周囲が男まみれになって来た
元牧場の土地を購入し、さてパトリックと建物について相談でも、と思っていた時に、彼が仕事仲間を紹介したいと言って来た。
「俺が何人かで組んで仕事をする時には大抵一緒でさ、腕はいいし気持ちのいい奴らなんだ。珍しいことに、兄弟三人とも大工なんだよ。面白いだろ?」
「ほう、それはそれは」
初めてパトリックの顔を見ても三人とも嫌な顔一つせず、ごく普通に接してくれたことが嬉しかったそうだ。
その後も何度か仕事で顔を合わせているうちに、仕事への熱意や物の価値観など気の合うことが多々あり、プライベートでも食事をしたり飲んだりすることがあるらしい。
「ただなあ、あいつらの住まいはサッペンスだから、もし頼むとしたら、出来上がりまでは寝泊まり出来るところが必要でよ」
「裏のプールの家の方には二部屋ありますので、そちらで良ければ寝具を持ち込んで宿泊出来るようにするのは可能ですよ。食事も私と同じでよければ作りますし、風呂も私のところのを使っていただければ」
「いやさすがに三人もケンタローに世話させるなんて出来ねえよ」
「ですがホラールにホテルはまだないですから」
「いやな、俺の家はリビングも風呂も広いから、仮設宿泊所を作るまではうちに泊まらせるつもりなんだけど、せっかくだから飯ぐらいは美味いもの食べさせたい。だから食事だけ頼めねえかな? 俺はケンタローほど美味い料理は作れねえからさ」
彼に申しわけなさそうに言われたが、我が家を建てようというのに、俺が協力しない理由なんてないではないか。そう答えると、
「つっても、わざわざサッペンスから呼びたいとワガママ言ってるのは俺だからよ」
「仕事は相性のいい人たちとやるのが一番効率がいいんですよ。パトリックさんが信頼している相手なら私も安心ですし」
「本当か? 一から家を建てるなんて大きな仕事、サッペンスでもなかなか無いからよ。末っ子のドミトリーにもいい経験になるし、あいつらも二つ返事で来るはずなんだ」
俺が了承してくれたらすぐにでも連絡入れるつもりだったとのことで、早速建築協会に電話してくれた。
受付の女性に詳細を話し、長丁場になるのでホラールにしばらく滞在出来るようなら連絡が欲しいと伝えたところ、翌日には長男のミハエルからエドヤに連絡が入った。
大体の流れを知りたいとのことで、俺がエドヤのオーナーで、パトリックの友人でもあること、家を建てるつもりなので、三カ月から四カ月程度ほぼホラールに滞在してもらうことになるが大丈夫だろうかと尋ねた。
すると、今入っている仕事が一週間ほどで終わり、まだ新しい仕事は入ってないので、その後でよければ兄弟そろって行けると言う。
仕事の件は条件に合わないこともあるかもしれないので、詳しい話は一度こちらに来て、パトリックと一緒にゆっくり話をしないかということで、十日後にエドヤに来てくれることになった。
「はじめまして! 俺がミハエルだ。よろしく頼む」
「……ジョージだ」
「あの、ドミトリーです。今回はパトリックさんに声をかけていただきまして」
「はじめまして。私がエドヤの主人、オンダでございます」
「おうみんな! 久しぶりだな。よく来てくれた」
パトリックもタイミングを合わせてエドヤに来てくれたので、二階へ案内する。
そこそこ広いと思っていたリビングダイニングも、ガタイのいい男たち五人もいるとさすがに狭く感じる。うちの子たちはジルが来ていて、勉強のあとは隣の家で水遊び中である。
エドヤに現れたベントス三兄弟は、一見兄弟とは思えないほど印象の違う男たちであった。
長男のミハエルは金髪くせ毛の二十八歳。一言で言えば陽キャ。
俺より少し小柄だがスポーツ大好きで、あけっぴろげな笑顔で人付き合いの上手そうなタイプだ。
次男のジョージは二十六歳。茶髪をスポーツ刈りのように短くカットしており、俺より頭一つは大きくかなり無口だ。顔はごつく傭兵のような威圧感があるが、趣味は読書ととてもインドアである。
最初にパトリックが仲良くなったのは実は彼らしい。
白うさぎのポリーと一緒に暮らしているそうで、雑談中にそんな話になって、一度見に行って撫でさせてもらったのがきっかけらしい。動物好き同士はシンパシーを感じるのかもしれない。
一番意外だったのは二十二歳のドミトリーだった。
俺より少し身長が高いぐらいで、サラサラなこげ茶のストレートヘアの美青年だ。
大工という印象からは程遠い線の細い今時の若者なのだ。
しかしパトリックに言わせると、若いのにとても丁寧で綺麗な塗りの技術を持っているらしい。
絵を描くのが上手だと聞いていたので、ペンキやニスなどもその感覚で出来るのかもしれない。
俺は肉じゃがや豚のミソ漬け、青菜の胡麻和えに焼き鳥、ハンバーグや焼きおにぎりなど、色合い的にはかなり地味だが味には自信のあるメニューを作ってもてなした。
「パトリックが話していたけど、マジで美味いんだな。はははっ、話半分で聞いてたよ」
「──確かに美味い」
「いや本当に、オンダさんの国の料理って独特で、初めて食べるものばかりですけど、みんな美味しいですね!」
「だろだろ? ケンタローは商売も出来るのに料理も最高なんだよ!」
わいわいと話しながら、気持ちいいほどの速度で皿から食べ物が消えていく。
そうは見えないだけで、体力勝負の大工たちだなあ、と旺盛な食欲を頼もしく思いながら俺はせっせと新たに料理を追加した。
それにしても、俺の周囲がナターリア以外若い女性が一人もいないな。
ふとそんなことを思った。
モテないにしたって、別に男たちに囲まれたいわけではないんだけどなあ。
いやそんなことを言ったらモリーやアマンダ、ジルに怒られるだろうが、ますます縁遠くなった気がしなくもない。
……いや、かろうじてウルミは女の子だな。うん。
少し切ない気持ちになりつつも、いや今は女性とのご縁がどうとかより家だ家、と気持ちを切り替えることにした。




