職務怠慢は幸せにつながる?
「スタリオン警部、こちらの星でジンという男を見ませんでしたか。他にも何人か協力者がいるそうですが」
「おぉローズちゃん。ジンね、見たよ」
「今回のバジリスでの脱獄の容疑者だと連絡入れていたと思うのですがなぜ捕まえなかったのですか、それとローゼンです。その呼び方はやめてください」
「俺のヤマじゃないのと、通信が入った時にはもうこの星を出てたからな」
アルが飲み物を持って走り寄ってくる。
「お二人とも!飲みますか!」
「気が効くじゃないか。一本もらおうかな」
「報告を頼む、アル」
「はい!容疑者グループはおそらく服と道具などの日用品を買いにここにきたと思われます。それにしてもよくコスタコが次の目的地じゃないかって分かりましたね」
アルに褒められてアリアは帽子を深く被る
「新しい仲間が来たならまずは日用品を買い足すはずだからな」
(飲み物持ってきてくれた!それに私すごいと思われてる、、これってデートに近いよね。コスタコでアル君とデート!)
スタリオンはアリアが何を考えているのか何となく察しているようで少し呆れた顔で眺めている。
「俺は基地に帰るぜ。後はお前らに任せたから」
「聞いてないのですか?スタリオン警部」
「何だよローズちゃん」
「我々とこの事件を調べるように上からの命令ですよ」
スタリオンは無茶苦茶めんどくさそうな顔をして、ため息をつく。
「よろしくお願いします。スタリオン警部!自分はアル・ガイアと申します!」
目の下を引くつかせるスタリオンなど気にしない元気なアルの挨拶がコスタコにこだまする。
宇宙船内で騒がしくしているジン達は、のんきに過ごしている。
「ジンが私たちの服まで買っていってくれているとは思いませんでした。意外に気が利くんですね」
「ジン、服、最高!」
「ジンさん、一生の宝にするっス」
「マーガレットは余計な一言あったから代金分支払え」
マーガレットとジンの言い合いがまた始まり、騒がしさは一層大きくなる。そんな盛り上がりの横でテュールがオリヴィアに服を見てもらっている。
「これどう?短パンにコート、可愛いしかっこいい?」
「似合ってると思いますわよ。彼らにも聞いてみては?まあ、騒がしくてそれどころではないかもしれませんが」
テュールは小走りで近づいていき、マーガレットとジンの前で360度ターンをして質問する。
「似合ってる?」
マーガレットとジンは言い合いをやめテュールをじっと見つめる。
二人はしばらくテュールの服装を見てから答える。
「似合ってると思うぜ」
「すごく似合っていますよ」
テュールは二人の答えを聞くと満面の笑みを浮かべオリヴィアのところに戻っていく。
今は行先も設定せずにただ宇宙空間を浮遊している状態の船内では普通ならできることは大してないが、この船に搭載されている縮小拡張の機能により、船内は非常に充実したスぺースとなっている。買ってきたものの整理が終わった後は、娯楽室や談話室などで各々が夕飯まで時間をつぶしている。夕飯は再度マッドが作ってくれるようだ。
ジンは自身の部屋から小包をもって出る。窓の外を眺めながら外の風景を眺めながら歩いている。
視界の中に恒星が入る。そういえばどこかの惑星系では恒星の寿命を迎えかけため特殊な外殻を作って、スパーノヴァを抑制しているところがあるという話をジンは思い出す。
この時代に不可能はほぼないだろう。量子リングにものを入れれば簡単に持ち運びと取り出しができる。
しかし、テュールのあの力だけはそういったものではないとジンは本能で感じている。
彼の腕の力は高次元を介して物体を引き出しているように感じる。
そもそも彼が取り出した銃をジンは聞いたことも見たこともなかった。
「六人か、家族みたいで悪くはないのかもな」
言葉にしてからジンは自己嫌悪に陥る。これまでの人生を振り返ればそれは到底言葉にしてはいけないことだったからだ。この仕事が終われば彼らから離れなければいけないと自身に言い聞かせる。
しかし、この刹那のような時間を楽しみながら生きるには必要なことがある。
謝罪だ、彼が泣かせてしまった少女に対して。
談話室でマーガレットとテュールが話している。
「オリヴィアはどこだ?」
「自室に戻ると言っていました。夕飯時に声をかけて欲しいと」
「ジン?元気ない?」
テュールが寄ってくる。さっき考え事をしていたせいで顔色が良くなかったのだろう。
「少し考え事しててな」
テュールがジンに強く抱き着く。突然のことでジンはたじろいでしまう。
「いきなりどうしたテュール」
「さっきマーガレットに人の慰め方を聞いたらこれだって言ってた」
「変なこと教えんなよ」
「事実じゃないですか。私の家族はそうしていました」
ジンはテュールに離れてもらい、そそくさとその場を去った。
オリヴィアの部屋に近づくたび心の中に感情が渦巻く。
謝り方が分からない。彼にとって初めてと言っていい程にこの数日の暮らしは大切な仲間に出会えたと密かに考えていた。ジンにとって騒がしい共同生活はただただ楽しいものになっていた。あの喧嘩をした時ですら仲間を考えて話していたからこそ強く当たってしまったのだ。ジン・ヴォルフという男は宇宙一不器用なのかもしれない。
オリヴィアの部屋の前に着いたジンは声をかけながら入室しようとする。
ノックなんてものは彼の頭の中には存在していなかった。
「オリヴィア入るぞ」
「ちょっと待っ!!」
オリヴィアの制止間に合わず扉が開閉される。ジンは次の瞬間絶句していた。
中にいたオリヴィアは下着姿であった。彼女は扉に背を向けており。ジンは彼女の背中を見てしまった。
その背中には複数の刺し傷、切り傷、やけどの跡が刻まれていた。ジンは一瞬何もできなくなった。自立することすら拒絶したくなるほどの後悔がジンの中に流れ込む。しかし、今一番動揺しているのはオリヴィアだろう。ジンが絶句している間にオリヴィアが冷たい言葉を発する。
「準備ができましたら呼びますので、扉を閉めてくださいますか」
「わるい、、、」
扉を閉めて外で待つジン、その扉は先ほどよりも大きく重いもののように感じる。
おそらく二十秒ほどしかたっていないのだろうが、彼にとってはその時間は一時間のように感じた。
なかからオリヴィアが声をかける。
「入っていいですわよ」
ジンはその言葉を聞き、部屋の中に入る。オリヴィアの目は死んでおり少しだけ体を震わせているようにも見える。
「夕飯前にシャワーを浴びようと思いまして、それとノックくらいするのが常識ですよ」
「すまない」
二人は隣に並ぶようにソファに座る。
ジンは言いあぐねている。本来謝罪するべきことにプラスで新しい謝罪すべきことが追加されたのだ。これは彼にとって予想外すぎる出来事だった。彼の表情をジトっと見てオリヴィアが声を出す。
「はっきりと言えばいいんじゃありませんこと?」
「えっ」
「気持ち悪いと」
あっけにとられたジンはまたもや何も話せない。
「良い生まれですが一族には恵まれませんでした。気持ち悪いのでしょう?そんな女が令嬢を気取っているのは、言いたければ他の人に仰ってくれても構いません」
彼女の気持ちをぶつけられている間、ジンは少しづつ言うべきことを構築する余裕が生まれる。
そしてとりあえず言葉を発する。
「すまなかった」
「、、、何がですの」
「昨日、お前を泣かしたことと今日ノックせずにお前のプライベートな部分に土足で踏み込んだことだ」
オリヴィアはしばらく黙った後、ジンに目を合わせずに答える。
「子供の幼稚な謝り方みたいですわね」
ジンは頭を少し掻く、考えていたことを話す。
「俺はなんだかんだお前らとの旅、まあ今回の仕事だな、これが楽しいと感じている。仕事が終わったら俺たちは結局離れ離れになるかもしれない。だけど俺はお前らを気に入ってるんだ。だから、仕事が終わるまでは仲良くしたいと考えている。謝り慣れてないから幼稚に聞こえるなら申し訳ない。あんなことを言った後だから信じられないかもしれないが、俺はお前のことを仲間だと思っているし頼りにしている」
ジンが一人で話している間オリヴィアはジンの方を向かないままだった。
ジンも顔を合わせずらかったが、実のところ昨日の一件はオリヴィアの秘密主義も原因の一つだったためオリヴィア自身も顔を合わせずらいのだ。
「許してくれとは言わないさ、また俺と話してくれるようになったら声をかけて欲しいってだけだ」
ジンが立ち上がろうとするとオリヴィアが力強くジンの手を握る。
「ともに乗船している六人は、皆いろいろと聞かれたくないことがあると思いますわ。私だって例外ではありません。あの時、私は貴方にだけ喋ることを強要してしまいました。ジン、ごめんなさい」
「あれは俺が」
「謝らせてください。私も人生の中でこの数日がとても充実しているように感じていますわ。お互い気持ちは同じでしょう」
オリヴィアの気持ちが自身と近いことを知り、安堵と共に嬉しさを感じる。
まだ少しぎこちないがジンは再び座りなおして会話を試みる。
「しばらく話すか。ちょっと気まずくて話せてなかったろ」
「そうですわね、、、その小包は?」
「ああ、これはプレゼントだ。俺様が考えたとっておきのプレゼントだぜ」
オリヴィアが小包を受け取り開けると、中から八本足のぬいぐるみが出てきた。
「なんですのこれ?」
「コスタコ君だ。どうだ?」
オリヴィアはぬいぐるみをじっと見つめて答える。
「キモ可愛いですわね、、、でもありがとうございます!」
オリヴィアはジンに抱き着く。テュールに事前に抱き着かれていたので今回は動じずに済んだ。
その後二人は今日一緒に行動しているときに話せなかったことを話した。夕飯に呼び出されるまで。
夕飯を食べた後は皆疲れていたので、明日決めることを決めるという会議を開いた。決まったことは宇宙船の名前を決める、行き先を決める、という二つが決まった。
各々食器を洗い終わった後は、自室に戻るということになり、ジンは部屋でシャワーを浴びてくつろぐ。
そろそろ就寝しようとしていた時にノックが響く、ジンが入るように言うとツナギを着たナタリアが入ってきた。
「ナタリアかどうした?」
ジンが質問するとナタリアは静かに質問を返す。
「ジンさん、、、ジンさんは何体目なんスカ?」
ジンは殺気立ち、更にナタリアの顔にはブラスターリボルバーが突きつけられている。




