分断と合流?1
埃が舞う中、ネルは瞼を少し上げる。
目の前には何かが立っている。
「さて、我の言ったことを覚えているか」
その声にネルがうんざりしたように反応する。
「いい加減名乗ったら?」
「、、、確かに名乗るのも悪くはない選択肢だが、我は選ぶ側ではない。常に選ばせる側なのだ。一人で全てを手に入れる決心はついたか?」
ネルに緊張が走る。ここ数日で神の存在や色々なことを知ったせいか今話してる相手は人という尺度で測れない高次元の何かだと直感で気づく。
「何を悩む?サナリアはお前にガッカリしたそうだぞ」
芝居がかったような話し方をする。
「それは、あーしが相談もせずに大事なことを、、、」
「相談を求めている。このこと自体がお前に自主性を求めていないことの裏付けではないか?ガッカリなんて言っていたが、勝手に期待して勝手にガッカリするような女など放っておけ」
この前の対話時点なら語気を強めて言い返していただろう。しかし、今のネルはちがう。
「そ、それは、、、」
「理解し難いな、それは未練か?それとも罪悪感か?」
ネルは返答できない。
「次が三度目だ、、、次が最後のチャンスだ一人を選ぶか、これまで通りの他人に抑圧される人生を選ぶか、楽しみにしておこう、ネル」
その言葉の直後ネルは肩をゆすられ目を覚ます。先ほどと同じように埃が舞っている。
「ネル、起きて、お願い」
「ん、サナ、、姉?」
少し咳き込みながら目を覚ます。
どうやら地下の空間に落ちたようだ。
奥に目をやるとジンがいる。周りを見渡して何か探しているようだ。
三人だけしかいない。落ちてる途中ではぐれたのだろうか。少し目眩を感じながらネルが頭を触ると包帯が巻かれている。
「これは、、、」
頭の角を見られたと思いネルは焦る。
「ジンが巻いてくれたそうよ。私は少し離れたところに落ちたから合流に時間がかかったの」
話し方から察するに角は見られていないようだ。
サナリアは強く抱きしめながらネルの無事に安堵している。
ジンが小走りで近づいてくる。
「予想通り地下施設はあったが、、、道中をショートカットし過ぎたな。他の連中との合流も考えながら取り敢えず地上に戻るぞ」
そう言ってサナリアとネルの前を歩き出す。
サナリアが歩き出し、その後にネルが立ち上がり歩き出すと落ち着いてきたのか小指の痛みに気づく、チラッと見るとネイルをしていた指が九十度以上横に曲がっていた。ゾッとして声も出ず見つめているとゆっくりと元に戻り始めた。
「、、、なんだし」
「どうかしたの?ネル」
なんでもないと伝え、何もなかったかのように振る舞いながらジンの横に並び歩く。
「角のこと、、、ありがと」
「ん?まあな、、、頭から流血してた割に元気だな」
「、、、見かけほどの怪我じゃなかったのかなあ、、、なんて」
後方に移動して包帯の中を手で触る。
傷一つないことに気づく。
「、、、そうか、とりあえず道なりに進むしかないってサナリアに伝えてくれ」
「分かった」
三人は道なりに施設を進むことになる。
一方、ナタリアとピースも二人ではぐれてしまっていた。
「そろそろかしらあ」
ピースはセンサーを起動しながら構える。
地面が揺れる。
「来たわね」
衝撃音と共に瓦礫が吹き飛ぶ。
「はっはっはっはっはっは!ふっかーーーーつ!」
ダイマナイトが大声と共に現れる。
ピースは飛んできた瓦礫を手で弾いたり避けたりしている。
「ナタリアちゃん、、、少しは考えて動きなさい。私じゃなかったらケガしてたわよ」
ダイマナイトは大きな声で返答する。
「私はナタリアではない!私はダイマーーーー」
ピースの表情は微笑んでいるが眼の奥は少し怖い。身体は機械だが作りが精巧だからなのかそれとも感情を持っているが故に生まれる圧なのか定かではない。
「ナタリアちゃん?ケガするから危ないわよねえ?」
ダイマナイトもといナタリアはビクッと体を止めて謝罪する。
「ごめんなさいっス、、、センサーでピース以外いないのは分かってたから、、、」
「私ならケガしてもいいってことお?」
ナタリアは焦って言い訳をしている。ピースは軽く応答しながら図面をナタリアに共有する。
「つまり!別にピースの事を、、、ってコレなんㇲか?」
「ナタリアちゃんが動けるようになる前にスキャンした施設の図面よ」
「はえーーー、どこに向かえばいいんスか?後これみんなに共有したほうが」
「この施設電波は独自のネットワークを使っているのだけどバルトリカのシステムがないとハッキングできないレベルなのよお。だから通信手段が限られているのよねえ」
「そ~なんスね。とりあえずこっち」
そういってナタリアは強化スーツを解除して歩く。
「スーツ脱いで大丈夫?」
「最後の技でタキオンバッテリー上がったんでしばらく充電っス」
「おんぶしてあげましょうかあ?」
「ありがたいっスけど歩け、、、おわっ!ちょっと!おんぶしなくて大丈夫っスよ」
「疲れてるでしょお」
「これはおんぶじゃなくて抱っこっスよ」
文句を言いながらもピースから降りると二人は並んで通路を進む。
既に二つのグループにはぐれているがまだまだ分断されたものはいる。
そうソジュンだ。
「ん-死にそう」
ソジュンの呟きに反応する声がいる。
「なんや目え覚めたんかいな」
ソジュンはのびをしながら声の方を向くと数人の集団がいる。
「ここで殺し合いか?」
ソジュンは腰に手を伸ばそうとした瞬間、凛とした声が響く。
「争うつもりはないです!落ち着いてください!」
「、、、あんたは?」
「マーガレットです。マーガレット・レッドアーム」
ソジュンはいきなりの事で頭を抱える。
「あんたがジンの兄貴の恋人か」
「ジンを知ってるの!あっ、僕はテュールだよ。よろしく」
マーガレット側の人間が順に挨拶をしていく。
一通り挨拶が回った後、再び視線はソジュンに注がれる。
「あーえっと、俺はソジュン、ヘルゲートの鍵とか神骸とか諸々の話は聞いてる。この大掛かりな誘拐の目的が分からないが、おそらくコピー精度を高めるためだと地上組と話して捜査してたら女に襲われて地面が崩れてこの通り」
名前を聞いた瞬間、唯一マーガレットだけ反応する。
「ソジュン、あのソジュンですね。ジンに何度か話を聞いてますよ」
マーガレットは笑顔になりながら話す。
「どんな話を聞いてるか知らないけど、俺はあの人を恨んでます。正直言って話したくないレベルで」
一瞬空気がピリつく、目の前にいるヘイムダル以外はジンに好意的な印象を持っているからだ。
しかしマーガレットがすぐに返答して場を和ます。
「ジンは恨みが多いですから。また碌でもないことをしたのでしょう?」
「、、、怒らないのか?」
「色々とありますからね」
マーガレットはそのまま歩き出す。
ヘイムダルは顎をさすりながら関心する。
「地上にいた連中もなぜ大量の人間を誘拐していたか見当をつけてたのか、、、予想以上に優秀だなこいつは!」
そこから暫く電子の空について会話した後、ソジュンは疑問が生まれる。
「それなら疑問なんだが、何をコピーするためなんだ?」
テュールが歩きながら頭の後ろで手を組み答える。
「なんでも、ヘルゲートに閉じ込められた神々の父をコピーするんだってさ」
「、、、それってやばいのか?」
ソジュンの疑問にヘイムダルが答える。
「誰も勝てない独裁者が生まれるってことだ」
誰も反応せず静まり返る。
「まあ、、、ヘルゲートが開かなければ大丈夫ってことだよな?」
先ほどと違い全員目を逸らし気まずそうにする。
「なに?どうしたの?」
「実は、、、さっき開いちゃってさ」
ソジュンは驚いて目を限界まで開く。
「、、、えっ?、、、だったら、、、」
「だったらなぜ生きているの?と言いたい訳ですわね」
オリヴィアが察して続きを答える。その疑問にはヘイムダルが答える。
「あのクソ機械、ヘルゲートにいる父上を複写した瞬間にリソース全部そっちに回したせいで俺たちの相手も出来ないしで猶予だけ寄越しやがった」
どうやら大掛かりな作業だったようで機械はマーガレット達を攻撃したりするでもなく複製の方にエネルギーを回したようだ。
「猶予って何日だよ。大体、複製中なら今すぐ中枢機器を壊せば」
ソジュンの意見をヘイムダルは真っ向から否定する。
「複製中の中枢機器を壊すと電子の海がこちら側に流れ出しちまう。中枢機器を経て大量のコードを書き換え生成して生み出してるからな。もし中枢機器を介さない純粋なコードがこちら側に流れ出すとどうなるかは俺にも分からない。後、猶予は残り八時間だ」
ソジュンは返答を聞いて頭を抱える。
「何が起こるか分からないから壊せない上に猶予は八時間?八時間経ったらどうなる」
テュールが答える。
「その神々の父のボディを複製した機械が僕たちを殺して宇宙を支配しようとする。陳腐だけど事実だ」




