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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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相談事

「……いやあ……何だか疲れが取れなくて」

「フェスティバルの最中は元気に溢れてたんですけれどね私も。体力が落ちたんでしょうか」


 俺とナターリアは祭りの翌日、ぼんやりと店番をしながらそんな会話を交わしていた。


 第一回ホラール食い倒れフェスティバルは大盛況のまま幕を閉じた。

 他の出店者たちも、ここまで大がかりなイベントは初めてだったためか、食い倒れフェスティバル限定のお菓子だのパンだのを作ったところもあり、うちと同様で飛ぶように売れたらしい。

 老舗の酒屋も手間がかかるのでやらない「利きワインイベント」をしていた。

 ワイン樽をテーブル代わりに店の前に並べ、少々買うのに勇気がいるようなお高いワインなんかも、小さなグラスだが一杯五百ガルでサービスしていた。

 お手頃価格のワインは百ガルで、


「飲んだことがないワインも試してこの機会にお気に入りを増やしませんか!」


 なんてやってるものだから、そりゃ酒好きの人たちにはたまらないだろう。

 高いワインは一人一杯までなのに、家族や友人に頼んで代わりに買ってもらったりする人もいたらしい。午後には何だかご機嫌な人がやたら歩いていたがそのせいかと納得した。

 高いワインは客寄せなので利益は考えなかったらしいが、代わりに他のワインが祭りの盛り上がった気分で買う人も多かったとかで、店主は次の食い倒れフェスティバルにもやろうと決めたらしい。

 最終日の午後に再び現れたホラール相談役のベンジャミンも超がつくほどご機嫌だった。

 新聞社からも取材が来たそうだ。

 新聞といっても日本であるような何枚もある大きなものではなく、大きめだが一枚のペラのローカル紙である。


「どこどこさんの家に双子が生まれました。おめでとうございます」


 だの、


「ホラールに新しく雑貨屋がオープンしました」


 みたいなのどかな感じのものである。

 エドヤのオープンの際にも来たので別に驚かなかったのだが、彼が言っているのはホラールの町内新聞ではなく、モルダラ王国の首都、王都ローランスの新聞社とのこと。


「ええ? それはすごいじゃないですか! 私はてっきり『ホラールだより』の方かと──」

「だからすごいって言ってるじゃないですかもう!」


 王都ローランスは町自体が大きいので良くも悪くもニュースに事欠かない。王宮もあるし。

 ネタもあるので週に一度は出ているのだ。ちなみにホラールは月に一回である。

 ローランスにとっては、小さなホラールの町情報などどうでもいいレベルなのだが、ベンジャミンとしては、他の町からも参加者が出るような大きな食のイベントであるとあちらの新聞社にダメ元で手紙を送ったらしい。

 他の町の参加者ったって、サッペンスのモリーたちとルルガのバッカス兄弟だけなんだけど。

 でまあ興味を持ってくれたらしく取材に訪れたと。


「来週のローランスウィークリーに書いてくれるそうですよ。オンダさんの分も注文しておきましたから、届いたらお持ちしますね!」

「それは楽しみです。評判によっては年に二回とかやっても楽しいかもしれませんね」

「参加者も増えて欲しいですからね。いやー、楽しみですよ」


 ベンジャミンがこんなにご機嫌なのは、小さな田舎町ホラール発信のイベントが王都の人たちにも認知される喜びだろう。

 俺は定期的に食い倒れフェスティバルが開催されれば嬉しい。

 みんなとちょこちょこと休みを交替で取りつつ他の店も見て回ったが、俺は美味しいものも味わえたし、働いている人も笑顔で町に活気がみなぎっている感じで歩いているだけでワクワクだった。



 二日間、我がエドヤと提携グループの店も死ぬほど忙しかった。

 初日は夕方に店を閉じて終わりではない。

 家に戻って次の日の仕込みをしなければならないものもある。

 モーガンとフィルはもう商品があるので当日美味しい匂いを漂わせるべく焼けばいいだけだが、串揚げはともかく弁当や寿司はそうもいかない。

 パトリックたちもみんな手伝ってくれたが、ライスの炊く量が半端ない。

 うちのキッチンだけではどうにもならないので、庭のバーベキュー用のかまどを使ったり、新たにキャンプで使うようなバーベキュー用の足のついた網焼きを買って来て、そこに鍋を置いて炊いたりと大忙しだ。

 酢飯は夜明けに炊き上がったものを冷ましながら作り、並行してモリーやジェイミー、ナターリアたちが切り身を作りせっせと寿司を握り、容器に入れては木箱に入れ、パトリックやベントス三兄弟が馬車に積み込みに行く。

 弁当のおかずについてはアマンダが自宅で、店のアルバイトのローラやその母サンディがテイクアウトの店舗の方で同時進行でメインとサイドを分けて朝我が家で詰め込み、ご飯を入れて完成。

 これもまた木箱に容器を詰め込み、男性陣が馬車へ。

 俺は俺で串揚げの食材をカットしては串に刺し、バッター液に浸して細かくしたパン粉をまぶす。そして出来上がったものをバットにずらずらと並べ、紙を敷いて二段重ねにする。

 これも木箱に入れ馬車へを繰り返し。これでようやく出発だ。

 早朝の停車場は他の人たちもいるので、すみやかに自分たちのスペースに何往復もして品物を運び、俺は油を熱しつつ、フィルたちは魚を焼くべく炭火を起こしながらスタートを待つ感じだった。

 これはある程度人数いたから何とかなったけど、そうでなきゃ早々に詰んでた。


 二日目の夕方近くにはくったくたで、皆の目がどんよりしてたけど、それでも本当に楽しかったし売り上げも最高だった。ジェイミーソースも予想以上に売れた。

 夜は売れ残りでも食べて早寝しようかなんて言ってたけどほぼ残らなかったので、俺がもしもの時のために多めに炊いといたライスで炒飯と唐揚げを作って食べた。

 食後、優しいことにナターリアたち女性陣が、


「男性の方が重たい荷物運びとかでお疲れでしょうから、今回はお譲りしますわ。モリーさんはオンダさんの家の方のお風呂に入るそうです」


 とプール風呂には入らず帰って行ったので、俺たちはフラフラになりながらうちの子たちも含めてプール風呂で疲れを癒やし、風呂で既にうつらうつらしている彼らをゲストハウスへ送り込み、パトリックは家のゲストルームで寝かせることにした。

 うちの子たちは俺が疲れ切ってるのを察したようで、ちゃんと自分たちの部屋に戻りタオルで体を拭いて、ウルミはカゴのベッドで眠っていた。主に働いてくれてるのはダニーだけどね。


「助かるよ、ダニー、ジロー……おやすみ」


 俺は寝室に戻るとベッドに倒れ込むようにして眠った。


 翌日早朝には皆元気を取り戻して帰って行ったが、また次回参加すると遠征組は意気込んでいた。


「イベントは本当に楽しかったんですが、もう少し楽なやり方がないもんですかねえ」

「そうですわね……もっと効率的な方法を考えませんと」


 ナターリアといつもより空いている店でそんなことをのんびりと話していると、エドヤに見慣れない顏のお客様が入って来た。六十代ぐらいのご夫婦に思える。


「あの……エドヤのオーナーさんはいらっしゃいますでしょうか?」


 旦那さんの方が穏やかに話しかけて来たので俺は笑顔で応える。


「はい、私がエドヤのオーナーのオンダでございますが」

「あなたが……思ったよりもお若い方ですね」


 意外そうに目を見開いた男性は、少し言い淀んだ後で、少々お時間を頂きたいのですが、と俺を見た。





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