生きろ
一千年間のことは覚えていないことも多い。
嫌なことは忘れるようにしていた。
それでも、殺した相手のことは忘れられない。
覚えておかなくてはいけないといった罪の意識からではない。
最強最悪のケーススタディ、殺した相手を忘れてしまっては死んでも生き返るという強みを最大限に活かしきれない。
作られた時、感情は乏しいなんてものじゃなかった。
感情は不要だった。だから上から蓋をされた。
死ぬのが怖い、生きるのが楽しい、殺されて怒る、子供を殺して悲しい、喜びなんてもってのほかだった。
しかし、ある恩人のおかげで俺はその全てを感じることになる。
それはいつもの任務だった。
いつも通り、ポッドの前に研究員が立ちターゲットを提示する。俺はその指示通りに任務をこなす。
「今回のターゲットはこいつらだ。最近は死ななくなったが、気を抜くなよ、、、と言ったものの貴様は気を抜くことはないだろう。その行為にリラックスも感じないのだからな」
今思えば随分と好き勝手言われたような気がする。
ポッドを出ていつも通りカタナを手にして任務地に向かう。
今から一年ほど前になる。
その時の任務がサイント族の皆殺しだった。
流石にサイント族、皆殺しにするのに最初二回ほど死んだ。しかし、その後は無傷で一方的に虐殺する。ラボで意識転送が完了した瞬間、前回死亡したボディを媒介にワープホールの出口を生成する。ロスタイムをほぼ無しで再出撃する。
全員を殺し終わった後、いつも通り帰還しポッドに入る。そこから五日も経たないうちにマギアロイドは一人の男に襲撃される。
それがレッドアームだ。
ポッドの中で行われていた戦闘の再ラーニングが停止する。
「サイント族皆殺しか、、、俺様の仲間に手を出したってのはお前らかい?」
あの時、ポッドから外が見えた。ブラスターリボルバーで次々と撃ち抜かれていく研究員たち、悲鳴や血飛沫、緊急ボタンなど押す暇もなく殺される。まさに地獄と化していた。
レッドアームはポッドの前に立ち俺に言葉を発する。
「お前が、、、ここで作られたのか?ふむ、、、可哀想だな。感情も知らず、自由も知らずに、、、か」
レッドアームはしばらくポッドを眺めていたと思う。
悩んだ末に俺の頭をポッド越しに撃ち抜く。
彼は背を向け帰ろうとした時、異変に気づく。
意識転送が行われた体のポッドが開かれたのだ。
いくら緊急ボタンが押されなかったとしても、ポッドが破壊されたなら自動で緊急事態に移行する。しかし、俺という兵器の内容までは知らなかった。
レッドアームは振り返り呟く、
「おいおい、、、マジか」
ポッドから飛び出した俺は無言でレッドアームに切り掛かった。
レッドアームはその一撃を躱しすれ違いざまに頭にブラスターを撃ちこむ。
再び死を迎えるがまた新たな体で生き返り襲い掛かる。
一千年生きてきて彼ほど強い人物と戦ったことはなかった。
何度も死に相手の動きを学ぶ中でふと気づく、俺が死んでいる間に彼は俺のカタナを回収、破壊しなかったのだ。なぜなのか、当時の殺戮兵器だった俺はそんなことは考えずに戦い続けた。
しばらくして、レッドアームは怒りに満ちた声で話しかける。
「お前に同情する部分はある。だがな、、、ますます腹が立ってきたぜ。いくら心に蓋されたからってこんな何も考えて無い奴に俺様の仲間、友人は無意味に!!殺されたのか!!」
レッドアームがその名の由来である。赤い片腕を露にする。今思えばあれは神骸だったのかもな。
そこからは、一瞬でとんでもない回数死んだことを覚えている。
そして、その死こそが俺を解放へと導いたんだ。
一千年の間に死んだ回数は15,768回、内レッドアームに殺されたのは534回、あの戦闘の前までは俺は一年間に15回ほど死亡するくらいだった。しかし、半日も経たない短時間の中で行われた500回に及ぶ意識転送はそのシステムにバグを生み出した。
蓋されていた俺の感情が徐々に開き始めていたんだ。
レッドアームもそれに気づいていた。
だからこそ最後は俺を解放することに全力を尽くしていたのだと思う。
「たた、、、かい、、た、、く、、ない」
俺は必死に言葉を口にした。永らく喋っていなかった言葉は俺の喉を痛みと共に通過する。
戦いたくなかった。しかし、意識転送の際にどう足掻いても彼を殺すという自身に刻まれた任務を取り除けなかった。何度も意識転送すると感情は豊かになるが体が言うことを聞かない。
「、、、そうか、今まで人を殺しまくっておいて随分贅沢な願いだな」
壁に穴をあけ施設の外に戦闘が広がる。
当時からこの星はこの施設以外何もなかったのを覚えてる。
「ころ、、、し、、たく、、ない」
レッドアームは何か達観したような覚悟を決めたような顔をする。
レッドアームは高らかに宣言する。
「次の一撃は今俺が放てる最速の一撃だ、、、勝って超えてみせろ」
レッドアームの一撃は宣言通り早かった。
ただ俺のケーススタディはすでに完了していた。先手で放ったレッドアームの一撃を確認した後、後手ではあるもののその速さを上回る動きでレッドアームの心臓をカタナで貫く。レッドアームの一撃は俺のこめかみを掠め地面をに入る。その一撃はこの星にクレーターを作った。一瞬気が抜けた瞬間、レッドアームは最後にブラスターで俺の身体を撃ち抜く。お互いすぐには死なない状態でしばらく仰向けで横並びになる。
「、、、っ!、、、へへへお前の学習能力は恐るべしだな、、、最後のは『後出しの先手』って技にしたら、、、良いん、、じゃねえか、、へっ、へへ、、、実はな、、、俺様もお前と同じように、他人の目的のために作られた生命だ。ラッキーで生き延びてたからよ、死ぬのはそこまで怖くないと思っていた」
レッドアームの口元はにやりと笑っているが血が滴っている。
「けどいざ死を迎えるとなると、、、色々な場所に行って、色々な飯を食って、色んな人と出会って、、、、恋人も、、、いた、、、そんなことを思い出すな」
その言葉を聞き、俺は自分の存在がいかに悪なのかひしひしと感じた。
「そんな顔するなよ、、、お前は生き方次第で、、、良い奴にもなれる、、、正義なんてそんな陳腐なものじゃなくてもっと、、、、ふぅ、、、、あいつ、、、怒るだろうなあ」
言葉の途中に別の誰かを思い出しているようだった。
「す、、まな、、い」
掠れた声で謝罪する。
「謝んな、、、、ただ、似たような境遇のお前を、、、気まぐれで救いたい、、そう思っただけだ、、、なあ、、、生きろよ、、、感情が戻って、どんだけ辛くても、、、生きろ、、、俺様は、、、お前にそれを知って欲しい、、、俺様を殺せば、、、最後の任務から解放されるんだろ、、、ああ、これだけは覚えててくれ、、、生まれは選べなくても、、、、生き方は選べる、、、俺様がお前に選ばして、、やったように、、、お前も誰かに、、、」
言葉が紡げなくなっていくレッドアームより先に出血で俺が死亡した。次の身体に転送されてポッドの中で必死にガラスを叩いた。
(まだ殺意がある、、、だったら)
ポッドが開く準備をしている。戦いの中では遅いように思わなかったのに時が止まっているように感じる。扉が開ききる前に殺意は薄れていく。
(嘘だ、、、、やめろ)
レッドアームへの殺意の消失はすなわちレッドアームの死亡を意味する。
ポッドが開いた後、俺は外に向かって走り出した。
彼の亡骸に何度も謝り、涙を流した。
生まれてくる感情が心をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。
今ままでやってきたこと、そのすべてが感情と共に付随して蘇る。
涙は枯れて、目的も失い、どうしようもなくなった俺はしばらく座り込んでいた。
そんな時、ふと彼の言葉を思い出だした。
そしてそれが俺の身体と心を動かした。
『生きろ』




