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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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やっぱ、行くしかないよねえ

「いやさあ、別にダニーたちを置いて行きたいわけじゃないんだよ俺は」

『キュゥ』

「だけどさ、ラズリーなんて行ったことない町だし、今回は調査もあるんだよ。それにルルガの時みたいにまたホテルにお前たち泊まれないなんてことになったら大変だろう?」

『ポポポー?』

「ジローまで疑り深いなあ。俺がみんなと一緒にいるのが大好きなのを知ってるくせに。ひどいよなあ……あ、こらウルミ、風呂場で寝たら溺れるっての」


 やる気のないバナナみたいになったウルミをプール風呂の横のタオルに包んでカゴに入れ、俺はまた湯船に浸かった。やはりうちの子たちと入る広い風呂はいいねえ。


 ダーレンとニッキーのマイヤーズ夫婦が帰った日の晩、仕事を終えた俺は一人、プール風呂で考えていた。

 あれからラズリーについてナターリアに聞いたが、彼女も行ったことはなく大した情報はなかった。

 ホラールの倍ぐらいの人口で森が多く、地域的に家具などの木材加工が盛んな町だそうだ。

 木材の質も高く加工も芸術的で、ラズリーの家具はちょっとした高級品らしい。

 大工や木材加工の職人も腕のいいのが揃っているとか。

 ホラールの西にある町で、以前アマンダに聞いたところによると、直線距離としては短いのだが山道もあり入り組んでて、馬車でも四時間程度かかるらしい。

 まあサッペンスは一本道でも七時間ぐらいかかるからそれに比べたら全然楽なのだが、道が枝分かれしてたりするので迷う人もいるらしい。


(道はしっかりレンタル馬車を借りる時に調べるとして、日帰り出来るかなあ)


 ダーレンたちの住所は聞いているし、孤児院などの仕事場も近いとのこと。行けば彼らが案内ぐらいしてくれるだろうし、ホラールより大きいんだからホテルぐらいはあるだろう。

 もしかしたらダーレンのところに泊めてくれるかもしれない。寝袋はあるので馬車で眠ることも出来る。

 とはいえ、本当に食事がまずかった場合のアプローチがまだ決まっていない。

 改善点がすぐに浮かぶのか分からないし、俺は料理も好きだし食べるのも好きだが、一番の問題は本業じゃないことだ。

 それにメシマズなどと簡単にそれを指摘するのはかなり勇気がいる。大なり小なり相手が傷つくのが分かっているからだ。親しくもない相手なら尚更だ。

 俺だって営業マンの素質ないねえ、などとよく知りもしない相手に言われたら不愉快だもんな。

 でも年を取って味の好みが変わるってこともままあるんだよなあ。

 俺は頭に乗せていたタオルで顔の汗を拭った。

 父も食べるのが好きだったが、以前はこってりした味の濃いものを好んでいた。

 だけど俺が就職した辺りぐらいから、薄味であっさりしたものが好きになって、三杯酢で和えた酢の物なんかが好物になってたし。和牛も胃もたれするからと一切れ二切れ食べたら満足してた。

 もしそういう加齢での味覚の変化みたいなものだったら、俺に出来ることはないんだよね。

 長年勤めていたってことは父の世代だろうし、年による変化は多少なりともあっておかしくない。


「だけどあっさりになってたら子供たちには物足りないだろうけど、ご老人たちは胃に優しいし好むんじゃないのかなあ。どっちにもダメ出しされるとなるとな……」


 ダニーたちに相談というていの独り言を呟きながら首を捻った。

 幸いにも今はうちの子たちを頼めるヒラリーもいるし、俺が泊まりになるようならゲストルームに泊まってもらって世話もお願い出来る。


「……まあ実際に食べてみないと何とも言えないなあ」


 結局はそれに尽きるのである。

 正直俺が口を挟むことではない頼み事なのだが、モルダラ王国の多くの人たちに助けてもらって今の俺がいるわけで、ドル爺が俺を勧めて頼ってくれたのなら何もしないってわけにもいかない。

 フェスティバルのことが王都ローランスの新聞に出るなら、そっちで先に店を出す方がいいかなと考えてたのだが、ラズリーにもいずれはと思っていた。

 エドヤの出店が可能な感じかも見定めるいい機会かもしれない。


「ま、行くとしても一日二日の話だからさ。ヒラリーと一緒に留守番しておいてくれよな。いいおやつがあればお土産に買ってくるからさ」

『ポッポー』

『キュゥゥゥ』


 彼らのご機嫌も直ったようで、しゃぱー、しゃぱーと風呂で泳ぎ始めた。




「……いや何でパトリックさんが一緒についてくるんですか」

「え? だってラズリーなんて行ったことねえし、こないだケンタローん家建てたんでまとまったお金もあるから、せっかくだしいい家具でもあれば新調するかと」

「まあパトリックさんの馬車で行けるのは楽ではありますけど」

「そうだろ?」


 数日後。

 俺は何故かパトリックと朝からラズリーへ向かっていた。

 パトリックはうちの子たちと一緒じゃないことを残念がっていたが、初めての町だからと説明して納得した。


「ルルガみたいにまた大金払ってコテージとか借りないとならないと大変だもんな」

「そうなんですよ。私も商人ですから締めるべき部分はきっちり締めないと」


 家も建て、ゲストハウスも建てたばかりだ。

 借金もあるのにそんなに始終贅沢してられるかい。


「それもそうだな。いや、でもよお、ラズリーって家具とかの評判は聞くけど、美味いもんとかあんのかな?」

「私だって行ったことないんですから知りませんよ」

「だよなあ。ケンタローと知り合ってから俺も舌が肥えちまってさあ。アマンダさんとこの弁当とかケンタローと食べる飯とか、美味いもんばっかだろ? 困っちまうよ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいですけどね」


 ラズリーの話をジルやアマンダたちにも尋ねてみたが、家具の話はされたが名物料理とか食に関する話は一切なかったのだ。

 それがちょっと不安なのだが、まあ荷台にはトランクも調味料も積んでるし、何とかなるか。

 俺たちは先日のフェスティバルの思い出話に花を咲かせつつ、ゆるやかに馬車を進めるのであった。





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