第十四話 フォビオ、夕食会を楽しむ③
フォビオ達と歓談を終えたオルフィスとカリーナは次のテーブルへと向かい、各テーブルを周り終えていた。
「――皆の邪魔をしたことを申し訳なく思う。では明日、叙爵式の会場でまた」
「どうぞごゆるりとお過ごされますよう」
そう告げて退席した二人。少しの余韻を残し、またのんびりとした時間が流れ始める。
「オルフィス王子殿下は凛々しくて、カリーナ王女殿下はお美しかったですねぇ」
「お主も少しはそんなことが言えるようになったか。良い良い」
フォビオの言葉に頷くベルモンド。二人はそう言いながらも次の料理が気になって料理台へと視線を向ける。そしてやはり王家の執事は教育が行き届いている。アランがさり気なく二人を促した。
「では次の料理も是非お選びくださいませ。参りましょう」
「行くぞい、フォビオ」
「もちろんです! 何があるかなぁ」
次は副菜の料理台である。そこには四角い料理蓋が被せられたトレイが並んでいた。
「ではどうぞご覧ください」
アランの言葉を合図にシェフが次々とクローシュを開けていく。
「こちらは鴨レバーのパテ、こちらがその鴨肉のほぐし身でございます。そしてこちらがマスアユの香草蒸し、こちらが巻キヤベツのクリーム煮でございます」
「うわぁ!」
「美味そうじゃ!」
パテはカナッペのように予めパンの上に乗せられ、ほぐし身はその名の通り、既にほぐされているので切らなくても済む。香草蒸しも香り付けのための切れ目が深く入れられ、こちらもフォークで刺せばいいだけだ。そしてクリーム煮、こちらはなんと一口大の大きさで葉が丸められていた。手の込んだ仕事ぶりである。
「この後にメインがございます。副菜は少量ずつお召し上がりいただくのが良いかと。お好きなものがございましたらメインの後でまたお出しできますので」
「ん。そうしようかの」
「うんうん、そうします!」
「ではどれぐらいがよろしいか、お聞かせくださいませね。ではパテは――」
アランが二人から分量の希望を上手く聞き取り、シェフがそれに応える形で皿へと盛り付けていく。二人の希望は結局全種だ。その皿ともうひとつ、パンが並んだ皿もトレイに乗せてテーブルへと戻った。
「このパンは……?」
フォビオの疑問にアランが応える。
「こちらのほぐし身にはソースが、クリーム煮には煮込んだ際のスープがかかっております。そのソースもスープも大変美味しゅうございますので、残ったソースもこのパンにつけて召し上がっていただければと」
「そうします!」
侍女がテーブルにフォークを用意すると、早速料理を口にする二人。
「ん! このほぐし身、ジューシーで脂の旨味が凄いですよ! そしてこのソース、すごい爽やか!」
「そちらはグーランベリのソースでございますね。グーランベリの酸味と鴨肉は非常に相性がよろしいかと」
「このパテもいいのぅ。生臭さが全くないわい。舌ざわりも滑らかじゃ」
「新鮮な肝と火の通し方がコツとのことにございます。練り方も工夫がなされるそうでございますよ」
アランの説明が、更に料理を味わい深いものへと変える。
「このクリーム煮も濃厚ですねぇ。そしてキヤベツが柔らかい」
「搾りたての乳を使うのもそうですが、小麦の粉を焦がさぬよう注意が必要だとか。柔らかさの秘訣は葉の葉脈に隠しナイフを入れるそうでございます」
「マスアユも絶品じゃ。柔らかく蒸し上げ、じゃが身の締まりを残しておる。そしてこの香りよ」
「大量の湯を沸かし、一気に蒸し上げるそうにございます。香草を敷き詰めた蒸し器を使い、湯気そのものにも香りを移すのだとか」
満足そうな笑みを浮かべ、食べ進めるフォビオとベルモンド。どうやらフォビオは味の濃いほぐし身とクリーム煮が、ベルモンドはパテと香草蒸しが気に入ったようだ。二人の皿はパンで磨かれ、ピカピカであった。
「お代わりしよっかな……でもメインが気になるなぁ」
「焦らずとも良いわい。大物を逃すことこそ、最大のしくじり。兵法の基本じゃぞ?」
「さすが先生です!」
フォビオとベルモンドが話していると、近くのテーブルから小さなざわめきが起こった。見れば、ダニエルとラファイエ、テオフラストゥス学園長がいるテーブルだ。どうやらひと足早くメインを食べた模様。フォビオは思わず視線を料理台へと向けた。既にエンハイドラ学園のサーラとミランダの姿もそこにある。
「先生!」
「ん。行くぞい」
頷き合う二人をアランが誘導し、早速メインが置かれた料理台に着く。
「ではシェフ、お二人にもメインをお願いいたします」
「はい。――本日はメイン、二品となっております」
「「おぉ!」」
「はい。まずはこちら、豚タンのネギ塩ダレ焼き。そしてもう一品、豚の角煮でございます」
「「タン塩と角煮!」」
「豚はイベリコン領から取り寄せました逸品でございます。そしてネギはクジョー家自慢のクジョーネギ。それを塩ダレにしましてじっくりと焼き上げました。角煮も王家秘伝のジャンで味付け。煮ては冷まし、煮ては冷まし。それはそれは柔らかく煮上がっております。そして煮汁に漬け込みましたこの煮卵」
「「煮卵!」」
「はい。この煮卵無くして王家の角煮とは呼べません。では盛り付けいたします」
盛り付けられた皿をアランに運んでもらい、フォークを手にする二人。
「じゃ……」
「ん。いざ!」
フォビオは角煮を、ベルモンドは豚タンを口に入れた。
「んー……!」
「んむ……!」
今まで饒舌に味を語っていた二人だが、豚タンと角煮をそれぞれ食べた時。その肉は二人から言葉を奪った。魔法使い二人から、その詠唱スキルを奪うほどの美味さがそこにあった。
夕食会エピソードも無事終わり、次回いよいよ叙爵です。




