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夢は実現するまでが一番楽しい

 ベントス兄弟とパトリックは俺との話し合いで希望を取り入れつつ、オンダハウスの設計図を描いてくれた。

 ただお金を貸してくれるのはジルなので、お願いして彼女も参加してくれることになった。だって俺だけでホイホイ決められるような小さな買い物じゃないんだもん。


「ほらケンタロー、プールは温室みたいにすれば、雨が降ろうが雪が降ろうが関係ねえだろ? んで水はやっぱマメに交換した方が清潔だからよ、んで、プールの底から下水道の方に管を繋いでな」

「なるほど。これは掃除も楽ですね」

「倉庫も一棟だけより二棟の方が割安なんだよね、けっこう木材の余剰が出たりすっからさ」

「はあ、そういうものなんですね。ただ私は建物の金額的な計算は疎いもので、詳しい話はジルさんとしていただけると嬉しいんですが」

「分かった! ジルさーん、ジルさーん」


 リビングのテーブルでドミトリー作成の設計図の説明を受けていたジルは、ミハエルの呼びかけに対して、


「あー、うるさいね! 大声出さなくても聞こえるってば。耳はまだ遠くないよ私は」


 とうんざりした顔をしながらも俺たちの方にやって来た。

 ジルとベントス兄弟が顔合わせした時、俺は少々不安だった。無骨な次男、優しげな大人しそうな三男はまだしも、長男ミハエルの見た目は、いい人なんだけど一番チャラい印象なのだ。

 だが、彼らと会ってもジルは「ふーん」といった感じで、俺に対しても、


「あの子たちに仕事を頼むのは止めた方がいいよ」


 というセリフは一切出なかったし、対等の仕事の相手として見ているような態度だ。

 今もミハエルの話にふんふん頷いて、


「そうなると一棟追加する時にはこの倉庫の横に追加するのかい?」

「それでもいいんすけど、ほら、日当たりが悪くなっちまうでしょう? だからこっちに横にして建てるとかもいいと思うんすよ。んで、二棟まとめてすれば、材木も安く仕入れられるし──」

「なるほどね。まあ余ったら倉庫の中の棚を増やすことも出来るしね」

「そうなんすよ! ジルさん、分かってる~♪ さすが不動産や物件をいくつも持ってるだけありますねえ。セレブリティマダムの風格っす」

「おべっか言ったって何にも出やしないよ」


 などとポンポンと会話をしているほどだ。

 現に後日ジルは、


「あの長男は見た目と話っぷりが軽薄っぽいけど、一番仕事にプライド持ってて、かなり腕も立つと思うよ。デザインも原材料も妥協したくないから、軽口まじりにこちらを丸め込もうとしてるしね」


 と笑っていたほどだ。

 まあジルが文句がなければ俺に文句などない。

 ただその妥協のなさで、俺の借金がどんどん上がるんじゃないかと内心ヒヤヒヤはしているが。



 土地を値切って千二百五十万ガルで買うことになったのは朗報だが、プールや建物の見積もりが友人割引で四千万弱と聞いて目眩がした。

 しかしジルに言わせると「かなり良心的な価格」であると言う。


「だって自宅に倉庫二棟にプールだよ? 本来なら五千万、いや六千万ガルはかかるよ」

「ですがパトリックさんたちの負担になるんだったら、そこまで安くしてもらわなくても」

「まあ安くなってるのは技術代だよね大工の。でも寝泊まりや食事も用意してやるんだろ? パトリックには後日、あの子たちと好きなだけ遊ばせてやればいいんじゃないか?」

「そうでしょうか……?」


 ジルは俺の不安そうな顔に吹き出した。


「バカだねえ。友だちがそれでいいって言ってんだからいいんだよ。暮らせないほどの赤字になんてならないだろうし利益は出すさ。オンダだって今後も何かと仕事を頼むだろう? お互いに協力し合えばいいだけさ」


 それに、と付け加えた。


「ナターリアも言ってたけど、エドヤの商売は順調すぎるぐらいだろう? あんたは堅実っていうか、あんまり贅沢をしないタイプだけど、商人たるもの、家の一つぐらいは見栄を張りなよ」


 今後、他の町の商人との付き合いで家に招待することがあるかもしれない。

 その際にそれなりの家でもてなせることは信用にも繋がりやすいというのは俺にも分かる。


「私だってとても返せないだろう金を貸し付けるほどもうろくしちゃいないよ。不安かもしれないが大丈夫だって、あんたなら早い時期に返せるよ」

「はい! ジルさんが生きている間には必ずお返ししますから!」


 俺が気合を入れてそう返すと、


「ちょっと、あんたもナターリアみたいなこと言わないでおくれよ」


 と不機嫌そうに眉間にシワを寄せた。


「すみません! 私も前向きな意気込みを伝えねばと」

「悪気がないのは分かってる。冗談だよ」

「ジルさーん、オンダさん、すみません。家の間取りなんですけどちょっと確認していただけますか?」


 ドミトリーの声に俺たちは広げた間取り図の確認に向かうのだった。

 まだ数カ月は先だろうが、俺の家か。何だか楽しみだなあ。





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