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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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海の恵みに大感謝!

「なあ、これ焼きが甘いんじゃねえか?」

「いいえ、これは表面を炙って香ばしさを出しているのです」

「これなんか、完全にその、生っつうか……」

「その通りです。私の国では新鮮な魚介類は生でいただく料理がありましてですね」


 カツオのたたきにイカそうめん、中トロや赤身、タイの刺身、アジのなめろう。

 鍋で炊いたご飯。

 俺にとっては夢に見ていたメニューだが、パトリックの口に合わなかった場合も想定して、火を通した料理もちゃんと用意した。

 アサリの酒蒸し、ホタテのバター醤油焼き、野菜と魚介類をこれでもかと入れまくったミソ仕立ての鍋。脂ののったブリの照り焼き。

 俺の喜びと勢いでつい作りすぎてしまったが後悔はしていない。

 それもこれもモリーがショーユを作ってくれたお陰である。

 

「刺身やなめろうは私の故郷の味ですが、モルダラ王国の方の口には合わないかもしれませんので、食べられそうなものを召し上がってください」


 いただきます、と心で手を合わせ、まずはカリカリに焼いたスライスニンニクと三杯酢をかけたカツオのたたきをフォークですくい上げ口に運ぶ。

 箸がないので取りづらいが、フォークとスプーンがあれば何とかなる。郷に入っては郷に従えだ。


(……うっまあー♪)


 イカそうめんはショウガショーユで。うん、これも最高。

 中トロの刺身も赤身もタイも、ホースラディッシュとショーユの組み合わせで全然オッケー。ワサビの香りがなくても、辛みがある方が俺は好きなのだ。

 アジのなめろうと白いご飯との相性も抜群だ。

 日本人で良かったー。生で食べる文化があって良かったー。

 この美味しさを知っていて良かったー。

 俺が無心で食べているのを、アサリの酒蒸しをつまみながら白ワインを飲み、黙って見ていたパトリックだったが、おそるおそるといった様子でカツオのたたきを一切れ、自分の取り皿に載せた。

 匂いを嗅いで、近くで見た目を観察している。

 ちょっと深呼吸をして、思い切って口に入れた。


「あの、苦手だったら無理して食べなくて構いませんからね」


 一緒に生食の美味しさを楽しみたいとは思ったが、生で食べる文化がない人には勇気がいるだろう。

 俺だって何度チャレンジしても、ライスプディングを美味しいとは思えなかったしな。

 こればっかりは長年味わってきた料理の歴史と個人の好みの問題だろう。

 もぐもぐと頷きながら食べていたパトリックの表情がパッと明るくなった。


「──おお、美味いなコレ」

「あ、気に入っていただけました? ビネガーと砂糖とショーユを使ったソースです。生臭さを感じないでしょう? ガーリックも合うんですが、ショウガとの相性もいいんですよね」


 頷いたパトリックは、ホースラディッシュを載せた中トロの刺身もショーユで食べる。


「うま。生まれて初めて煮たり焼いたりしてない魚を食べたけど、こっちも美味いもんだなあ!」

「鮮度がいいものに限りますけどね」

「こりゃ、酒で味が分からなくなるともったいねえな」


 ワインを横に置くと、ご飯と一緒に豪快に食べ始めた。

 ブリの照り焼きや鍋も口に合ったようだ。

 みるみるうちにご飯がなくなり、鍋からおかわりをよそったパトリックに俺は笑顔になった。

 自分が美味しいと思うものを同じように美味しいと感じてくれたのは嬉しい。


「この汁物もさ、魚や貝のうま味がスープにしみ出してて、野菜まで美味くなってるよな。体もあったまる」

「ですよねえ」


 昆布でもあればもっとうま味が増すけど、さすがに干した昆布まではこの国ではまだ見たことがないんだよな。

 ただ昆布そのものは、サッペンスでも漁師が引いている網にちょいちょい付いているのは見た。

 でも町中で売られていないことを考えると、ゴミとして廃棄されている可能性は高い。

 モリーに後日連絡して、廃棄処分になってるなら捨て値で買えるだろうから、干して乾燥昆布にしてもらえるか頼んでみようか。

 昆布を乾燥したのを臼で粉末にしてもいいかもな。

 今まで捨ててたものを食べ物に入れるのに抵抗がある人もいるだろうし、粉末なら塩コショウみたいに気軽に使えるだろう。

 どんな食材も、やり方次第で見た目以上のポテンシャルを見せてくれる。

 先人がなぜ昆布を干したら美味いと思ったのか。

 なぜあのトゲトゲのウニを割って中身を食べてみようと考えたのか。

 食材だけでなくどんなものも、人々の飽くなき探求心と絶え間ない試行錯誤の結果、素晴らしい成果が生まれるのだ。

 自分にはそんな探求心などはないのだが、日本の良さの共有と、いいものを広めたいという情熱だけはある。

 パトリックがショーユやミソどころか生ものにも抵抗がなくなったように、モルダラ王国の人たちの中にも生活を向上させる美味しいものや、便利グッズを好ましく思う人が多々いるだろう。

 営業マンとしての俺がここで出来ることは、良いものを広めることと、美味しいものを広めることだ。……まあ美味しいもの云々は個人的な好みや利便性が絡んでるけど。


 明日は冷蔵庫に入れてある漬けマグロの丼かなあ。

 パトリックと雑談しながらも考えがあっちこっちに泳ぐ。

 もう一つの目的はこの町での営業だが、今回はカレールーにモリーソース、ミソとショーユを各百ずつ馬車に積んである。

 ショーユについてはまた四カ月待つのは困るので在庫を百も出したくなかったのだが、モリーは一カ月ごとの時間差で樽を仕込んでいたらしい。味に不満があった時に調整出来るように時期をずらしていたそうだ。


「大きな樽も注文してあるの。前回に卸したのがなくなっても次がもうすぐ出来るし、樽が来たらかなりの量も作れるから安心して」


 と言うので安心して運んで来た。

 ただだんだんと時間と場所を取る調味料が増えてきたので、ジェイミーのレストランの裏手の広い土地を買って、第二のラボも建設中らしい。

 モリーの金銭負担というか、先行投資が大きすぎるのではないかと心配していたが、銀行も快く貸してくれたし、返済も無理がない程度なので問題ないという。


「私一人の力ではこんなに店が繁盛することもなかったし、ジェイミーだって独立したと言えば聞こえはいいけど、オンダのメニューの力がなければあんなにお客様も入らなかったはずよ。商売を広げるには、こっちだってリスクを負わなくてはね」


 大丈夫よ、見込みがなければ私は冒険しないタイプなの、と笑ってくれたので気は楽になったが、俺は俺で信頼してくれた彼女の恩に報いるためにも、今後も販路を広げなければならない。


(明日からはルルガの町でリサーチしつつ、商人との顏繋ぎだな)


 忙しくなるが、パトリックはうちの子たちの面倒はむしろ任せてくれと胸を叩いているので助けてもらおう。

 俺も営業スキルを発揮せねば。





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