ウルミとの再会と新たな出会い(上)
馬車の幌を足掛かりに付近を捜索する。
我ながらいい考えだと思ったのだが、どうもモリーの家にあるものでは、同じものや似たものが見つからないらしい。
ダニーもジローもウロウロしているが、これだというのがない様子だ。
〇✕ボタンで模様があるというところまでは確認できたが、モリーの家は落ち着いた無地の色合いのクッションやベッドカバーなどが多い。
俺もガチャガチャした派手な模様は落ち着かないので、モリーのセンスはとても好みだが、今回ばかりはもっと色々あればと焦った。
模様が入っていたと分かり、モリーとジェイミーも自室から洋服を持ってきたが、せいぜい細いストライプの入ったシャツや、ワンポイントの入ったものぐらい。ダニーたちも✕ボタンを押す。
ジェイミーもモリーと同様、派手な柄モノは好まないタイプだからなあ。
残念そうな顔のモリーがハッとした顔で叫んだ。
「やだ、私の家じゃなくて、雑貨屋ならもっとたくさんの種類があるじゃないの!」
「あ、そうですよね!」
俺も言われて改めて気づいた。
ジローのスカーフだのシュシュだのよく買ってるじゃないか。アホかまったくもう。
焦ると頭も回らないし視界が狭まるってのは本当だな。
「おいダニー、ジロー、悪いけど一緒に雑貨屋に付き合ってくれるか?」
『キュ!』
『ポポポ』
モリーたちには小声で、この子たちが気にするだろうから、いつも通りの行動をして待っていて欲しいと伝え、三人で雑貨屋に向かった。
「……いや、嘘ついているとは思ってないが、本当にこれで間違いないか?」
十五分後、俺は雑貨屋で興奮しているジローをなだめて確認していた。
ダニーもキュッキュッ、と答えながら足で床をタンタンと鳴らしている。
「分かった、分かったから」
ダニーの持っているリボンを購入すると、俺はモリーの家に戻った。
一時間もしないうちに戻ってきた俺たちを見て、迎えに出てきたモリーが首を傾げる。
「早かったのねオンダ。……どうしたの? 分かったんじゃないの?」
「分かったには分かったんですが……」
俺はダニーが選んだリボンを見せる。
彼らが選んだのは二本だった。
一つは日本では洋室の壁紙とかで目にしたことがあるような、ベージュに金糸で花とか草の模様が細かく描かれたリボン。もう一つは深緑の無地のリボンである。
ダニーたちは動き回って疲れただろうしと、裏庭のたらいで水浴びしといでとタオルを持たせて送り出した。
「……ダマスク模様ね。珍しいわね、幌でそういう柄を使うのは」
「ダマスク模様っていうんですか。初めて知りました」
ダニーたちの意見をまとめると、柄はこれによく似ていて、幌の色は深緑ということらしい。
色と柄を把握した俺の印象を一言でいえば「上品でお金持ちっぽい」イメージだ。
少なくとも、布の色自体はごく普通だが、穴を隠すための柄にしては繊細すぎる気がするし、見た目重視の富裕層の女性の持ち物の可能性もある。
「ただホラールでもサッペンスでも、そんな柄の馬車を見たことがないので、果たして本当にこれで捜索していいのかと」
ダニーたちを疑っているわけじゃなく、勘違いということもある。
本人たちは自信満々だが、頻繁に行き来している町で見た覚えがないということは、別の町に住んでいる可能性も高くなってきたのだ。心臓が痛い。
「確かに私も見た記憶はないわ……あっ、でも店の中やラボにいることが多いから私っ! 全然参考にならないわよね」
そう呟いて慌てて早口で返したが、俺と似たような想像をしたのかもしれない。
変に気を遣わせてしまった、と少し微妙な空気になってしまった。
そこへ、レストランの方でゼリーとアイスの仕込みをして戻ってきたジェイミーが、俺を見て、
「あ、オンダさん早かったですね? わかったんですか幌の件?」
と明るい声を上げた。空気が変わったことに俺もホッとする。
俺がリボンを見せながら説明すると、ジェイミーがんんん? という顔をした。
「どうしたんだい?」
「あれ、僕、つい最近そんな幌の馬車を見たような……」
「え? ど、どこで?」
「それは本当なのジェイミー?」
「うん。確か、確か一週間は経ってないと思うんだけど」
何とか思い出そうとしているジェイミーを急かさないよう、俺とモリーは彼の返事を待った。
しばらくして、
「あ! そうだ! お隣さん!」
とジェイミーが叫んだ。
「お隣さんの家の改修をしてる大工さんが、そんな感じの柄の馬車に乗ってたと思う。ただ、店からゴミ出しするときに一、二度見ただけだから、絶対に合ってるかは分からないけど」
「ありがとう! 助かるよ」
早朝に馬車が走っていたということは、作業を終わらせていったん帰ったか、休みだったがたまたま通りかかっただけ、ということもある。
大工というと気性の荒いタイプの人も多い。別の意味で心配も増えた。
もちろんそんな人ばかりではないだろうが、女性よりガサツな人が多いのは確かだろう。
ウルミはほとんど眠っているから鳴くこともない。まだ気づいてないってことも考えられる。
とりあえず急がないと。
目覚めて俺やダニーたちが近くにいないことで混乱するかもしれない。
「すみませんモリーさん! そのお隣さんが今仮住まいしてる場所は分かりますか?」
「場所まではしらないけど、近くに息子さん夫婦が住んでると言っていたからそこかもしれないわね。ちょっと周りの人に聞いてくるわ」
「あとジェイミー、悪いが急いで停車場から馬車を持ってきてくれないか? 私はダニーたちと出かける準備をするから」
「分かりました!」
俺は裏口からダニーたちに戻ってくるよう声をかけると、寝室のトランクとウルミのベッドカゴを取りにいくのだった。




