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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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本当に越してきた男

 パトリックからアパート借りたぜー、という話を聞いてから、なんと十日後にはもう引っ越しが完了していた。仕事の早い男だ。

 といっても、こちらの単身者向けのアパートというのは、以前何度か見て知っていたが、収納やベッドなど家具付きになっているところが多いので、引っ越しはかなり身軽にできるらしい。

 自分の衣類や仕事道具などの私物、自分で購入した冷蔵庫や洗濯機などの家電を運べばおしまい。

 パトリックがサッペンスで住んでいたところも、小さな戸建てではあったが、基本の家具は作り付けだったようだ。

 なので引っ越し荷物は自分の馬車を二往復させただけで済んだようだ。


「新しいところは大きなベッドもついてるし、リビングが広いからソファーぐらいはこっちで買うつもりなんだよ。片づけたら一度遊びに来てくれよ!」


 と言われたのはたった三日前のことなのだが、もうソファーもラグマットも買って配置したぜ、と昼間エドヤにやって来てドヤ顔で報告してくれた。

 彼はマメなのか、ちゃんと住所と簡単な地図まで書いてきてくれた。

 なるほど、確かに距離的には近い。マイリヤカーにみんなを乗せて走れば、ものの五分ぐらいで着きそうだ。


「あさってからはジルさんとこの水漏れ修理入ってるから、よかったら明日みんなで飯にでも来ないか? といってもいきなり過ぎるか。はははっ、ケンタローの都合がつく日でいいんだが。ナターリアも一緒に」

「私は大丈夫ですよ。明日は店も休みなので。ナターリアさんはどうですか?」


 俺はレジの前に立つナターリアに話しかけた。ちょうど店も客が引いていたので、彼女もニコニコとこちらの話を聞いていたらしい。


「あら、嬉しいお誘いですけど、私も伺ってよろしいのでしょうか?」

「当然だろ。コワモテな男が一人暮らしする場所なんて怖いかもしれないが、ケンタローもいるし問題ないだろ? 何時ごろ来られるかだけ後で聞きに寄るよ。もちろんダニーたちも一緒な!」


 そんじゃまだ買い物が残ってるから、と手を挙げて店を出ていくパトリックを見送って、俺はナターリアを見た。


「あの、ナターリアさん」

「はい?」

「実は、彼にあのことを打ち明けようと思ってるんですが……」


 引っ越し祝いをする時がいいタイミングのような気がする。

 遅くなればなるだけ言いづらさが増してしまうし。


「彼なら大丈夫ですよ。母さんも屋敷に入るのを認めたぐらいですし」


 昔からどんな人であれ、ジルが気に入らなければ、屋敷の中には絶対に入れないのだそうだ。彼女が信用できる人間かどうか判断してから、というのが父親が存命だった頃からの決まりごとらしい。

(まあジルさんは、人を見る目がしっかりしてそうだもんなあ)

 そう考えると俺が最初屋敷に入れたのは、彼女がぎっくり腰になっていたから、という緊急事態だったのは、ある意味ラッキーな出来事だったのだろう。

 そうでもなければ、俺がジルから信頼を得るようになるまでかなり時間がかかったと思う。なんたってよそ者だからね。

 まあジルにとっては災難だったのだが。

 ナターリアもパトリックに対して信頼していることが分かり、俺も安心する。

 ホッとした俺とナターリアは、仕事の合間を見ては、持って行くものについてあれこれと相談をするのであった。




「よお! よく来たな。おう、ダニーたちも入った入った!」


 翌日の午後二時。

 俺はリヤカーにダニーたちとトランク、それにワインやつまみになるものを乗せ、徒歩のナターリアに合わせてゆっくりとパトリックのアパートに到着した。

 ウルミは爆睡中なので、俺が抱っこ紐でぶら下げている。

 アパートといってもわずか四世帯の小さな建物だ。オーナーが余った土地をそのままにしておくのも無駄だということで、平屋のアパートを建てたらしい。

 パトリックは一番端のA号室だ。

 1LDKと聞いたが、そのLDKがやたら広い。多分二十畳ぐらいはあるんじゃないだろうか。

 こちらで購入したというソファーとテーブルを置いていても広々している。

 その代わり、ベッドルームである寝室は四畳半ぐらいと小さめだ。

 作り付けのダブルサイズのベッドとデスクと椅子でかなりパツパツの印象である。

 そしてバスルームの湯船が大きい。

 パトリックのような大柄の男でも手足が伸ばせそうなゆとりのある大きさで、洗い場も使いやすそうだ。


「仕事の疲れを取るには、やっぱゆっくり入れる風呂が一番なんだよな」


 短くルームツアーをしてくれたパトリックは、決め手は風呂とリビングだったという。


「もしダニーたちが来ても、狭すぎると家具にぶつかってケガするかもしんないだろ? 寝る場所なんてベッドがありゃいいからよ。あと風呂も広い方があいつらも入れるし」


 それはもう自分ファーストというよりうちの子たちファーストである。

 だがこの広い部屋でも、サッペンスの小さな戸建ての半額の家賃だという。


「実際にあっちは部屋数だけは二部屋多かったけど、ほとんど使ってない部屋ばかりだったし、一部屋ごとは広くなかったからな。掃除も大変だったし、一人暮らしには少々持て余してたんだよ」


 まあ大きな町だ。利便性にこだわれば家賃は当然高くなる。

 俺も新宿区のマンション高かったしなー。

 でも腕に自信がある職人というのは、実際に住む場所はどこだっていいのだろう。基本的に自分さえいればいいのだから。

 隣の改修後の様子を見て、


「パトリックさんはかなり腕のいい大工だわ」


 とモリーも褒めてたもんな。

 俺たちが訪問した時も、まずリヤカーに興味津々だったし、自分の仕事に影響しそうなことは何でも吸収したいタイプなのだろう。

 工場のアーニーさんと引き合わせたら、仲良くなれそうだ。

 今は普通の前かご付きの自転車を依頼しているので、試乗の時に誘ってみよう。

 それよりも今日は、もっと大事な話がある。

 ワインや自作のおつまみなどをナターリアと運び込んだ俺は、


「それじゃ、まずは皆で乾杯しましょうか」


 とパトリックに笑みを見せた。





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