葛藤と夢と鍵2
ナタリアは過去を思い出すために目を閉じたところしばらくして眠りにつく。
「よお、ナタリア」
後ろから声をかけて来た言葉の主を振り返ってみる。
「ロビン?」
「まぁそんなとこだ。ちょっと歩こうぜ」
ロビンを見た瞬間ナタリアは夢の中だと認識した。
同時に覚めて欲しくない夢を見るのは辛いと感じる。
夢はいつか終わりがあるものだから。
「覚えてるか、図書館で本返却しなかったから一ヶ月借りれなくなった時、盗みに入ったの」
いつの間にか図書館の棚の上をロビンは歩いている。
「覚えてるっスよ、アタシはタキオン粒子についての本、ロビンは量子ワープについての本だったスよね」
「そうそう、ローランドの爺さんにゲンコツ喰らわされて二人で泣いてたよな」
「ハーネット姉ちゃんがアイスをこっそりくれてたっス」
「決まっていうんだよな」
二人は声を合わせて言う。
「「先生って呼びなさい」」
二人は顔を合わせて笑う。
今度は葬式の場に変わる。
火葬場で火に照らされて映し出されたロビンの顔は真っ直ぐ棺桶を見つめている。
「おふくろが死んだ時だ」
「アタシのことも娘みたいに可愛がってくれたっス」
「実際、養子にしようって話も出たしな」
二人はじっと火葬場を見つめる。
「この時、涙は出なかったんだぜ」
ナタリアはロビンの顔を見つめる。
「ナタリア、お前がいたからだ」
ナタリアが何か言おうとした時、ロビンはすでに歩き始めていた。ナタリアは慌てて追いかける。
「これも覚えてるか?初めて二人で作った発明品だ」
「思い出したくないっスけどね。この後にハーネット先生に本気で怒られて、一ヶ月口聞いてもらえなくなるんスから」
「まさか先生のお尻に当たるとは思わなかったぜ」
当時は深刻でも今思えば笑えるような話は多くある。
このロビンはナタリアが生み出したナタリアから見た限りなくロビンに近いロビンじゃない人間だ。
だからこそ、ナタリアの恐怖を突然引き出す。
「なんで、犯罪に手を染めた」
辺りが真っ暗になり、崩壊したF9区画が電灯に照らされ始める。
「ロビンには関係ないっスよ」
「関係ないか、、、俺のこと誘っておいて断られたら関係ないって言うのか」
ナタリアは頭を抑える。
「なんなんスか」
「あの時お前がいれば俺は生きてたかもしれない」
「アンタはロビンじゃない」
「あーいや、死んでたか。だって俺を殺した犯罪者とおんなじだもんなぁお前」
「黙って欲しいっス、その顔で喋んないで、、、」
彼女の動悸は激しくなる。夢とは思えぬほど焦りと不快感が体を駆け巡り始める。
「俺は死んでも信念は曲げない、けどお前は興味本位で犯罪者と組む」
目の前のロビンから段々と血が流れ始める。
ナタリアは急いで言葉を口にする。
「アームド」
夢の中ではあるものの自身の意識を制御しきれていないのかスーツを展開できない。
「そのスーツも俺と作ったものだろ。よく使ってられるなあ、この人殺し」
歪んで溶け出したロビンがナタリアの腕を掴む。
その瞬間ナタリアは夢から目覚める。
ぐっしょりとかいた汗を拭いながら立ち上がるとピースはまだ部屋にいた。
「、、、まだ、居たんスか」
『目的は私のアルゴリズムの完成ですので、一番完成させる可能性の高いあなたの部屋にいることが正しいと考えました』
「前の食事の時みたいな話し方はしないんスか」
『脳波のスキャン結果、この話し方を選んでいるだけです。有効な話し方にも種類があります』
「パスワードはなんとなく分かったっス」
『入力フェイズに入ります』
「ピース、再度抽出を」
『目的を教えてください』
「連れていきたい場所があるっス」
どこに連れて行ってもピースに心はない。
自己意識が存在しないなら、テュールより中身がないとナタリアは考える。
抽出されたピースを持ってセントラルタワーに再び歩み出す。
『どこに行くのですか』
「とりあえず歩くっス」
人は眠るが機械は動いている。
荷物は運ばれ、街は清掃されている。
眠らない街とはこのことを言うのだろうか。
この星の生活基盤は機械がサポートしている面が大きい、資材の調達も機械のメンテナンスも機械がする。人間はさらなる技術を開発し、その恩恵に人々はあずかる。
エレベーターに乗り、上に向かいながらナタリアはピースに話しかける。
「あの時はただの感情のない機械って言ってごめんなさいっス」
『事実ですし、私には何も感じません』
「ロビンの研究を完成させたら感情が生まれるはずっス、その時ピースは思い出して嫌な思いをするかもしれません」
『ロビンの研究を完成させる気になったのですね』
「色々と思うところがあったスから、そういえばこの前ボディが欲しいと言ってたっスよね」
『あれはその場に適応した話し方を試してみただけです」
「まあ、感情が生まれたら欲しくなるっスよ。ロビンが作っていたらしいですし」
最上階に再び戻ってきたナタリアは手すりに再び近づく。




