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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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新たな商売

 お風呂祭りから二カ月が経った。

 俺の主催する男お風呂祭りもナターリアの企画する女お風呂祭りも、あれから数回ずつ開催されている。

 ホラールでも冬と言ってもいいぐらい朝晩の冷え込みがきつくなって来たので、熱すぎないお風呂にゆったり長時間浸かって、だらだらと食べたり飲んだりするのは大変いい感じだ。

 うちの子たちも温かくて広いお風呂というのはたいそう気に入っているようだ。

 ダニーなどはすぐオイリー肌になりがちな体質なので、綺麗好きな彼にマメな水浴びは欠かせなかったのだが、温かいお風呂に入ると、日に一回二回で満足するようになった。

 ペットショップで動物用のシャンプーみたいなものがないか尋ねたのだが、あいにく日本のように各ペットに合わせたものはなかった。

 人の使うものじゃ皮膚の皮が薄い動物には刺激が強すぎるんだと母から聞いていたが、困ったな。

 俺が考え込んでいると店主が、


「人のでもさ、無香料の赤ん坊に使うような刺激の弱い石鹸を使えばトラブルもないよ」


 と教えてくれたので、早速買って来て洗ってみると、ダニーの毛がサラッサラになった。

 何回か様子を見ていたが、何度使っても肌がかぶれるようなこともない。

 ダニーはしばらく俺のベッドで飛び跳ねたり、自分のおやつをジローに上げるぐらいご機嫌だった。

 それからはお風呂に入れば自分から石鹸を使って体を洗うようになったが、カワウソみたいな小さな手では、すぐつるんと滑り扱いづらそうだった。

 俺がふと、昔小学校の手洗い場にかかっていた網に入ったようなものなら楽なのではと思い、雑貨屋で「石鹸袋」なるものを買って来た。

 これは網というよりガーゼの袋のような感じで、中に石鹸を入れて水に浸すと泡立ちが早いというものらしい。

 これはダニーにも扱いやすかったらしく、お陰で快適にサラサラ出来てさらにご機嫌だ。

 ジローやウルミも鳥類なので、カワウソ種ほど多くはないがやはり脂が羽に出て来る。

 ダニーが石鹸で洗って上げると、彼らも脂っけが抜け、モフモフ度合いが増した。

 パトリックが幸せそうなダニーを見てさらに幸せそうな顔をして、いそいそとダニーのために小さな木の桶を作ってくれた。

 この中で石鹸を泡立てると楽だよと教えると、ダニーはパトリックのズボンを掴み、


『キュキュッ! キュキュ!』


 と弾んだ声でお礼を言い、それからは毎回桶に石鹸袋を入れてお風呂に持ち込むほど愛用している。

 まるで銭湯に行くオッサンのような見た目になるが、それでもダニーは可愛いのだ。

 だが喜んでくれるのは嬉しいとは言え、うちの子たちが揃ってどんどん野生に戻れないルートに突き進んでいる気がしなくもない。


(俺はずっと面倒を見るつもりだけど、こいつらが野生に戻りたくなったら止められないしな)


 元々が野良だった子たち……いや、ウルミの場合はペット用に捕獲された野良だからちょっと違うのかもしれないけども、仲良くしていても俺を含め種族が違う集まりだ。

 いずれ仲間たちと一緒に暮らしたくなる日が来るかもとは覚悟している。

 本当はあんまり人間の生活に馴染ませたらよくないのではとも思うけど、本人たちは嫌がってないし、無理強いもしてないつもりだ。

 まあ野生に帰れない状態になったとしても自業自得ってことで、うん。

 オンダ家の家族として末永く大事にしてやろう。それでいいのだ。




「よお、ケンタローじゃねえか。今日の昼飯は早くないか?」

「あ、オンダさんヤッホー♪」


 普段より一時間ほど早くランチを届けに行くと、オンダハウスの二階の柱で作業していたパトリックとミハエルが声を上げた。

 パトリックとベントス兄弟の馬車用の馬たちは、今日も元気にウサギのポリー同様、牧草を黙々と食べてくれている。

 馬二頭とウサギ一匹ぐらいでは、食べても食べてもまた新しく生えて来るので、彼らの食事を考えなくて済むのは大変ありがたい。是非とも食べ尽くして欲しいものである。


「危ないから話をするのは降りてからにしましょう! 今日は焼きおにぎりとミソスープですー」


 俺も声を張り上げて返事をすると、倉庫へ向かった。

 今日はパトリックに話があった。

 うちの子たちもそのため家のプールでお留守番だ。もう彼らと仲良しになったヒラリーもいるのでこういう時は助かる。

 ナターリアは全面的に店を任せられるし安心。俺もフットワークが軽くなったものである。

 倉庫の中に入ると、ジョージとドミトリーが掛け布団を外に干しに行くところだった。

 ここ数日雨が降ってたので作業が中断していたが、やはり雨が続くと掛け布団もしけってしまい寝心地が悪くなる。冬場なので冷えるし。倉庫は家のようにはしっかり作られてないのだ。

 今日はスッキリした青空のいい天気になったので、廃材で簡易的な物干し竿を作って干そうと思ったらしい。


「オンダさんこんにちは。おお、ショーユのいい匂いがしますねえ。スープも楽しみです」


 ドミトリーがそう言い、ジョージが頷いた。


「支度しておきますので、布団干したらパトリックさんたちも呼んで来ていただけますか?」

「分かった」


 裸の付き合いというものを何度か続けていると、いつも言葉が少ないジョージも機嫌の良し悪しみたいなものは分かるようになった。

 寡黙というか必要な言葉を最小限にしている感じで、無愛想ではないことも知れた。

 顔がゴツイので機嫌が悪そうに見られやすいと本人も悩んでいるようだ。

 今日は機嫌がいい。きっとお気に入りのミソスープがあるからだな。

 

 集まって来た四人と一緒に鍋から熱々のミソスープを入れ、皿に載せておいた焼きおにぎりを頬張る。コーヒーなど、寒い時期には温かい飲み物が欲しくなるだろうと思い、コンロも一つレンタルして倉庫に置いてある。お湯を沸かしたりスープを温めるのに重宝している。


「へえ。前かごのついたリヤカーか」

「正確には後ろに荷台がないものは自転車って言うんですけどね、私の国では」


 俺はリヤカーを製作してもらったアーニーから昨日、


「あんたが前に言ってた、小さな前かごだけつけた二輪車の試作品が出来たから、時間がある時に寄ってくれ」


 と連絡を受けていた。

 それで早速見に行こうと思ったのだが、パトリックもリヤカーが欲しいと以前言っていたし、職人同士仲良くなれるかもしれないと思い、都合がつくなら彼も一緒に誘おうと思ったのだ。


「あ! 待って待って! 俺もずっと気になってたんだよ」

「僕も持って帰りたいんですよ、あれ便利ですもんね」

「馬車で入れない狭い道とかにも使えるしな」


 パトリックだけでなくベントス兄弟まで乗り気だった。

 作るのが間に合えば、荷台だけ分解して馬車に乗せて持ち帰ろうと考えているらしい。確かにサッペンスではまだ売ってないもんね。

 仕事の利便性を考える人にはリヤカーのメリットがすぐ分かるんだなあ。

 俺はそれじゃこれから皆で行きましょうかと伝え、空になった食事の片づけをする。

 アーニーのお得意さんが増えるのはいいことだ。

 だが俺はそれだけじゃなく、自転車を使って新たな商売も考えているところだった。

 上手く行けばいいんだけど。

 一国一城の主になるのだから、稼がねば。




 

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