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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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名前を呼ぶ男

 ホラールに戻っても、パトリックとの付き合いがなくなることはなかった。

 一晩お世話になって、料理を褒められ、気持ちいいぐらいバクバクと食べてくれた。

 話してて色々と共通点があることも知った。

 天涯孤独であること。(俺の場合は状況が若干異なるが)

 仕事を愛し、熱意をもって取り組んでいること。

 動物が好きなこと。

 甘いものや食べることが好きなこと。

 可愛いものに目がないこと。


「だけどな、仕事でケガしてこんな恐ろしい顏になっちまったからよ。恋人には逃げられちまうし、外で鳥や連れ歩いているペットを眺めてるだけで、何かするんじゃないかと怯えられるしな」


 なかなか感情や好みを表に出せなくなってしまったとのこと。

 馬車の幌は自分の好みの柄にしたが、やはり意外な目で見られることも多いらしい。


「恋人とか奥さんの好みかい? とか聞かれるから『まあな』と言っとけばいいんだけどさ」


 可愛いものを可愛いと言えないのは、けっこうストレスが溜まるらしい。

 ダニーたちのあまりの可愛さと賢さに思わず引き止めてしまったが、俺と話していても、楽しくていい時間を過ごせたのが一番の理由だという。


「でも家族が欲しかったら、ペットショップから手に入れる方法もありますよ」

「バカいうな。町中で眺めているだけで怖がられるんだぞ? ペットショップなんていったら虐待でもするのかと思われるじゃねえか」


 確かにバカでかいムキムキ系の傷あり兄さんが現れて、


「いやあ本当にモフモフした生き物って可愛いよなあ」


 などといきなり話しかけられたら、俺でもちょっとビビる。

 しかも笑顔を浮かべても、傷がある方は引きつったような表情になるし。

 彼が悪いわけではないけど、般若の刺青をみせられると怖いと感じる人がいるように、違和感のある表情をみて怖くなったりする人もいるだろう。

 医師の腕が悪かったのかもしれないが、もう少し丁寧に処置をしてくれていればと思う。

 人柄が分かってくるとなおさらだ。

 筋肉がついてるのも仕事柄、木材など重たいものを運んだりするので、なるべくケガをしないよう鍛えているだけみたいだし。

 嫌がらずに撫でさせてくれて嬉しい、とご機嫌でダニーたちをなでなでしている姿をみていると、俺もいつの間にか顔の傷のことも気にならなくなった。


 モリーの店やジェイミーのレストランも、住んでいる町の反対側の店はほとんど利用したことがなかったそうで、知らなかったという。


「オンダが作るような美味い飯が食えるなら、そのジェイミーのレストランも寄ってみるかな。この調味料もモリーの店にあるんだろう? 今はちょうど近くで仕事もしてるしな」


 と言ってくれた。

 おそらく顔のせいで、なじみのない店には行きたくないのだろうと思ったが、モリーもジェイミーも善人だし、彼には美味しいものを食べて元気に働いて欲しい。


 案の定、翌朝は仕事があるという彼と一緒に馬車を前後に並べてモリーの店まで戻ってきたが、モリーもジェイミーも、パトリックの顔を見ても表情一つ変えなかった。

 笑顔でウルミを見つけてくれたお礼をのべ、レストランは明日からの営業なので今日はうちでご飯でも、と遠慮する彼を誘ってくれた。

 俺もダニーたちに水浴びをさせている時間に、朝昼兼用の食事をご馳走になり、モリーたちにパトリックの人柄の良さをアピールしておいた。


「私と一緒で動物大好きみたいなので、すぐにウルミもみつけてタオルを敷いた寝床に保護していただいてまして」

「まあ! ウルミもあなたみたいな方の馬車に落ちて本当にラッキーだったわ」

「本当ですよ。僕らもウルミがいなくなったと知って、真っ青になりましたからね。本当にありがとうございました」

「え? あ、いや」


 照れてうろたえるパトリックを俺は微笑ましい気持ちで眺めていた。


「モリーさんのところとは、私も家族同様のお付き合いをさせていただいてますので、何かあればいつでもこちらに……あ、急ぎの御用でしたら直接私にご連絡を」


 俺は刷っていたエドヤの名刺を手渡した。


「……オンダはファミリーネームか。名前はケンタローっていうんだな」


 名刺をみてパトリックは俺に尋ねた。おお、珍しくちゃんと発音が合ってる。


「はい。でもオンダでいいですよ。発音しづらいでしょうから」


 こちらの人が俺の名前を口にすると、慣れない言葉の並びのせいか、ケタロとかケントロとかになるので、最初自分が呼ばれているかよく分からなかった。

 それで面倒くさくなって、一番聞きやすく発音しやすいオンダで統一しているのだ。


「オンダもいいけど、ケンタローって呼ぶ奴もいなきゃ、名前をつけてくれた親に悪いじゃないか。俺はケンタローって呼んでもいいか? よかったらこれからも仲良く付き合いたいしな」

「ええ、それはかまいませんが」


 俺はさりげなくそう返したが、内心ではちょっと、いやかなり嬉しく感じる自分がいた。

 久々に家族のことを思い出してしまったから。

 ──父さんも母さんも、元気でやってるといいな。

 実家のワサビ(雑種犬)とガリ(三毛猫)も、元気で走り回っていることを祈ろう。

 俺は、パトリックにまた好感度が上がるのを感じていた。





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― 新着の感想 ―
恩田のネーミングセンスよ…。 いや、かわいいけども。
パトリックさん素敵 お仕事休みの時は明るい色の可愛い感じの服を着るといいですね
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