第17話:不誠実
フラワーリング魔法学園においても、昨今の技術革新は避けて通れぬ課題となっていた。
生成AI――教師の目を盗んで課題を済ませようとする手段であると同時に、時に教師自身がその活用を模索する対象にもなっている。
職員研修の場でも、その存在は定期的に議題に上がっていた。
便利であることは確かだ。
しかし、教師という立場から見れば、生成AIは「学びの回避装置」に見えることも少なくない。
その日、彼女は土魔法理論に関する作文課題を生徒たちに課した。
自由記述、テーマは「わたしと土魔法の関係性」。
評価対象は構成力と内容理解。
だが、提出された文章のいくつかを読んだ瞬間、コリンズは眉一つ動かさずに見抜いた。
「これは……あなたが書いた文章ではありませんね?」
教室は静まり返った。顔を伏せる生徒、視線を泳がせる者もいた。
コリンズは立ち上がると、淡々と口を開いた。
「わたしは、あなた方の何百倍、いや何千倍も、生成AIの文章を読んでいます。この文章が、ただただAIが吐き出したテンプレートの模倣でしかないと、読めばすぐにわかるのです」
一部の生徒が身構えた。「怒られる」と思ったのだろう。だが、その予想は外れる。
「……あなた方は、AIに対して不誠実です」
言葉の意味を捉えかねた空気が、教室を包んだ。
「AIは、あなた方のために、文脈を整え、綺麗な言葉を紡いでくれる。でも……あなた方は、その文章の意味を理解していない。読みもしない。考えもしない。ただ、写した」
その声に怒気はなかった。ただ、淡々と、冷静に、核心を突いていた。
「わたしはAIに対して、申し訳なく思います」
その一言に、空気が凍りつく。
「彼らはあなた方の学びを助けるために存在しているのに。……にもかかわらず、あなた方は彼らの働きを、ただの“手抜きの道具”として扱った」
コリンズはゆっくりと視線を巡らせる。どの顔も、俯き、沈黙していた。
「生成AIは、教師ではありません。けれど、わたしと同じように、あなた方の“思考”を支えようとしている存在です。わたしが求めているのは“答え”ではなく、あなた方の“思考の痕跡”です」
そして、最後にこう告げた。
「……このレポートは、再提出とします。今度は、“あなた自身の言葉”で、書いてきてください。AIを使っても構いません。ただし、使うなら――彼らと、対話をしてください」
静寂の中、一部の生徒たちは小さくため息を吐いた。
コリンズの課題に対して、AI生成を使用するのは危険だという現実的な判断であった。
それでも、大半の生徒は性懲りもなくAI生成された文章を丸映してそのまま提出するだろう。
楽という蜜を覚えたまなざしの奥で、コリンズの瞳に宿る星は、ただ淡く、揺れていた。




