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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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意外と快適な宿泊所

「おうケンタロー、こっちこっち」


 今日はヒラリーが来ていたので、うちの子たちのプールを見ていてもらうことにし、ナターリアには店を頼み、完成した倉庫とその中に出来た一時的な宿泊所を見に行くため一人でリヤカーを走らせた。

 到着すると、俺のリヤカーを止める音を聞いてパトリックが表に出て来た。

 ベントス兄弟は商店街にある資材屋で、足りない材料を確保しに行ったらしい。


「どうだ、なかなかいい出来だろう?」


 倉庫の一つに案内された俺は驚いた。


「二階建てじゃないですか! すごいですね!」


 外側はシンプルな木造の、よく見る形の倉庫だ。

 広さで言えば六畳間を二つくっつけたぐらいで、高さは三メートルほどだろうか。

 外側は屋根と壁にこれから防水処理をしたり防腐剤とペンキを塗るらしいので、今は単に木材を使って建てただけ、といった造りなのだが、中は壁の周りにぐるりと奥行きのある棚が設置されている。

 そして隅の階段から、なんと上の階に上がれるようになっているのである。

 天井の高さ的には物足りないが、ロフトみたいな感じだ。

 これなら商品も上の棚から取り出しやすい。


「本当は経費削減ではしごにしようかとも思ったんだけどよ。上がるのは良くても、物を持ったまま降りれねえしな。危ねえし。棚は減ったがもう一つ同じ形の倉庫もあるし、十分だろ?」

「いやもう本当に十分過ぎますよ! 嬉しいです。……あ、寝袋があるってことは、ここで寝泊まりするんですか?」


 俺は床板の隅っこに片づけられていたテーブルと寝袋を見つけて尋ねる。


「おう。俺んちの往復も面倒だし、扉閉めるとそんなに寒くもねえんだよこの倉庫」

「いやいや、お風呂とかどうするんですか。それに寝袋なんて仕事の疲れが取れないじゃないですか。ダメですって」


 泊まり込みで仕事をすることもよくあるので、大工は大抵マイ寝袋があるのだと言う。


「風呂の時は俺んちに戻って入ればいいだろうが」

「じゃあ風呂に入ったらそこで手足伸ばして眠れるじゃないですか。わざわざ寝心地犠牲にする倉庫に戻って眠るなんて効率悪いでしょうに」

「……まあ言われてみればそうだけどよ」


 倉庫なんて雨露しのげるだけで、本来住むところじゃないのだ。

 秋口で涼しい季節だって、仕事していれば毎日汗だってかくだろう。毎日汗を流しに戻ってたら意味ないじゃないか。

 いくらお得に仕上げたいとはいえ、彼らの仕事環境をブラックにするなんてもってのほかだ。

 ──そしてふと思いついた。


「ねえパトリックさん」

「ん? なんだ」

「この次は何の作業をする予定ですか?」


 面食らったような顏のパトリックは少し考え込んだ。


「ああ、ダニーたちのビニールハウス付きプールやろうかなって。泥まみれになるから、家は一番最後の予定だ」

「ちなみに、うちの子たちのプールってどのぐらいで出来るもんですか?」

「そうだなあ、四人で一斉に取りかかるから、四、五日ぐらいかな? そんなバカでかいもんじゃねえし」

「それ、お湯も沸かせるタイプに出来ますか?」

「んなもんボイラーつければいいだけだけどよ。ちっと費用はかかるけど。でもなんでだ?」


 俺はニヤリと笑みを浮かべた。




 俺の計画を聞いたパトリックは大乗り気で、戻って来たベントス兄弟たちと話し始めた。

 実は、夏が終わる頃から考えていたことがある。

 うちの子たちが水浴び必須なのはいいが、春夏以外は当然ながら俺が寒くて入れないんだよね。冷たい水を毎日浴びても平気なほど頑丈じゃないのよ俺。常時風邪を引く羽目になる。

 彼らは温かい風呂に入るのは嫌がらない。むしろダニーは好きな方なのだが、何しろ現在の住まいのバスルームは狭いのだ。

 何とか温かくて広い風呂にみんなで入ってのんびり楽しみたいなあ、と思っていた。

 でも今回はオンダハウス、つまり俺の家なのだ。

 それならお風呂にも出来る広めのプールを作っても良くないか? 

 倉庫に寝泊まりするというパトリックの話を聞いて改めてそう思った。

 何カ月も仕事のために馬車でいちいちパトリックの家を行き来するのは面倒だろうし、倉庫で寝泊まりし、風呂もここにあれば、あとは食事の心配だけでいい。

 あと寝袋だけは長く使うものではないと思うので却下。

 俺が普通のマットレスと布団セットを用意して倉庫に設置すればいい。

 といっても食事に関しては、俺が作るのとアマンダの店の弁当で事足りる。

 快適な仕事環境の出来上がりである。


「そりゃいい! 広い風呂って気持ちいいんだよなあ♪」

「最高だね。それなら気合い入れてさっさと作っちゃおうよ!」


 ミハエルとドミトリーが楽しそうに声を上げると、ジョージが眉間にシワを寄せた。


「だがそうなると、外から見えないように幌の生地で覆った方がいいと思う」

「採用。それ大賛成。可愛い生地なら俺に任せとけ! 馴染みの店があるんだ」

「いや別に可愛くなくてもいい。むしろ地味な方がいいんじゃないか?」

「ダメだ! 長年使うんだから可愛くなきゃ! なあケンタロー?」

「いえまあ私は派手過ぎなければどちらでも」


 そこからどの程度の大きさにするか、ボイラーは何台必要か、あまり大きすぎても無駄が多くなるなど細かい話になっていったので、俺はみんなにお任せでエドヤに戻ることにした。



 人の欲望の強さというのは行動力に比例することが多々ある。

 四、五日かかるかも、などと言っていたプール作りは、わずか三日で完成となった。

 ビニールハウス仕様の予定だったプールは、キャンプの大掛かりな四角いテントみたいになり、横には雨よけがついた大きなボイラーが三台も設置されている。

 中のプールは何と四メートル四方の広さで、深さは六十センチ。

 温泉旅館レベルの広さだ。

 うちの子たちにとってはまだまだ満足出来るサイズではないのかもしれないが、これ以上広くなると水の入れ替えも水道代もえらいことになる。

 今でも十分えらいことになりそうだけど。

 見せないことを目的にしているので外の景色は見えないが、天井だけは光が入るよう透明になっている細かい気配りである。もちろん夜も入れるよう大きなランプも設置されている。


「洗い場は板を使ってるし、鏡もつけた。ちゃんと下水に流れるよう排水処理も万全だ。んでカーテンの仕切りで、服とタオルを置く棚には水が飛ばないようになってるぜ!」


 もう完全にうちの子たちの為ではなく、人間が入るためのよこしまな目的が追加されている。


「これは是非とも、うちの子たちを連れて来てお披露目しつつ、お風呂祭りをしたいものですね」


 俺もワクワクしてそんなことをポロリと口にしたら、皆が揃って賛成した。


「家を建てる作業の前に、お風呂祭りだー♪」

「おっふっろ♪ おっふっろ♪」

「まさに裸の付き合いって感じだな」

「ダニーたっちとおっふっろ♪ おっふっろ♪ 美味いもの食べながらおっふっろ♪」


 恐らく俺たち五人にうちの子たちが入ってもゆとりがありそうだが、男まみれの風呂祭りになぜこうもテンションが上がるのか謎である。

 風呂というのは、風呂好きな人の気持ちを高揚させる何かがあるのかもしれない。





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