かつて『死神』と呼ばれた元女剣士
―――かつて、『死神』と呼ばれた女剣士が居るってさ。
▪▪▪
ここは、首都のアルスレン。
そこの一角にある、名門のガゼラシア剣士学校。
俺……こと、ミシア・アレンガーは最近ここに入学してきたんだ。
で、俺は同級生から『死神と呼ばれた女剣士』っていう話を聞いた。
「それ、いつの話だよ」
隣に座っていたシェンに話を振る。
「25年前に卒業した、卒業生らしいよ~。バッカラに配属されてから、その異名が付いたって」
バッカラとは、剣士学校を主席で卒業した剣士が集まるギルドの事だ。
「……でも、死神って物騒よねぇ」
そうシェンが付け加えた。
確かにそうだ。
……が、そう言われる程の『力』があったのは否めない。
それには、周りの同級生達は頷いた。
「で、その人の名前って?」
中の一人がそう言う。
「ミリニャ・イゼラっていう人だよ。今は、バッカラを辞めて剣士学校の先生をやってるって」
シェンがそう答える。
「シェンちゃんって、物知りだな」
俺が横から話す。
シェンは手を横に振った。
「実はね、私の叔父さんが同級生で少し話を聞いてたのよ」
「たがらか」
「うん」
そこへ、一人の女性が入ってきた。
「皆、席着きなー。朝礼を始めるわ」
その言葉に、皆はそれぞれの席に着いた。
「さて、このクラスを任されたミリニャ・イゼラと言うわよ。よろしく」
一瞬、教室の中が静かになる。
「「えぇー!!あの死神と呼ばれたー!?」」
「落ち着きなさいよ、皆さん」
口元に手を当てながら、ミリニャは言う。
「確かに『死神』と呼ばれたけど、それはもう昔の話だわ。今は穏やか~な先生、よ」
その言葉を言い終えた彼女の顔に、俺は少し違和感を覚えた。
何だか、その話題に触れてはいけないような……
「それじゃあ、学校生活のしおりを配るわよ」
そう言って、ミリニャは紙を配り始めた。
▪▪▪
休憩時間、俺はミリニャの元へ向かった。
「あの、先生!」
「貴方は確か、私のクラスの……」
「どうしたの」と聞くミリニャに、『死神』の事で話がしたいと俺は返す。
「……やっぱり、今でも少し顔に出るのね」
「え?」
ミリニャは目を合わせた。
「いいわ、私の事話してあげる。……でも、あの子達にはしばらく話さないって約束する?」
「はい、誓います」
「それじゃ、こっちに来てくれるかしら」
―――そして、校舎裏へ連れてこられた。
「それじゃ、話そうか」
▫▫▫
私が死神と呼ばれたのは、バッカラに配属された時ってのはもう噂話として聞いているわよね。
なぜ私がそう呼ばれるようになったのは、第二次ガバラーニャ戦争の時なの。
(第二次ガバラーニャ戦争:隣国とのギルド同士で争った戦争。第二次は、国との戦争へと発展した)
その時ね、私はバッカラの総大将として現場へと駆り出していたの。
戦場は私たちが劣勢で、日に日に戦死者が多くなってった。
それに焦りを感じて、私は禁忌を犯すことにした。
―――この学校に秘蔵されている「ジェロン・ガーロ」を使うことにしたのよ。
流石に、ここに入学するから……この事は知っているわよね。
ジェロン・ガーロは、かつて死を司る神のジェガーロの魂が込められている剣のこと。
封印出来るのはこの学校出来ないことも知っているよね。
―――国を助けるために、この剣を使うことに議員達は躊躇ったわ。
でもこれを使う話が出たのは、それほど国が危機的状態だったから。
どうしようも無くなって、最終的には私が無断で持ち去った事にしたという体にしたの。
そして、ジェロン・ガーロを使うとみるみる状況は一変して……停戦に持ち込めたのよ。
▫▫▫
「……で、その後はどうなったんです?」
そう僕は聞いた。
「剣の事が公になるのを恐れて、戦争諸々を無かったことにしたの。全ては闇に葬り去ったのよ」
ふと、疑問に思った事を聞いてみた。
「でも、先生ってどうして本名で先生を?」
その言葉に、ミリニャは静かに返した。
「これ以上知ると、貴方の命が無いわよ」