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第十二話 フォビオ、夕食会を楽しむ①

 夕食会にオルフィス王子が顔を出す。その知らせを受けた第二厨房は緊張に包まれていた。

 夕食会を任されたグルメーダ副料理長が料理人達と対応を検討しているところだ。グルメーダの重い口が開かれる。


「――さすがにお食事は召し上がらないとは思うが……予定してた定食式(ワンプレート)は止めよう。王族の前に皿がないのは不味い。……ここはやはりコースか……」

「ですが――テーブルマナーが……」


 シェフのひとりからそう指摘され、グルメーダは瞳を閉じて考え込む。二呼吸ほど置き、何か思い付いたように瞳を開いたグルメーダが考えをシェフ達に伝える。


立食形式(ビュッフェスタイル)で提供しよう! スープも皿ではなくカップに入れてしまえば作法もへったくれもあるまい。前菜も副菜も主皿(メイン)もその場でこっちが食べやすく切って……えぇい、パンも切ってしまえ! そうすればパン屑も出まい。――パンは食べ応えもいるからな、カナッペより厚く……そうだ、いっそのこと四角に切って焼目の有り無しで格子柄に並べよう。見栄えも恐らく良いはず。どうだ?」

「いい考えです。それなら参列者に恥をかかせません」

「皿とフォークだけは大量に用意がいるな。準備してくれ」

「はい!」

「さぁ取り掛かるぞ!」

「「はい!」」

「スープはいつもより冷まそう。温度が低いとえぐ味を感じやすいぞ。灰汁をしっかり取って塩味に気を付けろ。サラダは……面倒だ! スティックにしてワイングラスに入れろ。単純な棒切りにはするなよ、飾り切りだ。ソースを寝酒用(ナイトキャップ)のショットグラスに入れてディップして召し上がっていただこう。あとはデザートか。そうだな……一口大にカットした混合果実(フルーツポンチ)の酒抜き。これでいこう。わかったな?」

「「はい!」」

「よし! では誰か、執事長に伝達してくれ! 形式は立食、料理はすべて会場で取り分け、手配を頼むとな」

「私が行きます!」


 見習いシェフが執事長の下へと急ぐ。

 グルメーダ副料理長が取り仕切る厨房は、まさに戦場となった。


 グルメーダからの伝達を受けた執事長セバスチャンは早速執事、侍女らに指示を飛ばしていた。


「形式は立食だそうです。料理はすべてその場で取り分けるとのこと。配膳担当は式典の時と同様の執事が当たるように」

「「はい」」

「何かあれば目線で合図(アイコンタクト)します。――侍女長は侍女らに指示を」

「はい。皆さん、ご承知のように参列者の皆様の中には不慣れな方も多ございます。今回はフィンガーボールを出しません。代わりにナフキンは多めに普段の五倍用意を。ティーワゴンの下に湯を張った桶も用意してちょうだい。必要であれば温かい手拭きを差し上げるように。あぁ、万が一があります。湯はヤケドしない程度で。食器の破損には目を光らせてちょうだい。お怪我があってはなりません。よろしいですか?」

「「はい」」


 その頃。フォビオはそうした厳戒態勢(おもてなし)が秘密裏に準備されていることに気付く筈もなく、部屋でベルモンドとお茶を飲んでいた。


「このお茶、美味しいですねぇ」

「美味いのぅ。――して、どうじゃ? ワシが試験前に言った、お主に足りぬ()()は見えたかの?」

「あ」


 式典で舞い上がっていたせいもあり、すっかり忘れていたフォビオ。改めて試験中、試験後に起こったことを思い出しては試験前と比べてみる。


「えぇっと、そうですねぇ……。あ! 筆記の試験はいつもの課題と同じだったけど、実技は違いました!」

「ふむ。どう違ったのじゃ?」

「いつもより楽しかったです!」

「……なぜそう感じた?」

「え? なぜ? なぜ……なんでだろ? えぇっと……」


 フォビオは腕を組んで考え始めた。実技場の設備は確かに面白かった。しかしあの場でまた魔法を使えると思い描いた時、なぜか一緒に試験を受けた受験生達の顔も浮かんだのだ。そこでフォビオは気付いた。


「そうだ! 競争したから……先生! 競争したからです!」

「ん。そうかそうか。では、もうわかるな? 何が見えた? 何が足りぬ?」

「俺、友達が少ない!」

「ふぁあ?!」


 フォビオの解答を聞き、ベルモンドは少し椅子から滑り落ちそうになった。


「そうきたか……確かに友達も少ないのぅ。じゃが、良い良い。競うという言葉も出たしの。フォビオ、お主に足りんのは――闘争心じゃ。己を高めるために挑む心じゃな」

「闘争心……」


 フォビオが呟いた時、脳裏にパージェロの姿が浮かんだ。今回は残念な結果に終わった彼。しかしフォビオはなぜか、彼は来年、必ず合格するだろうと確信に似たもの感じた。


「なるほどあれが闘争心……高みに挑む心、か。――先生俺、確かに足りなかったかも。俺、高みに挑みます!」

「ん。これからは()()()()()()()

「はい!」


 フォビオとベルモンドの談笑は続き、やがてノックの音と共に執事のアランが現れた。


「マクガイン魔導子爵様、フォビオ様、夕食会の準備が整いましてございます。広間にご案内いたします」

「いよいよですよ、先生! 夕飯、楽しみですね!」

「メニューは何かのぅ、楽しみじゃ」


 アランの案内で会場に入る二人。そこは厳かな装飾だった式典会場とは違い、華やかさを感じさせる小広間であった。


「うわぁ! 凄い!」


 左手に並ぶ小テーブルには純白のテーブルクロスが掛けられ、あちこちに生花も飾られている。そして一番目を引いたのは、右手に並べられた料理の数々である。その料理台の奥には白い調理服を着たシェフ達が控えている。


「いい匂い! 堪りませんよ、先生!」

「堪らんのぅ、涎が出そうじゃ」

「どうぞ、お二人のテーブルはこちらでございます」


 アランに促され、小テーブルに並び立つ二人。フォビオはキョロキョロと周りを見るが、どのテーブルにも二人、または三人しかいない。


「珍しい並びですねー」

「ふふ。なるほど()()来たか。ま、楽しもうかの。――さて、始まるぞぃ」


 見れば、たくさんのグラスをトレイに乗せた飲物給仕(ウェイター)がテーブルを移動しながら飲み物を置いている。フォビオは水を、ベルモンドは葡萄の発泡酒を選んだ。そう時間を置かず、式典で進行をしていた魔法院事務次官のグラハムの簡単な挨拶で夕食会は始まった。


「ん。ではフォビオ、グラスを持て。挨拶に行くぞい」

「え? 夕飯は……」

「安心せい。あちこちで食べれるわい。さ、さっさと済ませるぞい」

「はぃ」


 ベルモンドは歩みを進め、まずは学園職員しかいないテーブルへと向かう。


「ほれ、フォビオ。こっちじゃこっち!」

「はい。こんばんは、ベルモンド様の弟子の――」

「ワシの弟子のフォビオじゃ。よろしゅうな」

「「よろしくお願いいたします」」


 そこへ給仕係が前菜を持ってくる。


「こちら前菜です。脂の乗ったササンマの腹にモニジの葉を詰めて焼いたモニジ焼きでございます。塩を振っておりますのでそのまま、どうぞ」

「モニジ焼き……」


 皿には丁度一口分に切り分けられた肉を乗せた小さなカナッペがちょこんと乗っている。それを摘んで口に運ぶフォビオ。甘い脂と香草の香りが食欲をそそる。


「おぉこれはなかなか脂が乗って――」

「こりゃ美味いのぅ。――ではまた後での」


 カナッペを食べ終えると早々に挨拶を切り上げるベルモンド。


「え? あ、ではまた後ほど……」


 慌ててフォビオも追いかける。次のテーブルは魔法院関係者の場所だ。


「ほれ、フォビオ。こっちじゃこっち!」

「はい。こんばんは、ベルモンド様の弟子の――」

「皆知っとるの、ワシの弟子のフォビオじゃ。改めてよろしゅうな」

「「よろしくお願いいたします」」


 そこへ給仕係が前菜の続きを持ってくる。


「続きましてこちら、アマドワイの皮のねじれ焼きでございます。お熱いうちに、どうぞ」

「ねじれ焼き……。ほんとだ、ねじれてる。――ん! 皮が香ばしい! 焼き加減が絶妙――」

「皮がパリパリじゃのぅ。――ではまた後での」

「え? また? あ、ではまた後ほど……」


 その調子でどんどんと挨拶を終わらせていくフォビオとベルモンド。あっという間に全てのテーブルを周り、元のテーブルへと戻ってきた。途中、サーラやダニエルは目を丸くしたが、ミランダは小声で笑い声を漏らした。魔法学園の学園長らは苦笑いだったのだが、それにフォビオが気付くことはなかった。


「先生、は、早すぎませんか?」

「ん? どうせまだまだ(もう一話)続くんじゃ。後はゆっくり食べながら、話したい者が向こうから来るのを待てば良かろ?」

「……それもそうですね」


 夕食会はまだ、始まったばかりであった。

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