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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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ジェイミーソース

 ソースが出来た事で俺のテンションは高く、市場で色々買い込んで仕込みをしている様子をちょいちょい店番から戻って来たモリーが眺めては、


「楽しそうねオンダ」


 とまた店に戻って行く。

 彼女が満足気に見えるのは、何度も失敗を重ねたものの、俺が満足するソースが出来たというホッとした気持ちなのかもしれない。

 今日はご飯はなし。

 串揚げと、もう一つ。そう、お好み焼きだ。

 パン粉は一度オーブンで少し焼きカラッとさせ、粗目のものを叩いて細かくする。

 小麦粉と卵、牛乳を混ぜたバッター液を作る。

 串に刺したエビや豚肉、鶏肉、チーズにタマネギ、ジャガイモやマッシュルームなど思いついたままの食材をくぐらせ、細かいパン粉をまぶして油で揚げる。

 パン粉を細かくした方が見た目もいいし、油が残りすぎず衣がはがれにくい。

 バッター液は水でもいいのだが、我が家がそうだったのと牛乳だと油がはねにくいのだ。

 同じ水分なのになあ。

 正直理由は分からないが、何かしら成分の違いがあるのかも。

 単純に魚介類の臭み消しみたいな意味合いもあるのよと母が言っていたが定かではない。


「……よし。これで一通り揚がったな」


 そろそろジェイミーもレストランから戻って来る。

 串揚げは揚げたても美味しいが少し冷めても美味しい。

 だがお好み焼きはアツアツの方が個人的にはより美味だ。

 俺は最高の切れ味を誇るダマスカス包丁でキャベツを千切りにし、小麦粉と水、卵、水と少しだけブイヨンを入れてベースを作り、キャベツを山盛りで放り込み混ぜる。

 二つのフライパンに油をしき、タネを広げ、蓋をして焼いている間にマヨネーズも作る。

 この国に海苔もカツオブシもないのだけが残念だ。


「……何だかすごくいい匂いがしますねえ」


 裏口から戻って来たジェイミーがキッチンで忙しくしている俺に声を掛けた。


「今夜はモリーさんが作ったソースのお披露目会なので、私が夕食を担当してます」

「それは楽しみですね! じゃあ僕はお風呂の準備でもしておきます」

「あ、もうすぐ出来上がりますから後でもいいですよ」

「数分で済みますから。母さんにも声を掛けておきますねー」

「よろしくお願いします」


 その後もいい焼き目がついたお好み焼きをひっくり返し、そろそろ完成か、と思ったタイミングで店を閉めたモリーも手を洗って席に着いた。

 着替えたジェイミーも同様に椅子に座ったところで、俺がカットしたお好み焼きを大皿に盛りつけ、中央に出した。


「まあ、何だか食べやすそうな串に刺さったものがたくさんね」

「これはエビだと思うけど、これは何かなあ?」


 ワクワクした顔であれこれ推測している二人に、串揚げの中身を説明する。


「それでですね、モリーさんの新ソースをつけて食べるんです」

「オンダさん、この中央のオムレツみたいなのは何ですか?」

「これはお好み焼きと言います。キャベツと小麦粉と卵が入ったシンプルな料理なんですが、ソースと相性がいいんですよ。あ、マヨネーズとも合います」


 俺はニコニコと微笑みながら、さささ、どうぞどうぞと彼らに勧めた。


「……串揚げとソースって合うわね。濃厚だけど揚げ物のしつこさがなくなる感じ」

「母さんが深夜に時々叫んでた例のソースだよね? こんなに美味しくなったんだ」


 叫んでたのか。そりゃ思った味にならなきゃ叫びたくもなるか。

 俺は豚肉の串揚げを取り、たっぷりのソースで頬張った。

 口に広がる少しピリッとした爽やかで甘みのあるソース。思った以上にソースだった。

 うーん、美味しい! これは頑張った甲斐がありますなあ。


「やめてよオンダの前で恥ずかしい。でも結局最後にオンダがショウガとお酢をプラスして美味しくなったの。私一人では完成出来なかったわ」

「いやだなあ、全部モリーさんですって。どの家庭でもベースのソースやスープに何かをプラスしてオリジナルの味にしていくじゃないですか。あれと同じですよ」


 俺はタマネギの串揚げをご機嫌で食べながら、お好み焼きも皿に取り、ソースとマヨネーズをスプーンでたっぷりかけた。……うん、懐かしい味だ。美味しい美味しい。


「でもこれって油で揚げてるんですよね? でも全然油っこくないし、いくらでも食べられますね!」

「パン粉を薄く細かくすることで余分な油がつきにくくなると思ってます」

「へえ! そういえば前に食べたエビフライの衣より細かいですね。お好み焼きも野菜たっぷりでヘルシーでいいなあ。店でも出せるかなあ……」


 ジェイミーは最近、すぐレストランのメニューのローテーションを考えてしまうらしい。

 お客様も日々増えているらしいので、もっともっとという頑張り屋気質が出ているのだろう。

 ソースが売れた方がいいので、ソースを使えるメニューはいくら増やしても構わないぐらいだ。

 だがちょっと問題がある。


「これ、まだ在庫作ってないんですよね?」

「え? ああそうね。今回はどうしても自信がなくて、量を作るのはオンダが来て方向性が決まってからにしようと思ってたのよ」


 モリーはエビの串揚げをご機嫌で食べていたが、思い出したように答えた。


「作るのはどのぐらいかかりますか?」

「ショーユなんかと違って漬け込む必要がないから、二週間もあればある程度の量は作れるわよ」

「じゃあ出来るだけたくさんお願いします。ちょっとホラールで考えていることがありまして」


 俺は串揚げ祭りのことを伝えた。


「楽しそうね! それにこれならソースと相性最高だし、人気が出ると思うわ。私もちゃんと料理と合わせて食べてみて、将来性を感じたもの」

「確かに!」

「あともう一つありまして。名前なんですけど、どうします?」

「名前……」


 モリーソースは魚醤の名称で使っているし、同じ名前ではお客様が混乱する。

 といって串揚げソースなどと料理を固定した名前にしてしまったらお客様が別の用途に使いにくい。


「考えてなかったわね、そういえば」


 うーん、と天井を見上げたモリーが頭を悩ませていたら、ジェイミーがふと声を上げた。


「ねえ、それならジェイミーソースなんてどう? 親子で名前のついたソース持ってるとか格好いいじゃない? といってもどちらも母さんの成果なんだけど」


 ははっ、冗談冗談と笑うジェイミーに、あらそれいいわね、とモリーが答えた。


「ソースの差別化も出来るし、母さんと息子の名前のソースを作ったなんて私も鼻が高いわ」

「ええ本気?」


 少し慌てるジェイミーに俺も賛成した。


「私もいいと思いますよ。それにあちこちで売られるようになったら、ちょっと気持ちいいじゃないですか、モリーソースにジェイミーソース」

「──そ、それはそうですけども。でもそんな簡単に決めちゃっていいのかなあ」


 いいんですよ。

 シャンプーとトリートメントって名前のまんま売る人もいますし、バウムクーヘンに名前つけるなんて考えたこともない社長も知ってますから。

 ツルリン太郎みたいな名前にするより何倍もセンス感じますよ。

 モノが良ければ何でもオッケー。


「じゃあジェイミーソースの在庫、お願いしますね。その頃また取りに……あ」


 俺は思い出した。

 二週間もすれば、俺のオンダハウスも完成のタイミングだ。

 完成披露には当然彼らも呼ぶつもりだったので、逆に彼らに来てもらえばいいじゃないか。

 ジェイミーソースや他の在庫も運んでもらえるし、一石二鳥だ。


「ちょっとご相談なんですが、二泊か三泊ほど、ホラールに遊びに来られませんか? いえちょうど私の家が完成する頃合いでして。是非お二人も招きたかったんですよ」


 俺はモリーとジェイミーに極上(自己申告)スマイルを向けた。





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