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第十一話 フォビオ、褒章をもらう

「うん。皆、顔を上げて楽に」


 オルフィス王子の声がかかり、フォビオも顔を上げた。正面の段上やや左に、白い略式儀礼装(三つ揃いスーツ)を纏ったオルフィス王子の姿があった。つい見とれてしまったフォビオだが、進行係の口上が始まり、慌ててそちらに視線を移す。


「ではこれより、ヴァルフィリア王家、オルフィス・ヴァルフィリア王子殿下お立会いの元、魔法士審査試験合格者の褒章式を執り行います。進行は私、カリバザス魔法院事務次官グラハムが務めさせていただきます。――改めて、合格者席次と共にご紹介いたします。首席、エンハイドラ学園、サーラ殿」

「はい」


 サーラは返事と共に一歩前に出るとオルフィスに立礼を送った。一呼吸で顔を上げると足を引き、また列へと戻る。フォビオはそれを横目で見ながら『そうだった』と思い出す。事前に聞かされていたのだが、オルフィスとの対面で()()()しまっていたのだ。


「続いて――同じく首席、テオフラストゥス学園、ダニエル・ブランドン殿」

「はい」

「ほぉ」


 ダニエルの返事に少し遅れ、オルフィスも声を漏らした。見れば、オルフィスは立礼したダニエルが列に戻ると小さく頷き、視線をダニエルから左側の列席者に移した。魔法院や学園関係者がいる場所だ。

 フォビオもそれにつられて関係者の列に視線を送る。ほぼ全員が紺ローブで、一部金糸が施されたローブを纏っている者もいた。もちろんベルモンドも参列している。しかし、いつの間に着替えたのか、ベルモンドは普段よりも金糸装飾が目立つ紺ローブを着ているではないか。見慣れぬその姿に思わず目を丸くしたフォビオだが、式典は進行中である。


「続いて同じく首席、カリバザス魔法院フォビオ殿」

「は、はい!」


 フォビオもしっかりと前者二人を真似、立礼して列に戻る。そこでずっと自分を見つめているオルフィスの視線に気付き、思わず笑みを浮かべてしまった。しまった、と固まってしまったフォビオだが、オルフィスは気にしないどころか、微笑みを返して小さく頷いた。フォビオも今度は目礼を返す。


「続いて第四席、テオフラストゥス学園ラファイエ殿」

「はい」

「最後に第五席、エンハイドラ学園ミランダ・アスキン殿」

「はい」

「――続きまして、法衣授与に移ります。エンハイドラ学園長、オリビア・アシュフォード大魔導師爵様、お願い申し上げます」

「はい」


 ベルモンドと同じく金糸装飾の紺ローブを纏った老婦人が列を外れ、後ろに控えた執事と共に前席に歩みを進める。髪はひっつめた白髪だが、歩みに年齢は感じさせない。

 オルフィスへの立礼のあと、オリビアがサーラから順に祝福の言葉と共に法衣を授与していく。


「良くがんばりましたね。おめでとう」

「ありがとうございます」


 受け取ったあとはフォビオらの後ろにも控えている執事達に一旦預けるのだが、フォビオはその、畳まれた紺のローブが自分の物だと思うと愛おしくて堪らない。何度もその生地を撫で、だらしない顔になってしまった。


「んふふ……んふふふ……」

「……フォビオ様、そろそろ」

「――あ……ごめんなさい」


 小声で執事に促され、フォビオも慌てたように執事へと預けるが、その手つきはとても丁寧だった。


「コホン。――では、印章(タリスマン)授与に移ります。カリバザス魔法院ベルモンド・マクガイン大魔導師爵様、お願い申し上げます」

「はい」


 ベルモンドはいつもの『ん』という返事ではなかった。王族の前というのもあるが、式典という場を乱すような無粋な真似はしない。

 ベルモンドもオリビアと同じく、サーラから順にその首にタリスマンを掛けていく。そしてフォビオへの祝福の言葉は――。


「フォビオ、ちょっとは緊張したか。でも良かったのぅ」


 そう言ってウィンクまで送るベルモンド。フォビオもウィンクにチャレンジしたが上手くいかない。


「こうかな……あれ?」

「ふふ。おめでとう」

「――ありがとうございます」


 結局普通に目礼で返した。

 その後、記念の菓子(紅白まんじゅう)をテオフラストゥス学園長ミハエル・ベルシュタイン大魔導師爵が授与し、式典はもう大詰め。残すはオルフィスからの祝辞だけとなった。


「それではヴァルフィリア王家、オルフィス・ヴァルフィリア王子殿下からのご祝辞を賜ります。一同、ご拝聴なされませ」


 全員が改めて立礼の姿勢を取る。


「皆、顔を上げて楽に。――まずは魔法士審査試験合格おめでとう」


 オルフィスの祝辞が続き、最後に爆弾発言(サプライズ)があった。


「――我が父アルシウス・ヴァルフィリア王より、今宵は皆が気楽に語れる夕食会の場が設けられる手筈である。是非、楽しんで――いや……今年は私も少し顔を出そう。なに、邪魔はせぬ。ほんの少しだけ、な」


 会場が少しざわめいた。例年では夕食会に王族は参加しない。王族の参加は格式が上がり、食事作法(テーブルマナー)が必要な正式な晩餐会となってしまう。当然叙爵前ではその教育を受けていないものも多く、それゆえ夕食会が提供されるのだ。

 そんな理由など全く知らないフォビオは、のん気に夕食のメニューを想像しながら楽しそうに微笑んでいる。


「夕飯はなんだろなー……煮豆かな、揚げ芋かな……あ、豚の角煮もあるといいなー。んふ、楽しみー」

首席が三人もいますね。


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