第十三話 フォビオ、夕食会を楽しむ②
ベルモンドと共に各テーブルへの簡単な挨拶を済ませたフォビオは、広間の装飾品を眺めながらも料理台に何があるのか気になって仕方ないようだ。
「あっちには何があるんですかね?」
「色々ありそうじゃのぅ」
ベルモンドは相槌を打ちながら、どこか嬉しそうにしている。フォビオが楽しんでいるのが嬉しいのだ。
そこへ、担当執事のアランが声を掛けてきた。
「フォビオ様。よろしければ次の前菜をお選びになりますか?」
「! いいんですか?!」
そう提案したアランの顔を嬉しそうに見るフォビオ。
「もちろんでございます。よろしければマクガイン魔導子爵様もご一緒に」
「そうじゃの。いってみるか、フォビオ」
「はい、行きましょう」
「ではこちらへ」
二人はアランに連れられ、料理台へと向かう。そこは生野菜卓であった。
「おぉー!」
卓上にはスティック状にカットされた彩り豊かな野菜が並んでいた。
「シェフ、ご説明をお願いいたします」
「はい。――こちらからキウリ、ニニンジン、セロリナ。こちらが赤カブ、こちらは白カブでございます。こちらの二種は揚げイモ。こちらはメイ女王が好まれたと、こちらはオイモスキー男爵が発見したとの逸話がございます」
「メイ女王とオイモスキー男爵……。じゃあ全種類ください!」
「かしこまりました。――こちらの三つをお好みで付けてお召し上がりください。ビネガー、ソルト、トマトソースでございます」
アランが持ったトレイに、野菜スティックの盛り合わせと揚げイモのスティックを入れたワイングラスが二つ、小さなショットグラスに入った調味料も乗せられる。
「ではスープもどうぞ。コンソーメとポタジュがございます」
「ワシはコンソーメがいいのぅ」
「じゃあ俺はポタジュにします!」
戦利品を持ち帰るフォビオとベルモンド。早速テーブルに付くと、先回りしていた侍女が二人にフィンガーボール代わりの湯で湿らせたナフキンを渡す。
「どうぞこちらをお使いください」
「お。こりゃいいのぅ」
「ほんとですね。丁度いいあったかさです!」
そう言って手と顔を拭くフォビオとベルモンド。手、顔、そして首筋までおしぼりで拭き上げる。そのシンクロした動きはまさに師弟の動きである。侍女が目を丸くしたのをフォビオもベルモンドも気付いてはいない。
その時、ざわっと周囲がどよめく。丁度オルフィスが部屋へと入ってきたのだ。皆が食器を置き、立礼を送ろうとした矢先、オルフィスがそれを制止した。
「あぁ、皆。無礼などと問うたりしない。どうかそのまま食事を続けて欲しい。闖入者は私達、立礼は不要だ」
「そうですわ。どうぞ楽にしてくださいませ」
私達、と言ったオルフィスの影から、女性が一人現れた。
「――カリーナ王女殿下……!」
誰かの呟く声がフォビオにも聞こえた。フォビオは確認すべく、隣のベルモンドに囁き声で問いかける。
「王女殿下って……お姫様ですか?」
「ん。そうじゃ。みだりにジロジロ見てはならんぞい?」
二人に目礼するベルモンドに倣い、フォビオも目礼を送る。本当に食事を続けても構わないのかと戸惑うフォビオを他所に、オルフィスとカリーナが従者を伴ってテーブルへと歩みを進める。どうやら二人は合格者席次順に周るつもりなのか、まずはサーラへと話しかけていた。
「本当に食べても――あ、王子殿下も食べてる。サーラさんも食べた……じゃ、いっか。食べよ」
「構わんぞい。殿下は小さいお方ではない。――この揚げイモは食べやすそうじゃ」
オルフィスとサーラが何やら食べてるのを見て、スティックへと手を伸ばすフォビオとベルモンド。
「これは――細工がしてあって綺麗ですね (ポリポリポリ)」
「ん。――このイモは 塩も良いが……トマトソースも良いのう(モグモグモグ)」
「じゃ俺も―― こっちはホクホクで……こっちはホロホロですね。(モグモグモグ)」
「このコンソーメのスープがまた、あっさりの中にコクがあって美味いんじゃぞ?」
「このポタジュは……濃厚で甘みもあって、生野菜に合いますね」
フォビオとベルモンドの感想に、二つの相槌が入る。
「なるほど」
「そうなんですね」
見れば、さわやかに笑みを見せるオルフィスと、温かく微笑むカリーナの姿があった。
慌てて目礼するフォビオと、落ち着いた様子で目礼を送るベルモンド。オルフィスがまずベルモンドへと話しかける。
「ベルモンド老師……いえ、マクガイン大魔導師爵殿、お久しぶりです」
「お久しぶりでございます、オルフィス殿下。――このタイミングでお見えになられるのは流石にござりますな」
「機を見る術をマクガイン大魔導師爵殿に教わりましたので。――フォビオ殿は私と違い、見事に首席でしたか」
「何をおっしゃられるか。オルフィス殿下は武の才が高き故、それと智略も。折がありますれば、盤上模擬のお相手を是非に」
「機会あれば是非。……ところで今回の席次、意図は」
オルフィスが少し声を落とし、席次に何かしらの力が働いていないかを問いかける。見事に魔法三施設が横並びになったからだ。そして恐らく、オルフィスがそれを問えるのはベルモンドだけなのであろう。その問いにベルモンドが応える。
「ございませぬ、大魔導師の名に掛けて。――サーラはその詠唱技術が、ダニエル殿は軌道計算技術が群を抜いております。フォビオは……まだ本人には知らせておりませぬゆえ――陣、とだけ。ラファイエとミランダ殿も一昨年と同じ水準に達しておる、と断言いたしまする。もし何かあったとすれば、サーラとミランダ殿が入れ替わっておるはず。ご心配には及びませぬ」
「ふむ。なるほど、邪推をして済まなかった。父にもそう伝えよう」
オルフィスは笑顔を崩すことなく頷くと、揚げイモをもりもりと食べているフォビオに視線を移す。その視線の移動に気付いたカリーナが、楽しそうにオルフィスに告げた。
「お兄様、フォビオ殿はなんとも美味しそうに召し上がられますのよ」
「はい! とっても美味しいです!」
「うふふ」
「はははっ。フォビオ殿、また折があれば是非晩餐でも」
「晩餐……ですか?」
晩餐を良く知らないフォビオが少し首を捻って考えるところにカリーナが助け舟を出す。
「お兄様、それより先にお茶会がよろしいのではなくて?」
「そうだな。折を見て茶会に招くと良い。皆を誘ってな」
「はい! お茶も好きです!」
フォビオは楽しげに返事をして揚げイモをまた一本、口に入れた。




