く暮らせるの?」

「もちろんだ」

「もちろんよ」

と、両親が声を揃えて言った。その言葉に、弥生は涙して

「嬉しい、パパ、ママありがとう」

三人は、昔の穏やかだった時の笑顔で見つめあった。

 一ヶ月後、弥生は退院した後も、昔のように仲良し家族に戻り、幸せに暮らしている。

弥生は、あの時、対価として自分の足を払って、車椅子生活というハンデを背負う事になってしまったが、その分、また、家族が一つになれた事に幸せを感じながら暮らしている。


 おや、皆様? 見ていらっしゃったのですか? どうも、幸人です。 この度、弥生様は、自分の足を対価として払いました。その為、車椅子生活となったのですが、弥生様が願った幸せを取り戻す事が出来ましたね。 私も、幸せを案内出来て嬉しく思います。

おや、もうこんな時間ですか? では、皆様またお会い致しましょう。次に、この幸福館に訪れるのは、あなたかもしれません。

それでは、皆様に幸あらんことを……

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