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第八話 フォビオ、変化した日常に戸惑う

 魔法士審査試験の終了から既に三日。フォビオはいつものように書生として日々励んでいた。

 今日も雑務を言い渡されたフォビオは、廊下に置いた手押し車に書き損じや使用済みの不要紙を積んでいるところだった。

 そこに紙束を抱えたエラーソが現れた。


「あ、エラーソさん。紙はここに載せ――」

「何を言ってる。俺も行くぞ」

「え? エラーソさんも行くんです?」

「俺だけじゃない。ボウカンも一緒だ」


 その言葉通り、少し遅れてボウカンも紙束を抱えてやってきた。


「えぇ!? ボウカンまで行くの?」

「うん。僕も行く」

「いいけど、見ても面白くは――」

「いいから! さぁこれで全部だ。――貸せ! 俺が引く!」


 エラーソが手押し車の持ち手を引き寄せ、押しながら歩き始めた。フォビオは戸惑いながらボウカンと共に手押し車を後ろから押す。


「あ、扉開け――」


 通路の先の扉を開けようと、足を踏み出したフォビオをボウカンが追い抜く。


「えぇー……」


 テキパキと動く二人に更に戸惑いを深めるフォビオ。そのフォビオを他所に、エラーソとボウカンはズンズンと先へ進む。行き先は井戸だ。

 途中にある物置小屋に立ち寄り、長く大きな四角い枡樽を持ち出したがそれもすぐにボウカンに奪われる。フォビオは手持ち無沙汰気味に、またも後ろから手押し車を押すだけとなった。


「じゃ、じゃあここに枡樽を置いてよ。俺が水を――」


 井戸に着くとフォビオは枡樽を置く位置をボウカンに示し、井戸に駆け寄る。


「いや俺がやる!」

「僕がやるよ」

「これは俺がやるよ」

「いや俺が!」

「いや僕が!」


 釣瓶の縄を奪い合う三人。


「俺が! やるんだ!」


 そう言い張るエラーソに、フォビオとボウカンが根負けする。


「もう……」

「じゃあ……」

「「どうぞどうぞ」」


 フォビオに与えられた雑務。それは再生紙用の繊維溶液作りであった。

 枡樽に水と糊、漂白用の白灰(アルカリ)を入れ、風魔法で細かく切り刻んだ紙を水に溶かし込んでいく。撹拌も当然、水魔法だ。

 その刻みと撹拌の工程もエラーソとボウカンに奪われたフォビオはいよいよ手持ち無沙汰である。つい、その作業に口を出してしまう。


「エラーソさん、もっと【竜巻(スパイラル)】の密度を上げなきゃ。紙を細かくしないと溶けないよ。調整の神聖文と範囲の神聖式を書き直したほうが良いかも」

「……そうか。わかった」


「ボウカン、ただ【水蛇(スネイク)】を回すだけじゃなくて――うーん……あ! まず縦に回る【スネイク】を出して。回転直径は手のひらくらいの」

「えっと――……――【スネイク】! こう?」

「そうそう! その水蛇を縦に回したまま、横にも回すんだ。軌道の神聖式を再計算してみて」

「できるかな……ううん。やらなきゃ」


 エラーソとボウカンは新たな魔法陣構築に取り組み、新たに発動し直す。


「――【スパイラル】! くそ……机でただ書くだけでは加減がわからん……効果を実践で見る……その機会を俺は……」


 エラーソは実践不足の今までを実感して呟く。


「――【スネイク】! ほんとだ、いつもと混ざり方が違う……計算をサボって惰性でやってちゃ駄目なんだ……僕も考えて、工夫しなきゃ……」


 ボウカンも惰性に流された過去を思い知る。


「良い感じ、良い感じ! 二人共、さすがだねぇ。――あ、いつでも交代するよ! 俺、慣れっこだか――」

「「これは()がやり遂げる!」」

「あ、はい」


 エラーソとボウカンにより溶液が出来上がる。しかし二人は精神力を切らしたのか、地面に大の字になって息を切らしていた。


「よぅし! じゃあ樽は今度こそ俺が運ぶよ!」


 言うが早いか、フォビオは懐から出した紙にさらさらと魔法陣を描き、それを枡樽に貼って魔法を発動させた。


「――……――【息吹(ブレス)】!」


 枡樽の底から【ブレス】が発動し、枡樽が二センチほど浮き上がる。


「嘘だろ……樽を浮かばせる【ブレス】って……」

「サイズに重さ……無茶苦茶だよ……」

「さ! 行くよー」


 フォビオが右手で浮いた枡樽を押し、左手で手押し車の持ち手を掴むと、来たときとは逆にズンズンと紙漉き小屋へと歩き出した。


「くそっ! 負けるか! ボウカン、行くぞ!」

「僕、負けてもいい気がする……」

「頑張れボウカン! 頑張ればきっと来年、()との出会いが待ってるぞ!」

「よくわかんないけど……僕も踏ん張るよ」


 フォビオを追いかける二人。それをベルモンドが遠く、私室の窓から眺めていた。


「ん。良い良い。来年は全員受けれたらいいんじゃが、さて――成長が楽しみじゃのぅ」


 それから二日後。

 ベルモンドに書簡が届けられた。

 封蝋の(スタンプ)は王家の家紋であった。

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