オンダハウス完成披露パーティー(後)
「ええ、と」
オンダハウスの庭。
寒さはあるものの快晴で、風もないせいかとても過ごしやすい陽気だ。
ウサギのポリーが金網の中で、パトリックやベントス家の馬車の馬たちが離れたところで牧草をのどかに食べている。
そして、ジル、ナターリア。
アマンダ、ザック夫妻。
ヒラリー。
リヤカー生みの親であるアーネスト。
パトリックにミハエル、ジョージ、ドミトリーのベントス兄弟。
モリーとジェイミー親子。
最後に可愛いうちの子たち。
俺がモルダラ王国に来て知り合ったかけがえのない友人たちだ。
オンダハウスの完成披露パーティーは気軽な感じで参加してもらえるように我が家の庭でバーベキューをすることにした。
串揚げも作りソースを披露し、ガーリックソースのサラダやちらし寿司もどきなんかも作ってみた。
家の新調したデカい冷蔵庫にはオレンジのシャーベットも口直しに用意している。
まあワインやシャンパンなど好きなものを飲みながら、初対面の相手とも仲良く交流してもらうのが願いだ。
ナターリアやヒラリーにも下ごしらえを手伝ってもらったし、俺も今まで以上に力を入れて頑張った。連日二、三時間睡眠でクタクタだったが、皆の笑顔を見ているとその疲れも吹っ飛ぶ。
皆がまずは挨拶ぐらいしろというので言葉を絞り出そうとしたが、達成感と満足感に浸っていたので何も浮かばなかった。
営業は喋りでいつもどうにかして来た人間なのに、何だか胸がいっぱいで言葉が出ないのだ。
それでも流石に何も言わないのもどうかと思うので、必死で挨拶をした。
「ええと、このたびは私の自宅兼倉庫の完成披露パーティーに来て頂きありがとうございます」
拍手。
「モルダラ王国にやって来て、どうにかこうにか家を建てられるぐらいまでになれたのも、出会った皆様のお陰だと感謝しております」
俺は頭を下げた。
「これからも商売人として働いて家族を養い、ホラールで頑張って行きたいと思っておりますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします」
「まったく。未だにかたっ苦しいなケンタローは。家建てたんで今後ともよろしく! とか気楽でいいんだよ」
パトリックが野次を飛ばすと、ジルがこらこらとパトリックをたしなめた。
「いいんだよ、オンダはこういう性質なんだからさ。こういう変に真面目なところといきなり突拍子もない発想をするギャップが面白いんだよ私は」
「外国人だし新しい国で生活するのだって大変だろうに、オンダは本当に努力家だよな」
ザックもうんうんと頷いている。
周囲の人間も皆和やかな表情で俺を見ていた。
喋らなくては、というプレッシャーがないせいか、黙っているだけのヒラリーもニコニコと笑みを浮かべている。
「はははっ、堅苦しいのは性格的なものってことでお許しください。それでは簡単に。今日は美味しいものを食べて、飲んで、よければプール風呂に入っていってくださいね。乾杯!」
「「「かんぱーい♪」」」
『キュキュー♪』
『ポッポッポー』
『ナッナー♪』
ゆるい乾杯の音頭を取った後は、ヒラリーはうちの子たちのご飯作り(といっても焼くだけだけど)でカットした肉や魚をレンガ造りのかまどで焼き始めた。
これもベントス兄弟が庭でいつでもパーティーが出来るようにと作ってくれたのだ。
ナターリアは庭のテーブルに置かれた皿やフォークを各自に配り、
「好きなのを召し上がってくださいね。あ、お酒はいくつか用意しましたけど、お風呂をご希望の方は控えめにお願いしますね。果実水なども用意してありますので」
などと言って隣のドリンクテーブルも説明している。
挨拶以降は俺は下ごしらえした串揚げを鍋に入れ、アツアツを皆に振る舞ったり、新作のちらし寿司を配ったりしていた。
ちらし寿司などと偉そうに言ってるが、甘酢で和えた酢飯に、錦糸玉子やグリンピース、ニンジン、茹でたエビにこちらのしめじに似たキノコを甘辛く煮付けて切ってちらした、なんちゃってちらし寿司だ。
いくらや絹サヤもないし、シイタケもないけど見た目が華やかだし、祝い事にはぴったりだ。
「甘酸っぱいライスって面白いねえジル」
「最初びっくりしたけど、慣れるとクセになるね。ほら、入っている具が細かくなっててさ、味が混ざって深みがあるね」
「俺はケンタローの作った飯でまずいもの食べたことねえからな」
皆口々に食べては感想をくれるが、概ね好評だった。
だが一番評判だったのはやはりジェイミーソースで食べる串揚げだ。
「アチッ、お、これ豚肉か。このジェイミーソースっての、ピリッと来るけど野菜の甘みみたいなのも濃厚で合うな! 酒が進んで困りそうだ」
アーネストがハフハフ串を頬張りながら笑みを見せると、ザックも、
「これピーマンだったぜ。でも苦みがあるから普段あんまり食わないんだけど、フライにすると結構イケるな。ソースの味のせいかもしれないけど」
と笑った。
「エビもアスパラもすっごく美味しいですよ! でも小さなハンバーグみたいなのもジューシーで好きだな」
ドミトリーが目を輝かせてあれもこれもと豪快な食欲を見せる。
モリーもジェイミーもそろってホラールに来たのは初めてらしい。
ジェイミーはナターリアとアマンダぐらいしか顔馴染みがいなかったので最初は戸惑った感じだったが、次第に自分から積極的に話しかけたりしていた。
モリーも女性陣とわいわいと陽気に語り、プール風呂について尋ね、バカでかい風呂よとアマンダが答えると、絶対に入るわーっ、と盛り上がっている。
うちの子たちも、ちょっとお高い魚や肉を焼いて冷ましたのをヒラリーが小さくカットし、それを受け取ってはバクバクと頬張っていた。
ウルミも頑張ってゆらゆら体を揺らしながらも起きてはいたのだが、サーモンをヒラリーがほぐしている時に力尽き爆睡した。
最初の頃は驚いたヒラリーも慣れたもので、彼女に渡していた抱っこ紐の中にそっと入れると首からぶら下げた。
ウルミのサーモンはダニーとジローがもっもっもっ、と綺麗に平らげていた。
ミハエルはアルコールが入って来たのかいつも以上に陽気になり、モルダラ王国の民謡を歌えば、皆がそれに合わせて歌う。
ああ、好きな人たちばかりのパーティーって楽しいもんだなあ。
これからマイホームの借金を返して行かなければならないけど、この広い庭でこんなパーティーがまた出来るならいいよね。
よおし、バリバリ働くぞー。




