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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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読みは甘くなりがち

「はい肉じゃが弁当二つ、お待たせしました! 千二百ガルです」

「あいよ豚ミソ漬け弁当一つ! 七百ガルでお釣り三百ガルね」

「チャーリー、鳥の甘辛弁当二つと魚の塩焼き弁当二つ、裏通りのザルダリさんのとこお願い。あの青いポストの家」

「ああ分かりました。了解でーす」

「悪いけどオンダ、エドヤの三軒隣のレンガの家のヘイザーさんのとこ、肉じゃが弁当三つ持って行ってくれる? 分かるよね?」

「はい大丈夫ですー」


 アマンダの店のオープン三日間は俺も助っ人に来ていた。

 デリバリーが思ったよりも注文が多く、チャーリー一人ではお客様を待たせ過ぎてしまいそうだとアマンダからヘルプ要請が入ったためだ。

 しかもスコーンが開店から三日間とはいえ一つ無料でついてくるのだから、今までのお客様だってそりゃ買いたいだろう。プラスアルファは誰だって嬉しいのだ。

 狭い店内ではいつものバイトのお姉さんとその母、アマンダの三人体制で忙しそうに客の注文をこなしている。

 レストランエドヤのエプロンをつけた俺とチャーリーは、リヤカーで文字通り走り回っている。

 分からない家はチャーリーに説明してもらったり、大体の場所を把握して周囲で尋ねたりしたので、少しの間に俺も近隣のお宅の名前を把握出来てきた。

 アマンダの足腰の負担もあるし、夕方にはアンデンにも顔を出したりすることがあるので、営業時間は十時から三時までの五時間だ。

 短時間だからまだ何とかなっているが、正直俺の足はパンパンである。

 店を閉めて二時間ほどは、翌日の弁当の仕込みをバイトのお姉さんに任せてアマンダは撤収。

 これは大体前の店と同じサイクルだ。

 ジルが気を利かせたのか、リヤカーが置きやすいように建物の一番端を用意してくれたので、出入りもしやすいのはありがたい。


(……それにしても忙しいぞ)


 俺は配達をしながら流れる汗を拭った。

 デリバリーするのはリヤカーで片道十分の距離までと決めている。

 これは自分で計算してみたが、大体徒歩なら三十分程度の距離だ。

 この距離を歩いて買い物に来るのは慣れていてもやはり面倒ではある。

 なので、二百ガル余計に払っても頼みたい人は多かったようだ。

 チャーリーも俺も配達分は近いところを二軒、三軒分まとめて持って行かないと処理し切れないほどの注文になっていた。

 今回、俺の読みは正しかったが、忙しさを甘く見ていたのは事実だ。

 ぶっちゃけ、俺がエドヤに戻った後でチャーリーだけでこなせるか心配だ。


「別にサボりたいとかじゃなく、絶対にもう一人か二人は必要だと思います。まとめて配達すると逆に店に戻る時間が遅れますし。オンダさんも本来のエドヤの仕事がありますもんね」

「そうですよねえ」


 チャーリーが注文の弁当が出来るまでのひと休みの間、俺に愚痴をこぼした。

 アマンダの店のために配達用の前カゴチャリ三台を間に合わせてくれたアーネストだが、俺がいても一台使わずじまいだ。

 短時間のアルバイトというのは、収入が少ないのでがっつり働きたい人には不向きだし、二輪車は乗り慣れないと転んで弁当をダメにしたりケガをする危険もあるので、バランス感覚も必要だ。

 配達のアルバイト募集の貼り紙はしているが、いまだ希望者はゼロ。

 俺のイケるという予感は当たったものの、これでは幸先が不安でしかない。


「学生は短時間の方がいいだろうけど、そもそも営業が授業してる時間ですもんね」

「そうなんですよ。主婦の方ならいいかなと思ったんですけど、ロングスカートで乗るのは危ないですし、作業用のズボンとかオーバーオールなんて履きたがらない人もいますから」


 そうなのだ。

 主婦パートならすぐ集まるのではと俺も軽く考えていたが、農作業などどうしても仕事で必要な場合以外、この国の女性は子供から高齢者まで基本ロングスカートなのである。

 上手く車輪に巻き込まれないように上手に乗っている女性も日本ではいたが、お客様へ弁当を配達する仕事なので、万が一があったら困るのである。

 だから仕事の際にはズボンスタイルが必須だと募集のチラシにも書いてある。

 これがダメなのかもしれないけど、でもこれは外せないんだよなあ。

 ジルは山へ昆虫採集に行ったりナターリアも付き添いで行くこともあるので、普通にズボンは何本か持っているし、ジルもリヤカーに乗る際にはズボンスタイルだ。

 でも仕事で使っている人も普段はスカートなので、ジルたちは珍しいタイプの女性なのだ。

 もっとリヤカー、というか二輪車が町中に溢れて来るようになったら、女性もスカートで乗る危険さも分かるだろうが、ズボンも履き慣れていなければやはり気恥ずかしいのかもな。

 日本みたいに男女関係なくパンツスタイルが当たり前に存在していた国の人間からすれば奇異に思えるが、これがモルダラ王国の標準なのだから仕方がない。

 こりゃあバイト探し、大変かもなあ、と思っていたところ、オープン三日目に一人希望者が現れた。


 主婦ではなく、六十歳を越えた元研ぎ職の爺様である。

 だ、大丈夫かなあ。





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