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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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夢の一つ

「……というわけでして、話すのが遅くなりまして申しわけありませんでした」


 食事と軽いワインを楽しんだあと、ナターリアと俺は、うちの子たちの〇✕ボタンや木製パネルを取り出して、これを用いた会話についてパトリックに説明した。

 おやつの匂いでウルミも目が覚めたので、実際に三人で披露してもらったりもした。

 数ヵ月も黙っていたことについて謝罪すると、彼は笑って首を振った。


「そんな話、ケンタローが言い出せなかったのも仕方ねえよ。すげえことだもんなあ。でも話してくれたってことは、俺も少しは信用されてるってことでいいのかね?」

「ダニーたちがなついてるところで私はとっくに信用はしてたんですけど、気軽にホイホイと話せない事情もありましたから」

「私からもお詫びします。決して悪意があって隠していたんじゃないんです」


 ナターリアも一緒になってペコペコと謝る姿に、パトリックは少し慌てた口調で話し出した。


「実はな、正直に話すと、何か隠してることがあるんじゃねえかなと思ってた」

「……え?」


 俺はパトリックの言葉に下げていた顔を上げた。

 自分で言うのもアレだが、優秀な営業マンたるもの、ポーカーフェイスは出来て当たり前。

 パネルやなんかは訪問時には隠していたし、そこまであからさまに不審な動きをしていた記憶もないのだが。


「勘違いしないで欲しいんだけどよ、俺、エドヤの裏の家のプールでダニーたちを見てたりしただろう? そんときにたまたま扉が開いてて、奥の部屋がチラッと見えてたんだ」


 奥の部屋というのは、俺やうちの子たちの勉強部屋のことである。


「中に入ってまでしっかり見たわけじゃねえよ? でも黒板とか、木のパネルとかが床に散らばってたのが見えてよ。あれ、ケンタローは子供もいねえし、保育所とかやってる気配もねえのにってな」

「ああ、なるほど。そうでしたか」


 俺は納得した。

 パトリックは興味本位で他人の家の部屋を探索するような人ではない。

 掃除をしたあと、空気の入れ替えをするのにたまに窓とドアをしばらく開けているので、単に俺が閉め忘れてただけだろう。


「ただ俺も、決してわざとじゃないが、普段入ったことがない部屋の様子についてケンタローに聞けないだろ? 盗みでもするつもりだったのかと思われても嫌だしよ」

「いやいやそんなこと、思うわけないじゃないですか!」

「信じてくれるのは嬉しいが、やっぱり気持ちのいいもんじゃねえだろ? だから、見なかったことにしたんだ。でも心の中でずっと引っかかってた。俺の方こそ隠しててすまなかった」


 パトリックが深く頭を下げたので慌てて止めた。


「閉め忘れてた部屋を見たぐらいで謝られても困りますよ。付き合いを続けていけば隠し通せませんし、遅かれ早かれお伝えはするつもりだったんですから。こちらこそ気を遣わせてしまって」

「いやそれでも勝手に見ちまった事実は消せねえから」

「いえいえ」


 二人でペコペコと頭を下げていると、ナターリアが吹き出した。


「お二人ともそろそろよろしいのではありませんか? お互いに隠していた罪悪感をお持ちですけど、それぞれ致し方ない事情があるんですもの。謝ってばかりでは引っ越し祝いも出来ませんわ」

『ポポゥ』

『ナナナーッ』

『キュウウ』


 静かにソファーで俺たちの様子を見ていたダニーたちが、ここぞとばかりに声を上げる。


「ごめん。お前たちをほったらかしにするつもりじゃなかったんだ」


 俺はうちの子たちにも謝ると、パトリックに向き直る。


「私はパトリックさんと、これからも仲良くやっていきたいと思ってるんです。なので、たまたま見えた部屋のことを隠していた件を気にしているのならば、私がダニーたちのことをしばらく隠してた件と相殺しませんか?」

「それでいいのか?」

「私から言い出してる話じゃないですか、やだなあもう」


 俺はデザートに用意していたチーズケーキを取り出した。


「これ、昔からよく作っていた自信作で、甘さ控えめで意外とワインにも合うと思うんですよ。みんなで一緒に食べて、サラサラッと全て水に流しましょう。いや、流してください」


 変に隠し事をしていたことで、俺もパトリックもモヤモヤを感じていたのだと思うが、俺は打ち明けられたことでスッキリしたし、パトリックだってずっと抱えたままでいるのは嫌だったと思う。

 これからも気持ちのいい友人でいたいのだ、俺は。


「──じゃあ、ケーキで改めて引っ越し祝いってことでな」


 パトリックがニヤッと笑ったので、気持ちは伝わったと思う。

 ケーキをカットしていると、しれっとジローやダニーが参加しようとしているので、彼らには干しイモをあげた。ウルミも欲しがっていたが、また睡魔に襲われたらしく、ソファーの隅で電池切れになっていた。

 パトリックの気分を害してしまうこともなかったし、俺にしてみればラッキーな展開だったと言えるんじゃなかろうか。




 霧が晴れたような気持ちで帰宅した翌日のこと。

 俺の夢の一つを叶えてくれそうな一本の電話があった。


 うほほほほほ。





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