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第五話 フォビオ、試験に挑む

「んふふー♪」


 受付を終えたフォビオは、上機嫌で指定された席へと着いた。


「受験番号いっちばーん♪ これは幸先いいねぇ。――っと【受験のしおり】を読まなきゃ! えーなになに――【お手洗いは事前に済ませましょう】か。うん。これは大事だね。読んだら行こっと! 次は――【解答用紙には受験番号と名前を必ず書きましょう】ね。うん、これも超大事! で、次は――」


 注意事項に目を通し、早速手洗いを済ませたフォビオ。講堂に戻ると続々と受験生が席に着いていた。年齢も幅広く、男女もほぼ同じ比率だ。

 やがて紺のローブを纏った魔法士が講壇に立った。


「諸君、静かに聞いて欲しい。私はカーン・シケーン。今回の担当試験官だ」

「「わかりやすい……!」」

「静かに。受付でもらった【受験のしおり】をまだ読んでいない者は挙手を。――いないようだな。今から問題用紙と解答用紙を配布する。開始まで裏返しのままでいるように。開始は昼四つの鐘、終了は昼九つの鐘だ。――では補佐官、配布を」


 補佐官が一人ひとりの机に用紙と羽根ペン、インク壺を置いていく。フォビオはニコニコと嬉しそうにそれを眺めている。

 やがて鐘が鳴り、筆記試験がスタートした。

 問題は至極簡単。神聖八十八文字を一節として、時間内に書けるだけ書けとのこと。当然正確さが求められるが解答用紙は五枚もあった。

 さらさらと羽根ペンが走る音が聞こえる。暫くするとあちらこちらで紙をめくる音が不規則に聞こえだす。そして――。

 終わりを告げる鐘の音と共にカーンが皆の手を止めさせる。


「止め! 全員ペンを置け! 次の鐘までは暫時休憩。――補佐官は回収を頼む」


 回収も終わり、フォビオはひとつ伸びを入れた。


「んー……っと! いやぁ順調、順調! 羽根ペンも折れなかったしねー。きっと試験用は物が違うんだろな。終わったらもらえないかなー」


 その言葉通り、フォビオは順調に試験を受けた。午後は魔法文の例文筆写が行われ、一日目が終わる。二日目に魔法式の問題が、三日目は魔法陣構築問題が出された。四日目は詠唱。そして五日目からはいよいよ実技であった。


「では本日から実技試験を行う。――補佐官、扉を」

 

 カーンの声で講壇の左右にある扉が開かれた。


「では諸君。中央からに左右に分かれ、前から順にそれぞれ扉の奥に進んでくれ」


 前列一番左は受験番号一番のフォビオである。


「やった! 俺、一番乗りだ!」

「静かに移動するように」

「はい……」


 カーンの注意を受けながらも扉へと向かうフォビオ。扉の先には日が差していた。そして視界に入るのは中庭と呼ぶには少し殺風景な場所。そこが実技場であった。


「おぉー、ここは初めてだ……」


 実技場は四つに仕切られており、それぞれに設備が置かれていた。


「では設備を説明する。まずここが火魔法の試験で使う【的撃ち】だ。【火球(ファイア)】をここから撃ち、あの的に当てる。一から十六の数字が書いてある四✕四のマスを狙い、撃ち落とす。撃てるのはマスの数と同じ、十六回だ」

「「おぉー……!」」

「面白そう! では早速――」

「待て待て待て。全部説明してからだ。その後四つの組に分かれて、今日と明日、午前と午後の4つの時間帯で行う。いいな?」

「はい!」


 フォビオは試したくてうずうずしているが、説明を聞かねば組分けもできない。足取り軽く移動し、説明を聞く。他の三種は次の内容であった。

 地魔法【(ストーン)】で標的(ピン)を倒す【岩転がし】。

 水魔法【水蛇(スネイク)】を操って砂地の迷路を進む【早抜け】。

 風魔法【息吹(ブレス)】で巨大風車を回す【早回し】。

 全て規定発動回数が設定されている。試験内容は魔法発動時の魔法陣構築速度、威力や射出角度の調整、持続時間など集中力が試され、審査される。これはあくまでも試験、遊びではないのだ。


「今回の受験者数は二十三人か。――では受験番号順に六人ずつ、最後の組だけ五人で行こう。受験番号一番挙手!」

「はい!」

「続く五人、挙手!」

「「はい!」」

「よし! こっちに並んで静かにしておけ。次! 七番――」


 カーンの号令で四組に分かれ、設備に割り振られた。フォビオ組の一つ目の課題は【的抜き】である。


「これ絶対面白いやつだよね! ウシシシ」

「じゃあさっそく準備しよう」


 楽しみを隠しきれないフォビオに苦笑いの補佐官が待てを伝える。


「準備って……」


 見ると、的のそばにいたもうひとりの補佐官が的全体に布を被せた。


「ふふ。数字が順番通り並ぶとは限らない。――あっちが終わるまで補足しようか。他の皆も聞くように」

「「はい」」

「的の数字はシャッフルされ、開始の合図で布が取られる」

「「え」」

「布が取られたと同時にこちらでは砂時計が返され、数字が告げられる。君たちはそれを聞いてからこの机で魔法陣を描き、発動させて的に当てる」

「「え……」」


 そう言って指差した机が開始位置なのだろう。机の脚は杭でしっかりと固定され、木箱に紙と筆記具が、机の上にはロッドが置いてある。


「当たっても外れても次の数字が告げられるから、その都度君たちは新たな魔法陣を描き、魔法を使う。十六回しか魔法を使ってはいけないから、失敗したらその数字のリカバリーはもうできない」

「「なるほど……」」

「十六回目の魔法発動と同時に砂時計が倒され、計測も終わる。的と砂時計、魔法陣は回収され、審査の対象となる。的のどこに当たったのかも含めてね。わかったかな?」

「「はい」」


 フォビオも大きな返事でにこやかに頷く。やる気は十分だ。


「向こうも終わったみたいだ。――では受験番号一番、用意!」

「はい!」


 フォビオが返事と共に机の前に立つ。補佐官が手に持った赤旗を頭上に上げる。


「始めっ!」


 補佐官の旗が振り下ろされ布が外される。


「――八!」

「――……――【ファイア】!」

「じ、十二!」

「――……――【ファイア】!」

「五!」

「――……――【ファイア】!」


 ざわつく受験生。フォビオの魔法陣構築から詠唱、発動までが早過ぎる。そして見事にその数字の的を抜いていくのだ。数字を読み上げる補佐官も目を見開いていた。


「十三!」

「――……――【ファイア】!」

「四……!」

「――……――【ファイア】!」

「終了……」

「やったぁ! 全部抜けた!」


 諸手を挙げて喜ぶフォビオの姿を、皆が呆然と見守っていた。



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