葛藤と夢と鍵3
『何もしないのですか』
「まだ時間じゃないので」
『パスワードの入力をしてもよいのでは』
「パスワードは『永遠の親友』っスよ」
『エラー、パスワードは正しくないようです』
「まあ、そんな簡単にはいかないのがロビンっス」
ナタリアは懐かしそうに眼を細め、子供のように無邪気に笑った。
『なぜ笑っているのですか』
「いやあ、嫌な夢みたなーって」
『矛盾しています』
少しずつ明るくなる地平線をナタリアは眺めながら話す。
「『永遠の親友』を初めて話したのは図書館での事っス、お互い気の合う友人ができて嬉しかったんスよね。ここではロビンの母親が死んだ時に二人でずっと夜明けを見てたんスよ。ハーネット先生が探し当てるまで」
そろそろだとナタリアはつぶやき立ち上がる。
『夜明けの光を当てながら「永遠の親友」を入力すればよいのですか』
「うーんちょっと違うっス、ロビンは最後に音声入力も入れたはずっス、五秒後にパスワードを入力してください。光にはアタシがかざすのでそのタイミングで音声入力もするっス」
ピースは五秒のカウントダウンを始める。
(正直、音声入力は何にしたのか分からない)
『3,2,1』
「くそったれ」
『パスワード承認、ロック解除されます』
「開いた、、、やったああああああ」
『なぜ音声認識が分かったのですか』
「困った時のアイツの口癖っスよ。正直気の利いた音声入力なんて入れないと思ってたので一番可能性のあるものを言いました」
その時後ろからエレベーターの開く音がする。ナタリアが振り向くと中から出てきたのはハーネットだった。
「何をしに来たのですか。追放を言い渡したはず」
「追放したならセントラルタワーのエレベーターは使えないはずなんスけどね」
「、、、手続きが遅れているだけでしょう」
ナタリアが手すりから離れてエレベーターに向かって歩く。
「どこに行くつもり」
「アタシのラボっス」
「行かせるとでも」
ハーネットはナタリアの前に塞ぐように立つ、
「通してほしいっス」
手に持っているピースを見て、ハーネットは驚く。
「解除したのね。それなら、私たちが引き継ぐわ。あなたはこの星から出ていくのね」
お互いピースを掴み、引っ張り合いになる。
「離して!アタシが完成させるっス」
「あんなことを言ったあなたにその資格はない」
二人が抽出したピースに同時に触れ引っ張り合いになると、ピースがホログラムを映し出す。
二人はその映像を見るために争うことを一時的に中断する。
『あーあっあっ、コレ録画できてんだよな。くそったれ、ビデオレターなんてのはガラじゃないのによ』
「「ロビン」」
『これを見てるってことは俺は死んでるし、ナタリーとハーネット先生が喧嘩してるって感じであってるのかな。まあ二人でピースを掴んでダンスしてる可能性もあるか。だとしたら邪魔してすまない』
録画されているロビンはこの状況になることを確信していたかのような喋り方をしている。
『まあ、なんでもいいや。とりあえず、研究の完成はナタリアにしてもらいたい。ルードタキオンの不規則性を使って完成させるつもりだったが専門外で少し行き詰ったところで止まってる。タキオン関係ならお前が上手くやれるだろうよ。それとナタリー』
ナタリアが名指しで呼ばれて緊張する。最後の別れがひどかった分、彼女は何を言われてもいい覚悟はできている。
『旅はどうだった。それともまだ旅の途中か』
ロビンの口から出てきたのは悪態でも何でもなかった。
『俺が死んだなら多分二度と会えないから先に言っとく、あの時はカッとなって言い過ぎた。後、お前がどう思っていようと俺はお前を許す。だから、ピースのことは頼んだ。この研究が完成すれば、おそらく惑星外に出ることはなく、技術は内部で保管されるだろう。外に出すのはピースだけだ』
許す、その一言が用意されているだけでナタリアは涙があふれてくる。
ハーネットは朝日が涙で乱反射しているナタリアの顔を横目で心配そうに見ている。
『もし、旅を続けるなら完成したピースを連れてやってくれ、ハーネット先生は完成した研究の使い道をしっかりと検討して欲しい。外には漏らせないがうまく使ってくれると信じてる。うーん一旦こんな感じかな。とりあえず二人とも喧嘩はやめるように、俺の最後の願いだ。録画終了』
ホログラムの投影は消え二人だけがその場に残る。
ハーネットはハンカチを取り出し渡す。
「鼻水も出てて汚い」
「うるさいっス」
ナタリアはハンカチを受け取る。
涙を拭いた後、ナタリアはハーネットに抱き着く。
「気は済んだの」
「姉ちゃんのおかげっス」
「先生と呼びなさい」
「許すって言ってくれたっス」
「そうね」
二人は静かに抱き合いながら朝日に照らされている。
「ダンスでも一緒に踊ろうかしら」
「久しぶりに冗談聞いたっス」