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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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極楽極楽どりーみん

 お風呂祭りのために週末までめちゃくちゃ忙しかったが、疲労なんかどこへやらだった。

 俺は鼻歌まじりで食材の仕込みをし、倉庫に入れるレンタルベッドに、風呂場へ置く着替えカゴや棚、タオルなどの手配まで手早く済ませた。

 不思議だったのは、現代日本では当たり前にあったベッドなどのレンタル制度が、このモルダラ王国でもあったことだ。

 アマンダに聞いたところ、結構前からあるそうだ。


「だって離れて住んでる家族や親戚が滞在する時だけのために、普段使わない寝具なんか置いとくのは邪魔だろう? 身内の病気療養の付き添いでしばらく一緒に住むこともあるし、その後の処分に困るじゃないか」


 ということらしい。

 したがってリサイクル品ではあるが、ちゃんと業者がクリーニングもしてあるし、設置も引き取りもお任せという大変エコで便利なシステムだ。

 俺ものちのちのベッドの処分をどうするか考えていたので、これ幸いとお願いしてみた。

 一台の寝具つき簡易ベッドが月に四千ガルとこれまた絶妙な価格設定だ。

 まあ一年も二年も借りるんなら買っていた方がいいだろうが、設置してくれて数カ月使ってから引き取りもしてくれるのなら全然アリだろう。

 四台のベッドが倉庫の中に並んだ景色は学生寮みたいだなと思ったが、寝袋より確実に寝心地はいいはずだ。


「いやあ、ほんっとオンダさんの現場は最高だな! 出来るだけ完成が遅いといいのに!」


 とベントス家の長男ミハエルがベッドに飛び込んで不穏な言葉を叫んだが、その後すぐに、


「でも残念ながら俺たち兄弟は、仕事が丁寧かつ早いんだよなー。あーくそー」


 とにやりと笑い、職人としてのプライドを覗かせた。

 男性たちも女性たちもお酒は飲める人たちだが、俺は弱いしのんびり風呂で強い酒はよろしくないので、酒屋に行って相談。

 オレンジやリンゴを漬けたアルコール度数の控えめな果実酒を用意した。

 これならフルーティーだし、味見したら俺でもいけた。チビチビ飲む分には平気だろう。


 うちの子たちには大きなプールが出来たことを伝え、最初は皆で入りたいから温かいお風呂にすると説明した。

 ダニーは真っ先に木製パネルへ走り、


『好き』


 という意味のハートマークを取り出してふりふりして喜んでいた。

 ジローは温かくても冷たくても水の上でぷかぷか浮いているのが好きらしく、広い場所で水浴びが出来るのが嬉しいらしい。

 ウルミは眠っている時間が多すぎるので謎な部分もあるが、起きている時にダニーやジローと水浴びするのは嫌がらない。

 ただ何時間も起きてられないので、最初入って少し遊んでたら気づけばベッドカゴで眠っている状況だから、眠る前の儀式の一つとでも思っているんじゃないかと推測している。

 アヒルのおもちゃみたいで可愛いんだけどね、パタパタ泳いでる姿も。

 普段はプールを出てからでないとおやつは上げないんだけど、今回はサプライズで炙った干し魚とフルーツを上げることにしていた。きっと喜んでくれるだろう。




「えー、本日は男お風呂祭りにお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 週末の夜。

 パトリックに促され、新居プール兼お風呂場で腰にタオルだけ巻いた俺は挨拶をした。

 お風呂に既に気持ちよさそうに浸かっていたムキムキ系男子が拍手をする。

 ミハエル、ジョージ、ドミトリーのベントス兄弟にパトリック。そしてザック。

 六人プラスうちの子たちが可愛くぷかぷか浮いていてもゆとりのある、広々した湯船。

 大変マーベラスでファンタスティックな空間である。


「本日は夜空の星を楽しみつつ、果実酒と私が用意したおつまみを食べながら雑談でもしてゆっくり疲れを癒やしましょう。それではかんぱーい♪」


 パトリックが廃材で作ってくれたテーブルを湯船の脇に置いて、その上の木製トレイには俺が作った鳥と白身魚の唐揚げ、キュウリの浅漬けにポテトサラダ、豚のミソ漬けを焼いたものなど様々なおつまみが置いてある。

 取り皿やフォーク、小さくて足のない割れにくい厚みのあるグラスも用意した。

 ワイングラスみたいなのを使ったら安定性が悪いし、酔っ払いたちやうちの子たちが割ってしまうかもしれない。そうなるとランプの灯りでガラス掃除は面倒だ。


「かんぱーい♪」

「かんぱーい♪」

 皆でグラスを合わせれば、おつまみを食べながら雑談だ。

 うちの子たちの可愛らしさを俺が熱弁すれば、ザックが野菜作りの苦労と髪の毛の神秘について面白おかしく語る。

 ベントス兄弟の長男ミハエルが、友人たちとサッカーをして二得点決めたという話をしたと思ったら、ガールフレンドがスポーツに付き合ってくれないんだと愚痴をこぼす。

 兄弟の中で唯一恋人がいるそうだが、結婚はまだ考えていないようだ。いっぱしの職人になって、独り立ちしてからと考えているらしい。

 次男のジョージはウサギのポリーとの運命的な出会いについて語り、今年で四年一緒だが出来るだけ長生きして欲しいと思っていると話した。

 ドミトリーの趣味は絵だと以前聞いていたが、初めて一軒家の建築に関わるので、倉庫にでもいいので絵を贈りたいから飾ってくれないかと言われ、俺は快諾した。倉庫ではなく俺の寝室にさせてもらおう。

 皆、アルコールでほどよく力が抜けた感じで、ザックとベントス兄弟は初対面とは思えないほど和やかに語らっているし、パトリックはパトリックで、


「ダニーたちとお風呂なんて夢のようだ……」


 とご機嫌でちゃぷちゃぷ遊ぶうちの子たちにおやつを上げていた。

 湯船に食べ物を入れてはいけないと分かっているので、湯船の中に段差をつけたところに腰掛け、器用にパトリックから受け取り食べていた。

 ウルミは最初の一口は食べてナーナーと喜びを表現していたのだが、いつものごとく電池切れを起こしたのでタオルで拭いて、持って来ていたベッドカゴにインさせた。


「いやあ、星は綺麗だし、風呂は広々して気持ちいいし、酒もおつまみも美味いし、話は楽しいし、こういうの、またやりたいねえ」


 ザックがそう言うと、皆がやろうやろうと言い出した。

 そして話している間に「風呂祭りの会」が結成され、月に一回の開催が決まってしまった。

 いや別に俺は構わないし、むしろ嬉しいんだけど。


「でもミハエルさんたちはサッペンスに帰ったら参加出来ないじゃないですか」


 そう言うと、何を言ってんだという顏になった三人が、


「やだなあ、馬車で来るに決まってるっしょ!」

「そうですよー。片道六時間や七時間、若いから楽勝楽勝。ねえジョージ兄さん?」

「そうだな。ポリーは牧草も食べ放題だしな」


 とあっさりと言い放った。

 仲良くなれたのはいいけど、彼らの負担が増えないといいんだけど。

 小声でパトリックにそう話すと、ねえねえ、と手を振った。


「大工なんて仕事がありゃ基本あちこちに行くんだ。サッペンスからルルガやホラール、ラズリーに王都ローランス、みーんな仕事現場みたいなもんさ。フットワークの軽さは仕事柄だぜ」


 確かにパトリックが引っ越して来る時のフットワークの軽さを考えると、なるほど、と思わざるを得ない。

 まあ本人たちがいいなら、こちらとしても友人が増えて嬉しい限りだ。



 余談だが翌日、女お風呂祭りを開催したが、彼女たちも大層このイベントを堪能したようで、


「定期的に開催したいのですが、どうでしょう? 利用料のお支払いも考えているのですが」


 とナターリアから相談された。

 モルダラ王国は水が豊富で安いので、かかるとしたらおつまみやお酒、ボイラー代ぐらいだが、正直そこまでの負担でもない。

 こちらでも定期開催予定なので、被らなければ問題なしということでスケジュール調整することで話はついた。

 まだ家も出来てないのに、いい交流場所が先に出来たようなものだ。

 うちの子たちも広い湯船が快適だったらしく、ランチを届けに行くたびにプールに向かいたがるようになった。

 どうせ家が仕上がるまではベントス兄弟やパトリックが入るので、プール風呂は毎日お湯が入っている状態だ。

 週に一度が二度、三度と俺たちもお邪魔することが増え、エドヤの二階の家では殆ど入らなくなってしまった。

 もう面倒なので、出来上がるまではこっちで入ることにしよう。

 お酒やつまみがなくても、広い風呂でのんびりするのは最高だ。

 あー極楽極楽♪




 

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