みんな意外とノリノリだね
簡易的なゲストハウスと言っていたパトリックだったが、かなりしっかりした建物に仕上がり、取り付けたカーテンやベッドもナターリアが柄などを選んでくれたので上品でセンスが感じられた。
祭りの二日前に到着したベントス三兄弟も、
「おー、すごいお洒落ー♪」
「何だか男の僕らが使うの申しわけないですね」
「……ベッドが大きいから助かる」
などと嬉しそうに荷物をほどいていた。
ルルガからはジェイミーへのサーモンとマグロ以外にも、自分たちの販売する荷物を積んだ馬車でやって来たモーガンとフィルのバッカス兄弟も、何だか楽しそうだ。
「弟から聞いたんですが、何だか大きな風呂があるとかで……」
落ち着いた兄モーガンからそう言われ、俺は笑顔になった。
湯船がある国のせいか風呂好きな人が多いよね。
「ええ。ただうちの子たちもお風呂好きなので、ご一緒することもあるかもしれませんが、彼らは毎日入ってますので汚くはありませんからご安心ください」
と頭を下げた。
「彼らと入れるのも楽しみですよ。我が家は小鳥と猫二匹ですから。娘が小鳥は水浴びさせてるし、猫たちは風呂が大嫌いで汚れて入れる時は引っかかれて大騒ぎですよ」
「俺も一人暮らしだから可哀想でペットは飼ってないけど好きだよ。オンダさんとこの子たち、元野生なのにすっごく利口だし可愛いよね」
「そうなんです賢くて愛らしいんです、うちの子たち」
親バカのようだが、うちの子たちを褒められるとヘラヘラと口元が緩んでしまう。
サッペンスからモリーとジェイミーも続けて到着したが、前はなかったゲストハウスに歓声を上げた。
「オンダの家も素敵だけど、こっちも小ぢんまりしてて落ち着くわね!」
「そう言っていただけると嬉しいのですが、ジェイミーと一緒でお願いするとなると、考えたら着替えとかさすがに不便ですよね。モリーさんは私の家の方で……」
親子とは言え、同じ部屋で着替えなど気も遣うだろう。
するとちょうど荷物を片づけて部屋から出て来たドミトリーが、
「ジェイミーさんは僕と一緒でいいじゃないですか? こっちは三人ですからベッド余ってますし」
と提案してくれた。
幸い人見知り気味のジェイミーも前のパーティーで面識もあるし、プール風呂で裸の付き合いもしている。
お互いに物静かな性格なのがいいのか気も合うようで、
「ああじゃあ母さんはこの部屋使ってよ。僕はドミトリーさんと一緒でいいから」
と簡単に話がまとまった。
皆が揃ったところで、俺が絶対に譲れなかった「エドヤハッピ」のお披露目だ。
これはアマンダ、ジル、ナターリア、ヒラリーの女性陣総出で布地からミシンで縫い上げてくれたものだ。
深い緑色に白い襟。エドヤの看板のカラーリングだ。
胸元には小さくエドヤの文字が白く刺繍されている。
シンプルだが気分が上がる。
自分の国ではお祭りごとにはハッピというものを着ることも多いと伝え、下手くそな絵で説明したらナターリアが理解し頷いた。
「これなら簡単そうですし、ミシン使えば皆さんの分ぐらいは祭りまでに縫えますわ。せっかくですからオンダさんの国の方式でやりましょう!」
とジルたちと手分けしてやってくれたのだ。
直線ばかりなので縫うのは簡単で、一番面倒だったのは店の名前の刺繍だったよ、とジルとアマンダが笑っていた。
余った生地でうちの子たちにも足元につけるシュシュをお揃いで作ってくれた。
ジローはスカーフまでサービスしてくれた。
明るい色合いの方が好きなジローなので気に入ってくれるか不安だったが、みんなお揃いということでテンションが上がったようだ。鏡の前で『ポゥ』と楽しそうに何度も覗き込んでいた。
みんなには物珍しさもあったようだが、
「祭りは人が多いから、こうやって同じユニフォーム着てると見分けやすくていいよな」
「羽織るだけでいいのも面倒がないよね」
とエドヤハッピは好評だった。
食い倒れフェスティバル初日。
かなり早めに行ったのだが、祭りの会場には既に大勢の人たちがワゴンに商品を並べ出したり、ホットワインや串に刺したソーセージなど火を使う店が仕込みに入っていて、いい匂いも漂っている。
「おはようございます。皆さんお早いですね」
ホラール商店街の相談役であるベンジャミンが準備中の俺たちに声を掛けて来た。
「ベンジャミンさんこそお早いですね」
「ははは、こんな大きな催しを手掛けるのは初めてなもんで、まともに眠れなかっただけです」
思った以上に町の商店の人たちの反応が良かったらしく、これが上手く行けば定期的に食い倒れフェスティバルを定着させて行きたいと思っていると話してくれた。
「まさかホラールのイベントにルルガやサッペンスから参加者が出るとは思いませんでしたけどね。オンダさんの顔の広さですかね」
「たまたまお付き合いしているところが興味持ってくださっただけですよ。彼らも隣にスペース用意していただいてありがとうございます」
隣で準備していたジルやアマンダもベンジャミンに手を振り、
「ベンジャミンさんも弁当や食べ物沢山宣伝しておくれよ。町の奥さんたちもたまには一日食事作りサボらせてあげなくちゃ!」
と声を上げる。
今日と明日はジルやアマンダの夫ザック、パトリックも申しわけないが手助けしてもらうことになっている。
ヒラリーは初対面ばかりの客商売は難しいので我が家でのうちの子たちの面倒をメインに、あとは持ちきれなかった在庫が不足した時に家から運んでもらう役割だ。
皆手伝い料なんかいらないというので、報酬は俺が作る料理とプール風呂である。
いい友人ばかりでこちらとしては気が引けるほどだが、無理にお金を押しつけるなんて無礼は働きたくないので、のちのち何らかの形で感謝は返して行こうと思っている。
ベントス三兄弟も手伝うと言ってくれたが、せっかく来たのだから祭りで先に店を回って食べ歩きをしてもらうことにする。
皆の食事やトイレ休憩の時に代わってくれれば大助かりだ。
アマンダとジルが仕込んだ弁当や、夜中から炊き上がったご飯を冷まして酢飯にし、せっせと俺がジェイミーたちと握った漬けマグロや漬けサーモン寿司のパックなどをワゴンに並べる。
モーガンは加工食品を扱っているフィルの手伝いということで、パンに塗る瓶詰のサーモンペースト(レバーペーストみたいなやつ。美味しい)や、ルルガで獲れる魚のミソ漬けや甘みのあるショーユ漬けなど、海産物メインの商品を運んで来ている。
祭りも楽しいが個人的にありがたかったのは、モリーから昆布を干したものをこっちに来る際に土産として沢山持って来てもらったことかもしれない。
「言われた通り、漁師さんからただで貰ったのを軽く水で洗って干しただけだけど、本当にこんなものいるの? これ、普通は捨てるものだけど」
不安そうなモリーとは裏腹に、俺は笑顔で頷いた。
黒っぽくなった海草は食材としてはそそらない見た目なのは分かる。
「いいスープが出るんですよ。皆さんにご馳走しますから楽しみにしててください」
いやあ、食の需要が満たされていくのはいいよなあ。
俺は黙って一人頷いた。
あとは町の人が食い倒れフェスティバルに来てくれて、沢山商品が売れてくれればいいが。
準備をしている人たち以外は早朝もあってあまり歩いている人もおらず多少の不安はあったが、朝九時の開催時間近くなると、続々と人が増えて来た。
よっしゃ。売るぞー、売りまくるぞー!
俺は気分が高揚してくるのを感じた。仲間たちも同じ気持ちだったのだろう。
みんなお揃いのエドヤハッピ姿でぐいっと拳を突き合わせた。




