大団円
再びジンは目が覚める。
「夜か、みんな寝てるよな」
立ち上がると調子はだいぶ戻っていた。
自室に向かって歩く、少しはぼおっとするが起きたばかりだからだろうか。
「誰か起きてるか探しに行くか」
自室の扉を開けると小さな悲鳴が聞こえる。
電気をつけるとオリヴィアが立っていた。
「オリヴィアか、何してんだ?俺の部屋だよな?壁に銃もあるし、、、」
壁のリボルバーとミリアをチラッと見て目線を戻す。
「な、なんでもありませんわ。それより、大丈夫ですの?」
目が少し赤く腫れている。ジンが起きるまでジンの部屋で泣いていたのだろう。
ジンは特に詮索せずに椅子に座る。
「俺は大丈夫だよ。それよりお前の方こそ大丈夫か?その、、、家族のこと」
オリヴィアは少し微笑みながら話す。
「私が家族に嫌われていたのは彼らの本心ではなかったということが分かりましたし、まあ、本心なんて今となっては知るすべなんて無いのですけど」
しんみりとした空気になる。
それを察したのかジンの心を読んだのかオリヴィアはすぐに言葉を続ける。
「元々そこまでの思い入れがなかったってことですわ。むしろ、お兄、、、ジンが死んだ時の方が辛かったですわ」
オリヴィアの見つめてくる目に一瞬闇が見えジンはドギマギする。
勘違いなら恥ずかしいところだがジンははっきりとオリヴィアに告げる。
「兄と思うなら兄と思ってくれて構わない」
「、、、本当ですの?、、、に、兄様」
「恥ずかしいか?まあ、そのうち慣れるさ」
ジンは立ち上がり用事があると部屋から出ようとする。
「一緒に寝たいですわ」
「それは甘えすぎだ」
「前は良かったではありませんか」
「ダメだ」
「ケチ」
オリヴィアはプリプリしながら部屋を出ていくがその背中はとても軽やかであった。仲間に依存しているのは少し心配ではあるが強い絆がある証だろう。
オリヴィアが出て行ったのを見届けた後、ジンは談話室に向かう。
特別長い間船から離れていた訳ではないが、とても久しぶりのように感じているようだ。
「エリア長は流石に寝たか」
「起きてますよ」
後ろからマーガレットの声が聞こえる。
びっくりして立ち上がり振り返ると部屋の暗がりの場所に立っていた。
「うお、えっと、その、、、どうだ調子は、って顔も見たくないよな。さっきも目があった瞬間部屋から出て行ったし」
色々な感情が込み上げてしまい、いつものジンとは違うギクシャクとした話し方になる。
マーガレットは冷静に答える。
「あれは、、、あなたにまだ傷が治ってない顔を見せたくなくて、、、それとこれです」
その手にはジンのコートが握られている。
腕を切り落とされた時にコートも切られたのだろう肩の部分が縫われて修復されている。
顔の部分が暗がりから明るい場所に来るとまだ怪我が残っているのがわかる。
アルガスが加減せずに盾を使って殴ったのだ、いくら頑強な体を持っているとはいえ深い傷に違いはないだろう。
近くに並んで座るマーガレットの顔の傷をジンは指でそっとなぞる。一瞬ビクッと体を震わすがマーガレットも拒絶はせずそのまま手のひらに顔をそっと沿わせる。
「傷は治るのか?」
「はい、幸いな事に骨の変形まではいっていないので」
「よかった」
ジンは我に帰りマーガレットの顔から手を引こうとした。しかし、マーガレットはジンの腕を掴み、頬を撫でるのを続けるように無言で促す。
しばらく二人は談話室で静かに過ごしていた。
「ジン、あなたに謝りたいことがあります」
マーガレットは改めてジンに胸中を伝えようとする。
「あの時あなたを責めたのは私の未熟さであり、逃げでした。あなたと話すことが真剣に向き合うという事だと今は感じています」
ジンとマーガレットは向き合わず肩を並べたまま会話する。
「何から話す?あんたの、、、君の言うことは全部受け入れるぜ」
マーガレットは少し驚く、
「ジン、少し変わりましたか?」
「んー、まあそうだな、、、変わったかな。誰かの背中を追いかけるんじゃなくて、自分らしさってのも大事だなと感じてな」
「、、、いいと思います」
マーガレットは立ち上がりジンの前に立つ。
疑念や迷いなど一切ない綺麗な瞳でジンに伝える。
「あなたを許します。一族の仇はきちんと取れました。そもそもあなたに責任はないですけど、あの時私はあなたを責め、殺そうとしましたので今ここできちんと謝罪させてください。本当にすみませんでした」
マーガレットは涙を流していた。
「なんで君が泣くんだよ。謝る必要もない、俺がやったことは許されないことなんだから」
涙を拭いマーガレットは言葉を返す。
「だって、好きなんですもん、、、あの時、あなたに感情に任せてぶつかったことをずっと後悔してました。会いに行ったら死んでましたし、、、もう謝ることも怒ることも笑うこともできないと、、、思って」
ジンは顔には出さないが焦っていた。一千年生きて好意を寄せてくれたのは彼女だけであり、その彼女が泣きながら想いを伝えているのだ。しかし、彼にはどう反応すればいいのか分からない。
感情のままに出た言葉で返答する。
「傷つけて悪かったマーガレット、本当の事を隠して一緒に生活する間も楽しかったから、この時間を失いたくないと思ったんだ。本当に自分勝手だったと思ってる。すまなかった」
その言葉を聞いてマーガレットは顔を上げチラチラ見てくる。
「、、、それだけ?」
「えっ、、、」
ジンはしばらくしてやられたと思った。
マーガレットの中でかつての遺恨には既にけじめをつけていたのだ。
「お前なあ!」
「それだけなんですか!」
ジンは口を尖らせ不服そうに顔を逸らしながら答える。
「オーケーだよ」
「よく聞こえませんでした、はっきりいってください」
「こんの、、、ふう、マーガレット、俺と付き合ってくれないか?」
「はい!」
マーガレットはジンに抱きつき即答する。
「さっきの話は全部演技か?」
「演技ですけど本当の気持ちでもあります。私はあなたの事が大好きですよ、ジン!」
二人はしばらく談話室で話をする。
先ほどとは打って変わって部屋は賑やかで明るい。
明日なんて来ずにずっとこのままがいいという気持ちと共に明日を歩みたいと言う気持ちが彼らを満たしていた。




