コスタコをご存じない?
16話です
食事を終えた一同は再び買い物に出かける。
「ここはなんていう惑星ですの?」
オリヴィアが惑星と思っているこの場所は人工的に作られた大規模なスペースマーケット「コスタコ」なのである。有名なマーケットであるからこそオリヴィアが知らないことにジンとマーガレットが驚く。
「お前コスタコも知らないのか?あの八本足のコスタコ君も?」
「ジン、なんだって知らない人はいます、、、コスタコ君見たこと本当にありませんか?」
「あまり外に出ないので、実は今回が初めてに近いのですわ。それと、コスタコ君?って何ですの」
オリヴィアの疑問にテュールが答える。
「あの湯でタコみたいな見た目の奴じゃないかな?」
「湯でタコってなんだよ。コスタコ君はコスタコ君だろ」
「タコはタコだよ。食べないの?この腕が食べるものだと教えてくれる」
直後、もう我慢できないとマッドとナタリアが声を出す。
「道具買いに行きたいっス!」
「本!買う!」
テュールも負けずに大声を真似て出す。
「服買いたい!」
「別にでけえ声出さなくても分かるよ」
「みんなで行動すると時間が足りませんよねジン?どう分かれますか?」
「確かに服屋は離れてるからな、、、服見に行きたい奴は?」
テュールとオリヴィアが手を挙げる。
「では私とジンが分かれてついていくとしますか」
「なんでだよ」
「私は働いていて貯金ありますし、あなたも賞金稼ぎで設けたものがあるでしょう。散財癖もなさそうですし」
「それって偏見だぜ。散財しまくってたらどうすんだよ。てか賞金稼ぎの事覚えてたのかよ。大体なんで俺様が代わりに払うんだよ。」
「文句言ってないで分かれますよ。今は仲間なんですから多少の出費は我慢してください」
ぶーぶー文句を言うジンを放ってマーガレットはナタリアとマッドと行動する。
「おいおい勝手にグループ分け完了してるじゃないの、、、はあ」
「ジン、服屋に行こう」
オリヴィアとテュールにとって初めてのコスタコは知らないものばかりだったようで、少し歩くたびに質問を何でもしてくる。ジンはだんだんと答えるのがめんどくさくなり、
「テュール、お前はその腕から知識もらってんじゃないのか?」
そう聞くとテュールは笑顔で答える。
「腕を使えば知ることもできるけど、僕はジンに聞く方が楽しいから好き」
中性的な美形にまっすぐそんなことを言われるとジンも恥ずかしくなる。
テュールは最初に起こしてくれたのがジンだからなのか、ジンに対しての信頼が大きいようだ。
そんなことを話しながら移動していると服屋の前に着く。
「着いたぞ、お前らは好きなの見てきな。俺様は他の連中の服も買うから色々と探してくる。会計の時に呼べよ」
「スリーサイズ聞いたの?それとも勝手に測ったの?」
「あのな人を変態みたいに言うんじゃありません。今時オーダーメイドの服なんて珍しいぜ。大体オーバーサイズからフィットサイズまで伸縮するものが大半になるから心配すんな。分からなかったら接客ロボットに聞け」
二人と分かれたジンは適当に似合いそうな服をいくつか選ぶ。
(家族みたいか、、、あいつらといるのは確かに楽しいが、俺は結局のところ、、、最後を考えるのはやめにするか)
適当に服を選んだあとはベンチに座って服を選んでる二人を見ている。
テュールはスカートやパンク風の服を選んだりしている。オリヴィアはワンピースや動きやすそうなズボンを見ている。
(テュールって性別の認識薄いって言ってたな。まあ中性的だしなんでも似合うだろ。ていうか人のファッションにどうこう言う必要もないしな)
選んだ服をまとめておき、自販機で飲み物を選びながら二人の服選びが終わるのを待っている。
すると突然声をかけてきた男がいる。
白髪交じりのジャケットを着た男性だ。
「お兄さん、ちょっとお札を崩したくてね、小銭持っているやつが中々いないからお願いできないかい?」
「最近はなんでもデジタルだからな。いくらだ」
ジンが腰の財布に手を伸ばす。
すると、その男が静かにしかし力強く言葉発する。
「そのブラスターリボルバー、どこで手に入れたんだい」
財布を取ろうとしたときに銃が目に映ったようだ。
「ん?ああ、これはカドニアで買ったんだ。あそこの製品は質がいい。ほら小銭だ」
「そうかい、ありがとな」
次の瞬間、渡した硬貨が投げつけられる。近距離で投げつけられたが、ジンは全ての硬貨を掴む。
男は口笛を吹く、
「すごいな、よっぽど目がいいんだろう」
「何のつもりだ。今は子供のお守りの最中なんだ。面倒ごとは避けたい」
「そのブラスターリボルバーをカドニアで買ったって?あそこは純正品しか取り扱わないはずだが」
「買った後に改造したんだよ」
「ほお、随分と瓜二つなんだがな。俺が昔追っていたレッドアームの銃に」
空気が静まり返る。ジンは怒るでもなくただ茫然と見つめていた。
「どうした、大人しく付いてくる気になったか?」
「あんたは誰なんだ」
「俺はスタリオン、銀河警察の古株だ」
銀河警察であることを聞き、彼が何を知りたいのかジンは察する。
「あんたの望むような情報は何も持ってない。ただこれだけは言える。」
「なんだい」
「レッドアームは死んだ」
しばらくお互い見つめ合ったのち、スタリオンはポケットから煙草を出して火をつける。そしてベンチに座り込む。ジンもベンチに座り込む。
「証拠はあるのかい」
「この目で見た。ガラス越しに死ぬのを」
そんな話をしているとテュールとオリヴィアが駆け寄ってくる。
「服選び終わったよ」
「そちらの方はどなたですの?」
オリヴィアがスタリオンを見つめて質問する。
「おじさんは、さっき親切にしてもらってね。」
「ジンがですか?珍しいですわね」
ジンは立ち上がり、自分の選んだ服と二人の服をすべてレジに持っていく。
「支払いしてくるぜ」
「自分の分は払いますわジン」
「構わねえよこのくらい」
ジンが一人でレジに向かうとテュールとオリヴィアとスタリオンの三人だけになる。
「あいつ、あって間もないやつにガキを預けるなよ」
スタリオンがぼやいているとテュールが興味深そうに見つめる。
「その煙出てる奴は何?」
「煙草を知らないのか?吸うか?」
「大人の趣向品ですわ」
テュールとオリヴィアが興味津々で煙草を見つめている。そんなに見つめてくるならと煙草を一本渡そうとしたところで支払いを済ませたジンが戻ってくる。
「おいおいおい、何しようとしてんの。ガキはこんなもの吸っちゃダメなの」
ジンは大量の袋を持っており、スタリオンが煙草を消して手を貸す。
「運ぶの手伝おう。色々と話したいこともあるしな」
「お前らも手伝え、テュール、オリヴィア」
四人で荷物を持ち宇宙船まで戻る。もう片方の組はまだ帰っていないようなので先に荷物を運び入れてテュールとオリヴィアに休むようにいいジンは外に出る。外では手すりに寄りかかりながらスタリオンがまた煙草を吸っている。
「吸いすぎじゃありませんか?」
「急に敬語かジン」
「レッドアームの知り合いなら当然かと」
スタリオンは苦笑する。
「別に友人じゃないぞ。俺は奴を追う側で奴は追われる側だったってだけだ」
「その銃は受け継いだのか」
「はい、直接もらいました」
目を細めながら遠い記憶をたどるように話しはじめる。
「あいつは大罪人といわれていたが、多くの人々も救ったのも事実だ。レッドアームあいつの名前を聞くと大体の人間が三つの反応をする。感謝するもの、嫌悪を示すもの、憧れを見せるもの。お前の反応は感謝に近いように感じた」
「俺は彼に救われましたから」
スタリオンはゆっくりと煙草を吸った。長年追っていたからこそ死んだことを伝えられて思うところもあるのだろう。
「あなたとレッドアームが戦うとどちらが勝つんですか?」
「突然だな」
「気になりました」
「おそらく十中八九俺が勝つって言いたいところだが、俺の目的は殺すことじゃなく逮捕だ。本気では戦えないさ」
スタリオンが今までレッドアームを追いかけたエピソードを色々話はじめて時間が過ぎていった。
そんな中スタリオンが一本の通信が入る。
「ジン、、、お前追われているのか?」
「あー色々ありまして、今は逃亡者の身です。逮捕しますか?」
「いんや、俺はレッドアームを追っていただけだ。お前のことはまた後輩たちが捕まえに来るだろうよ」
スタリオンが通信を切る。彼はレッドアームを追いかけることに人生をかけていたのだろうか。真意は誰にも分からない。
「なあジン、お前はレッドアームの最後をガラス越しに見たっていったよな」
「はい」
スタリオンがジンの方向に向き直りまっすぐ見つめて問う、
「誰が殺したんだ」
ジンは真剣な顔で答える。
「レッドアームを、、、彼を殺したのは」
時間が止まるような空気がその場にのしかかる。
「俺です」
スタリオンが特に驚いた様子を見せない。
「冗談ってわけでもなさそうだな、、、まあ色々と訳アリか」
ジンは目をそらして宇宙空間を眺める。しばらく無言が続いた後にスタリオンが再び口を開く。
「色々聞けて良かった。お前を捕まえに行く後輩は腕がいいぞお、せいぜい頑張って逃げろよ」
「聞かないんですか?」
「聞いても何にもならん、逮捕できずに死なれちまったんだ。あいつは逃げ切ったんだよ俺から」
会話し終えた後、スタリオンはマーケットの方に一人で歩いていく。