脱出作戦2
「すごい数だね。これはまるでギュウギュウカーニバル3065だね」
「なんやそれ」
「ギュウギュウカーニバルで一番人が多かった年だよ」
「無視してください。テュールはたまに訳のわからないことを言うんです」
ヘイムダルを先頭で順に、テュール、カスミ、オリヴィア、ポー、マーガレットと並んでいる。
「どこに向かってますの?」
オリヴィアの疑問にヘイムダルは答える。
「ん?ああ、複製機のパーツ回収とあの機械野郎をぶっ壊す」
「一回捕まったのにいけるんか?」
カスミは手を頭の後ろで組みながら話しかける。
「手はあんだよ。問題ねえよ」
二人の会話にマーガレットが入り込み質問する。
「そもそも神のあなたがなぜ人の技術を?」
「これだけは人の技術じゃないと作れないものだったんだ」
ヘイムダルは遠い目をして答える。
しばらく歩いていると大きなドーム状の部屋に入る。真ん中には大きな木のようなものがあり、それを中心に円形に通路があり、そこからいくつかのドアに続く形で外に向かって分岐している。
「なんで木がこんな地下にあるの?」
テュールの純粋な疑問にヘイムダルは答える。
「あれは電子の空、データの変換機だ。下にある電子の海から有象無象のデータを集めエンコードし複製した人間、物を実のように生成する」
ヘイムダルは電子の空を見つめ、あることに気づく。
「二体だ。複製が生まれたぞ。近くにいるはずだ」
ヘイムダルが指さした先にはビスマスのような色合い抜け殻が二つ吊るされていた。
「複製機まで慎重に行くぞ」
「さっき言ってた電子の空?っていうあのバカでかいもん取り外すんか?」
「いや、エンコードの中枢機器だけでいい、ハンディサイズだ」
「では、早く向かいましょう」
マーガレットが言った言葉の直後、アラートが響きアナウンスが聞こえる。
『戻ってきたのかヘイムダル、と言ってもあなたが戻ってくる可能性は98%あった』
「お前は、、、機械のクソやろう!」
「そやから名前ないんか聞いたのに、締まらんなあ」
カスミの突っ込みを無視して機械は話しを続ける。
『名前は必要ない、、意味がないから』
「何が目的なんですか」
マーガレットの質問に機械が答える。
『ヘイムダルが話していない。想定内、話す確率10%未満だった』
全員がヘイムダルに目を向ける。彼はバツが悪そうに眼を背ける。
「いやあ、話すと長くなるっていうか。めんどくさい、、、というか」
「僕はなんとなく分かるけどねえ」
テュールの発言に今度は全ての眼がテュールに向く。
「なんで黙ってたんですかテュール」
マーガレットがテュールに詰め寄る。
「いや、おじさんから話したいかなあって」
ヘイムダルがテュールのことをじっと見つめている。そして独り言のように呟く。
「、、、お前さん、、、テュールか。なるほどテュールの力を持つ人間か、、、面白い」
「なんか言ったか神さん?」
「いや、何でもねえよ。それより話を戻す。あの機械の狙いは神々がかつて封印した神々の父をもう一度この世に呼び出すことだ。今より勝った世界を取り戻すことが合理的だと考えたのだろう」
「ただの機械がどうやってその結果を考えましたの?」
オリヴィアの疑問にテュールが答える。
「現状の僕らの世界、旧世界、どちらが勝っていると思う?」
「それは比べようがありませんわ」
続いてヘイムダルが説明を続ける。
「そう、本来分からないんだ。人の技術は今回の複製機のように神の力を上回ることもある。しかし、明確に神々が人より勝っている点がある」
マーガレットが気づいたのか答える。
「寿命、、ですね」
「そうだ、俺たち神は半永久的に生きることができる。人の技術が今後発展すれば人も永遠の命ってものを手に入れるかもしれない。けど現状それを有しているのは神だ」
「けど、それがイコール優秀になるの?」
ポーは少し不満そうに聞き返すとヘイムダルはニヤッと笑う。
「難しいところだな。ただ種としての繁栄、維持を考えるとそういった特性を持つ生命の方が優秀ということになる」
カスミが少し睨みながらヘイムダルに問い返す。
「、、、失礼かもしれんけど、神さん達の時代が戻ってくるならおっさんは嬉しいんとちゃうん?」
「いや、俺はもう旧世界に興味も未練もない、それにあの機械が作ろうとしている世界は旧世界の最悪の時代だ。我らが父を復活させ地獄のような世界を作るつもりだ」
『嘘を検出:未練あり、地獄のような世界にはならない。99.9%でそのような結果にならないことを演算済み』
機械が割り込んでくる。嘘を検出の部分に引っかかったのかカスミの眼光は更に強くなる。
「やっぱり信用できへん」
「そんなのはどうでもいいさ、さっさと複製機を回収、、、」
「動いたあかんで!うちが回収する!」
ヘイムダルはめんどくさそうな顔をして返事する。
「へいへい、分かりました。指示出すからとっととしろよ」
カスミが動き始めた瞬間、電子の空に続く通路に一本の通路に何かが着地する。
それはポーだった。
「ポー?のコピー!あかん、とりあえず倒さなかんのか?」
「コピーならまだ目の能力は使えないはず、オリヴィアのコピーにも気を付けていきましょう」
「力が使われへんのやったら言い方悪いけど負ける気はせん」
カスミの言葉にオリヴィアとポーは肯定する。
「超能力がないのであればパンチの威力は肉体相応になるはずですわ」
「あたしもそんなに動けない」
マーガレットが跳躍して飛びかかろうとするとその体が吹き飛ばされる。
受け身を取って着地するその顔は驚きが現れていた。
「今のは、、、、」
ヘイムダルが代わりに答える。
「完全再現は完成したのか、、、必要なデータは既に揃ってたんだ」
『演算:対象はいまだ気づいていない』
「ほな眼の能力使えるっちゅーことか?」
「そうなるね」
テュールは軽く返事をし、
「対異能拘束具:ロックマナ」
鎖を召喚してポーに投げつける。
その拘束具は偽ポーの身体を縛ったと思った瞬間、偽ポーのヘルゲートの鍵で解除されてしまう。
「なにあれ、、、」
茫然とするテュールにヘイムダルが答える。
「一つで真実を見抜く。おそらく見通されたんだ。拘束具解除までの真実の概念を、、、」
「そんなの無茶苦茶じゃんか!」
「あの眼は思ってた以上に厄介ですね」
カスミとポーが前に出る。
「それなら楔を打ち込めば止まるやろ」
「うん」
『演算:想定より30cm右にズレ、ログ確認、修正、修正完了』
二人がヘルゲートの鍵を使おうとした瞬間、二人目の影が通路に降り立つ。
「オリヴィアのコピーが仕掛けて、、、あれは」
マーガレットが驚くその先にはカスミが立っていた。
「そうか、、、二体目はオリヴィアと俺たちは思い込んでいただけだ。カスミだとすればまずいぞ!」
ヘイムダルは大声を出す。
「なにがまずいのさ!?」
『対象:異常に気付く、再演算:作戦の軌道修正率、問題なし』
「ヘルゲートの鍵が四つ揃ったってことだ!」
突然のことで二人は鍵の使用を止められない。
偽物のカスミとポーはにやりと笑うと二人が放ったヘルゲートの鍵にさらに重ねるようにヘルゲートの鍵を放つ。
「まずい、終わるぞ、世界が、、、」
地獄の扉が地下で開かれた。




