頭がお花畑なのは誰
14話です
バジリスにて、ある女が空を眺めており、そこに一人の男が駆け寄ってくる。
二人は青い制服を着ていて、仕事の仲間の様である。
「ローゼン刑事、マレード軍に事情聴取完了しました。高出力ビームを殴ってずらしたのを見たとかなんとか。参考にならないものばかりでした」
「そうか、奴らが逃げた先を割り出す必要がある。何としてでもこの地下施設のことを聞かなくてはならん、、、我々銀河警察が惑星間での犯罪を追跡することの重要性は知っているなアル・ガイア」
アルといわれた男は唾をのむ。緊張しているのか額から汗が垂れている。
「もちろんです。アリア・ローゼン刑事」
「では行くぞ、我々は正義を為す」
何か追跡する算段があるのか、アリアは宇宙船に向かって迷いなく歩きはじめる。
(待って、、、私カッコよすぎない?やばいって、これアル君惚れてくれてるかな)
ローゼン刑事はそんなことを思いながら追跡を開始する。
一方、脱出できた宇宙船内ではマッドとナタリア、テュールの乗員登録を終えたところであった。
「疲れた、、、はあ」
ジンはヘトヘトになりながら操縦席の椅子に座っている。全員疲れ切ってぐったりしている中、テュールが口を開く。
「これからどうする。僕はどうなる」
今回の仕事の始まりであるオリヴィアをその場の全員が見つめる。
オリヴィアはその視線に耐え切れず口を開く。
「後で話しますわ。今は休憩しましょう」
しかし、ジンはそれを許さない。この一件には裏があると勘づいている。
「俺様はもう降りていいな。仕事はやり遂げたんだしよ」
「付いてくるところまでが仕事ですわ」
その答えにここぞとばかりにジンが食いつく、
「どこに?いつまで」
オリヴィアは返答に困ったような顔をする。
「期限は、、、特にありませんわ」
「だったら好きなだけ寄り道するぜ。とりあえずこいつの服を買わなきゃいけねえし、本も食料もだ。この宇宙船をより住みやすい場所にしてやる」
テュールが自身の服を確認する。先ほどの戦いで服も破れ、伸び切っている。
「かわいい服がいい。カッコよさも含んでいるような」
「かわいい服だあ?お前は男だろ」
ジンのデリカシーの無さはトップレベルだろう。しかし、テュールはふっと微笑んで話す。
「僕はあの水槽で作られた。知識だってこの腕から得ているに過ぎない。成長途中でこれといって影響されるものも無かった。おそらく自身の性別の認識が薄いんだ。着る服も可愛さとカッコよさの両立ができればいいと考えれば肉体と脳の認識に違和感がないからそう考えているだけ」
彼の独特の自己認識に誰もうまく言葉を返せない。ジンは自身の失言に気づきながら平然を装い返答するが少し早口になる。
「そうか、だったら次の惑星で欲しい服を探せばいい。目覚めたばっかで疲れてるだろ。自室で寝てろ」
ピースに案内を任せてテュールを外に出す。残った五人はこれからについて話さなくてはいけない。
「とりあえず期限がないなら寄り道するってことで良いな」
「それでいいと思うっス。アタシも特に予定ないんで」
「オレも、予定、ない、本たくさん買う!!」
「マッドは読書家なんですね」
一人だけ言葉を発さない。ジンは再び問う。
「オリヴィア、問題ないな」
「え、ええ、問題ありませんわよ」
明らかに動揺しているオリヴィアを見てジンは思考を巡らせる。この先起こる一番最悪の出来事は何なのかを。
しかし、マーガレットが呟いた一言が、またジンの怒りを誘発させることとなった。
「地下施設で行われていたことは間違っています。人を生み出して兵器みたいに使おうとするなんて、これは然るべき対処を、、、」
「おい」
ジンの一言で部屋の空気が一気に冷え込む。
「しょうもない正義なんて振りかざしてる暇があるなら次の目的地でも考えて設定してくれよ船長さん」
ジンの煽りに、マーガレットも黙ってはいられない。
「またですかジン。あなたは私の何が気に入らないか知りませんが、間違っていることを間違っているといって何が悪いんですか?人が人間を兵器として生み出すことは間違っています。悪いことなんですよ。本来そんなことしてはいけないんですよ」
「俺様の言ってることを理解してないからそんなことが言えるんだな。少しは頭を使え、善悪なんてものさしでなんでも測りやがって」
「ちょっと落ち着くっス。二人ともそんなに煽り合わずに冷静に話しましょう」
ナタリアが二人の間に割って入る。
「ジンがもう少し私を認めてくれたらこんな話し合いにはならずに済みます」
「自分を正しいと信じてやまないやつを認めて話して何になるんだよ」
「ちょっと、二人とも、、、マッド?」
マッドがナタリアの肩に手を置く。沈黙を決め込んでいたマッドが口を開く。
「二人の気持ち、どっちも、理解できる。だから、どっちの味方も、しない。ナタリー、オレたち、もう寝る」
「、、、分かったっス。おやすみなさい」
二人はそっと出て行った。扉の向こうではピースの声が聞こえる。どうやら二人の案内をするようだ。
操縦室に残された三人の間に、沈黙が流れる。
「お二方、同時に謝ったらどうなのですか?」
オリヴィアの言葉に先に反応したのはマーガレットだ。
「謝る?それなら私のどこが間違っているのか教えてください」
「まーた始まったよ。俺様もこんな奴に謝るなんて死んでもごめんだね」
「あなたの考え方が理解できません。なぜ間違っていることを間違っているといっただけでそこまで目くじらを立てるんですか」
「同じことを何度も聞いてくるからこっちも同じ言葉を返してやるよ。自分で考えろ」
ジンの言葉にマーガレットがついに手を出す。乾いた破裂音が室内に響きわたる。突然の不意打ちにジンはその平手打ちを避けることができなかった。オリヴィアが咄嗟にマーガレットの腕をつかむ。
「手を離してくださいオリヴィア、この男は私を馬鹿にしたいだけです!そうに決まってます!!」
「落ち着いてくださいましマーガレット、ジン!説明しないと伝わらないこともありますわ!私たちはもうチームでしょう。チームは信頼し合うべきではありませんこと?」
突然殴られたことで平静を失い、オリヴィアの言葉に感情の矛先が向く、
「信頼?、、、信頼ねえ。オリヴィアお前だって仲間に説明してないことがたくさんあるだろ。今回の作戦の情報元、テュールをどこに連れていくか、いつまでかも。お前こそ何も話してないんじゃないのか」
オリヴィアの表情がこわばる。
「本当に仲間って言えるのか?結局は輪から外れてるだけじゃ、、、」
オリヴィアの瞳から涙が零れ落ちる。本人も泣いてることに気づいていないようだ。
「えっ、あら、、ごめんなさい。見苦しいところを」
必死に涙をぬぐう。
「貴方の疑念も最もですわ。寄り道はいくらしても構いません。ただそれ以外のことは少し待ってほしいですわ、、、その、、、おやすみなさい」
オリヴィアは逃げるように部屋から出ていく。
残された二人は、にらみ合う。先ほどと違うのは、先にジンが口を開いたことだ。
「もし、お前の話が正しかったとして」
マーガレットは何も言わないが、しっかりと聞いている。
「テュールについてどう思う?」
「、、、それはどういった」
「彼についてどう思う」
マーガレットはしばらく考えたのち、答える。
「かわいそう、ですかね」
「お前はテュールにそれを言えるか?」
「えっ」
ジンは少しずつ確かに気持ちを込めて言葉を紡ぐ。
「テュールがあの力を使って平和をもたらしたら?あの研究は正しかったのか?多くを虐殺したら?間違っているのか?あの施設で生み出されたテュールは生まれてきてはいけない命だったのか?存在自体が間違いなのか?」
「そこまでは言ってません。それは飛躍しすぎています」
「そうか?お前は確かに言ったぞ。あそこで行われていることは間違っていて、悪いことだと。そこから生まれたテュールの気持ちを考えたことはあるか?正義は掲げてもいいさ。けどな、一面でしかものを見ない正義はただの暴力に成り下がるときがある」
マーガレットは何も言えなった。反論しようと思えば糸口はあっただろう。しかし、ジンの真剣な表情と自身が確かにテュールのことを考えれていなかったことを痛感し、何も言えなった。
ジンはすっと立ち上がり、扉に向かって歩く。
「嫌な言い方をしてしたな。すまなかったマーガレット。俺はもう寝ることにするよ。オリヴィアにも明日謝らないとな」
ジンのその背中はどこか寂しげであった。マーガレットは何も声をかけれない。一人ぼつんと残された部屋で誰に聞こえるでもなくつぶやく。
「おやすみなさい」
今更ですが
オリヴィアの一人称は 私→ワタクシ
マーガレットの一人称は私→ワタシ
になっています。




