お風呂祭り最高!
「……お風呂祭り、ですか?」
「そうなんです! なので、今週末は連休にしますので、ゆっくり体を休めてくださいね」
俺はエドヤに戻って来てからも浮かれたテンションのまま、ナターリアに報告をした。
ナターリアも、そしてプールから出て来たうちの子たちをタオルで乾かしながら聞いていたヒラリーも、少し呆れた顔をしているように感じた。
三十路越えた俺が、楽しそうにうちの子たちと男たちとで風呂に入る話をしている。
少しばかり大きな風呂に入るだけのことで、それを祭りだと騒いでいる。
自分でもナターリアたちの立場だったら、何が楽しいのかと不気味だと思う。
だが違う。大きな風呂でうちの子たちとのんびりと楽しみ、夜空を眺めながら美味いものを食べ、友人や親しくなったベントス兄弟と語り合う。
こんなフレンドリーなイベントあるだろうか、いやない。
このモルダラ王国にたった一人で来てしまった、多分日本ではもう生きていないだろう自分。
ジローにダニー、ウルミと家族も増え、周りの人たちにも恵まれているが、しっかりマブダチと言えるのは現在パトリックただ一人である。
大きな声では言えないが、気安く付き合える男の友人だってもうちょっといたら嬉しいのよ。
男同士だからこそ出来る話もあるし、広がるご縁ってのは大事にしないと。
大好きな風呂に皆で入って、パトリックやベントス兄弟と別にいやらしい話ではなく、本当に一皮むけた関係になれるのなら、俺にとっては嬉しいことなのだ。
好きに生きてるけど、まったく寂しくないわけじゃない。
うちの子たちがいるから何とかなっているだけで、この国では天涯孤独みたいなもんだから、たまにふっと寂寥感というか、物悲しいような気持ちにもなる。
俺は性格的にというか仕事柄なのか、誰に対しても言葉をなるべく崩さないようにしている。
それは相手に失礼になる言動をしないよう心掛けているからだが、その分一歩踏み込んだ関係にはなりにくい。俺みたいなタイプの男に、パトリックみたいに気にせずグイグイ来る奴は珍しい。
うちの子たちとはラフに話しているが、彼らが人間のように普通に話せる生き物だったら、丁寧語だったり敬語を話していたかもしれない。
まあそれだけ自分に対するガードが固いとも言えるんだけど、風呂という裸の付き合いで、ベントス兄弟とももう少しこなれた関係になりたいと言うか、親しくなれたらいいと思っている。
「こんなにはしゃいでいるオンダさんも珍しいですが……何だかズルいですね」
ナターリアがポツリと呟いた。
床に座ってウルミをしゃかしゃか拭いていたヒラリーも頷いた。
「ズルい、ですか?」
俺は何のことか分からず問い返した。
「だってお風呂祭りなんて、私たちは参加も出来ないじゃないですか! 夜空を見ながら広々したお風呂。ダニーたちとお湯遊び、美味しいおつまみにお酒。楽しいに決まってるじゃないですか!」
「そそ、そうですよ」
珍しくヒラリーも発言した。これはご機嫌斜めである。
「ですが、そう言われましても」
日本では水着着用で混浴風呂みたいなイベントもあるが、もちろんそんなものはモルダラ王国にはないし、むしろ恋人や夫婦でも男女一緒に風呂に入ることもほぼないらしい。
参加させたくても出来ないのである。
万が一出来たとしても、やはり男同士の風呂とは別物になってしまうしなあ。
……と思いかけて、いい案を思いついた。
「それじゃ、やりますかナターリアさんたちもお風呂祭り?」
「え? どういうことですか?」
「私たちがやるお風呂祭りは男お風呂祭りということで、別の日に女お風呂祭りを開催するのはどうでしょう? ヒラリーさんはもちろん、ジルさんやアマンダさんも誘っちゃったりして」
ヒラリーもアマンダのところへ弁当を買いに行ったりしているので面識はあるし、ジルなんてもっと昔からの付き合いだ。女性同士でそこまで緊張することもないだろう。
緩衝材がわりになるうちの子たちもいるのだし。
俺がそう話すと、二人の目がキラキラと輝き出した。
「まあ素敵! じゃあ今週の連休の初日はオンダさんたち、次の日は私たち女性陣ということでどうですか? 母さんも喜んで参加すると思いますし、アマンダさんも長風呂大好きですからね」
食べ物とお酒はオンダさんのサービスですよね? と笑顔でナターリアに言われ、
「あ、ええ。それぐらいは当然」
と気圧されるように返したが、今週末なんてそんなに急に誘われてアマンダもジルもオーケーするだろうかと考えていた。
しかし、俺が思う以上に魅力的な話だったらしく、翌日二人とも快諾したとナターリアが嬉しそうに報告してきた。
ただ彼女たちの場合は翌日仕事があるので、午後から夕暮れぐらいのスケジュールにしたいらしい。
そしてアマンダだけズルいとザックが男お風呂祭りに参加したいと言い出したそうだ。
それはいいんだけど、あと三日で週末だぞおい。
メニューを考えて、お酒も用意して、買い物に行って仕込みもしなくてはならない。
俺、エドヤの仕事してる暇がないんだけど。
……ま、いいか。
女性たちも仲良くなるに越したことはないのだ。
どうせならパーッと行きますか。
お風呂祭りじゃパーッと行くも何もないんだけど、祭りは祭りだ。
そう思いつつも、パトリックたちにザックの参加許可をもらうことと、メニューをどうするか、など俺の頭はすぐに回転を始めていた。




