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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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ホラール食い倒れフェスティバル

 楽しい完成披露パーティーの翌日、早速ジルが付き合いのある商店街の相談役を我が家に招待する段取りをつけてくれた。

 まだ四十代半ばぐらいに見えるその男性はベンジャミン・ミラーと言い、ホラールでは何店舗かある老舗の洋服や雑貨を扱う店『ミラー』のオーナーだそうな。

 俺もお世話になっている。主にジローのスカーフとかみんなの足のシュシュだが。

 父親が興したミラー商会の二代目らしいが、二代目らしい坊ちゃん坊ちゃんしたタイプではなく、頭の切れそうなスマートな筋肉質のイケオジである。

 以前は父親が長年相談役をしていたが、おととし亡くなってから彼が引き継いだらしい。


「といっても、ちょっとしたイベントとか商店街の道路の清掃の持ち回り決めたり、大したことはしてないんですけどね」


 ハハハッと笑う声もイケボで、男女二人のお子さんがいるそうだが、二人とも成人しており、現在は王都ローランスにある知人の店舗で武者修行中らしい。

 彼は商売については親族でも甘やかしは命取りになると言われて厳しく育てられたそうだ。

 二代目あるあるみたいなのは日本で実際に見聞きしているから、さぞや亡き父親は出来た人だったのだろうと思う。

 ベンジャミンも堅実に商売をしているようだし、彼の子供たちもきっと立派な跡取りになって戻ることだろう。


「ベンジャミンは私のチェス仲間なんだよ」

「へえ、そうだったんですか!」

「ジルさんにはなかなか勝てないんですけどね」


 ルールはよく知らないけど、馬とかナイトとかの駒を使ってキングを追い詰めるゲームだ。

 学生時代の友人が好きでやってたなあ。

 将棋みたいなもんだよ、と言われたけど将棋のルールも分からなかったので、見てるだけじゃさっぱりだった。クイーンが何でも出来ることぐらいしか記憶にない。

 俺の出来るボードゲームはオセロが限界な気がする。

 ベンジャミンが言うには、ジルの記憶力と集中力、客観性の高さなどが昔から敵わないと思わされるようだ。

 ジルは学者だし頭もいい。探求心みたいなものも一般人とは別物なんだろう。うちの子たちの勉強教えるのだって、上手く行かない時でも決して諦めることはないし。


「まあチェスの話はいいんだよ。祭りの話なんだってば」


 照れくさげに手を振って強引に話を変えたジルは、エドヤの調味料を広めたい話と、ホラールに人が増えて来たのだから、この町ならではの祭りを定着させるのはどうかと勧めた。

 俺も用意しておいた串揚げ、カレーライスを試食してもらう。

 そのほかモリーソースやショーユ、ミソといった開発した商品に自信があること、このホラールの人たちの食卓に定期的に使われる調味料として味を広めて行きたいのだと訴えた。


「……確かに美味しいですね。このジェイミーソースもいいですが、カレーもスパイシーでライスにとても合いますね」


 無言でしばらく味見をしていたベンジャミンは頷いた。


「でもエドヤさんの商品だけを広めても無意味です。私も若輩者ですがホラールの商店街の相談役と言われる立場ですから、多くの店が発展する形でないと賛同出来ません」

「ごもっともです」


 言いにくいであろうことをハッキリ言うタイプは嫌いじゃない。

 俺は頷いた。


「ただ、私は食関連以外は正直無作法と申しますか、アクセサリーや衣類など流行りすたりも分かりませんし、さほど関心がないのです。それに趣旨がバラバラになると個性もなくなると思うんです」

「ほう? と言うと?」

「今後衣類だけ、アクセサリーだけ、バッグだけなど様々な祭りがあっていいと思いますが、今回は食べることだけに特化した祭りをやりたいんです」

「……なるほど」


 俺はエドヤの調味料を知ったお客様が、家庭で食事の楽しさを増やして欲しいと考えていること。

 そしてホラール町の活性化のためにも、この町独自の祭りがあったら売りになるのではないかと思っていることを伝えた。

 俺はエドヤの扱っている調味料を使い、料理やお菓子を作りワゴンで販売する。

 もちろん他の店で扱っている商品も同様に売ればいい。

 他の店だって人気で美味しいものはあるだろうし、別にうちの調味料を使って何かを作ってもらっても構わない。

 美味しいものを食べるのは楽しいし、嬉しい気分に繋がる。

 味つけのバリエーションが広がれば、家庭でも食事の楽しみ方が増える。

 色んな味を楽しめる機会があれば、自分の好みの味も親しい相手の好みの味も分かるし、そんな食に特化した祭りがあってもいいだろうと思うのだ。


「ですから、まあファッションとかそういう祭りは今後得意な方にやっていただいて、私が得意というか好きである、食べることを前面にした祭りがやりたいのです」

「どうだいベンジャミン? 私は悪くない考えだと思うんだけど」


 黙ったまま腕を組んでいるベンジャミンにジルが話しかけた。


「……悪くないとは思います。ホラール独自の祭りというのもいい案ではないかと」

「それなら!」


 ベンジャミンが身を乗り出したジルを手で制した。


「ただ、私が管理出来ているホラールの商店街は一区画だけです」


 俺はよく分からず尋ねたところ、ホラールは縦横に広がる長い十字の大通りが存在するのだが、一番小さな町といっても人口五万人程度はいるわけで、当然枝葉の道にもミニ商店街があったりする。

 もちろんそんなの全部一人が把握しようがないので、大通りの東西南北にそれぞれ相談役がいる。

 ちなみに俺が住んでいる地域は北側だ。

 そして、何か大きな催しをやろうとする際には中央の大広場を使うしかないが、全ての道が交わるところなので、他の相談役の許可がいるだろうとのことだった。


「ですが代替わりの時にご挨拶したきりで、そこまで親しく付き合っているわけではないんです。それぞれの地域はそれぞれが管理というのが昔からの決まりですので」


 大がかりな祭りは自分たちの地域の風紀を乱すから、といい顔をしない人もいるのではと考えているらしい。


「頭の固いお年寄りもいますし、単純に面白そうなアイデアの祭りを他の地域の発案でやられるのも面白くないって人もいるでしょうしね」


 ベンジャミンが苦笑したのを見て俺とジルは首を傾げる。


「東西南北総参加でやればいいじゃないですか。大きい方が楽しいですし。ねえ?」

「だよねえ? 何か問題あるのかい?」

「──え? いいんですか?」


 ビックリした顏で彼が聞き返した。


「こういうアイデアは普通、考え出した人が独占したがるものなんですけど」

「アイデアってまた大げさな。単に色んなもの食べようよって祭りじゃないですか」

「そうそう。エドヤの調味料は遅いか早いかだけで売れるんだ。一番はホラールの町おこし的なものにしようってんだよ? どうせならみんな巻き込んだ方が後々が楽になるじゃないか」

「そう言われればそうですね。交流の一環にもなるし……ただそんな大きな祭りを開催したことがないので、正直どこから手をつければいいか」


 コクコクと俺は笑顔で頷いた。


「私の国では祭りの際の伝統的なやり方がありましてですね。参考までにご案内出来ればと思うのですが、お時間少々よろしいでしょうか?」

「おお、それはありがたい! 是非ともお願いします!」


 ──よし。祭りへ一歩近づいたぞ。

 ベンジャミンなら頑固な老人相談役も丸め込めそうな気がする。

 いや別に丸め込まなくてもいいんだけど。

 だって悪さするわけじゃないし。

 むしろホラール発展の楽しいイベント増やそうぜってだけだもんね。

 

 ベンジャミンが帰った後でジルが、


「彼はオンダとは違うタイプけど、いい意味で計算高いから、きっと上手いことやってくれると思うよ」


 と保証してくれた。

 商人が計算高いというのは誉め言葉でもある。

 チェスが得意な人だというし、参加しないなんて損でしかないというルートに理路整然と持って行くんだろうなあ。楽しみだなー。



 その後はジルの予想通り、ほかの三相談役とも綺麗に話がまとまったようで、『第一回ホラール食い倒れフェスティバル』が一カ月後に開催されることとなった。命名は俺である。

 いやー、仕事出来るイケオジ最高。





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