秘密の共有
早朝に出たため、途中で休憩を入れても、サッペンスには午後三時過ぎには到着した。
停車場で顔馴染みになったお兄さんに挨拶をし、馬車を預ける。
「オンダもだいぶ馬の扱い慣れてきたみたいだな。最初はおっかなびっくりって感じだったのに」
とからかわれたが、日本では乗馬が趣味でもない限り、馬との接点なんてほぼない。習うより慣れよの方式で、利用しているうちに慣れただけである。
アマンダは目をキラキラさせて周囲を見ている。
ホラールもそれなりに発展しているが、港があり交易が盛んなサッペンスとでは、町の華やかさは段違いである。
「ジェイミーも今日は仕事しているでしょうし、モリーさんに挨拶して荷物を置いたら、少し町を散策しますか?」
「そうだね。なんだかワクワクしちゃうね!」
アマンダにジロー、そして海辺特有の魚の匂いでテンションが上がったのか、四つ足だったり二足歩行だったりと落ち着かないダニー、そして抱っこ紐の中で爆睡しているウルミ。
こんな我らホラールからの一行は、のんびりとモリーの店へ歩いていった。
「いらっしゃい! 思ったより早かったのねオンダ。まあ、あなたがアマンダね? はじめまして、私はモリーよ。これから息子ともども仲良くしてくださいね」
「こちらこそご厄介おかけしちゃって」
アマンダの方がモリーより一回りは年上だろうが、働き者同士で気が合いそうだ。
周りの人たちが仲良くしてくれると俺も嬉しい。
「アマンダはこちらの部屋、オンダはいつもの部屋ね。ダニーたちは水浴びしたいでしょう? たらいも大きなの買って水を張ってあるから、裏庭に回ってくれる?」
『キュッ!』
『ポポーッ』
二人のご機嫌な声に抱っこ紐で眠っていたウルミが目を覚ました。
「お、起きたかウルミ。モリーさんが支度してくれたから、ご飯の前に水浴びするか?」
『ナッナー♪』
もぞもぞと抱っこ紐から下りたい様子を見せたので、ウルミをジローの頭の上に乗せた。
「それじゃ、しばらく遊んでてくれ。俺はアマンダさんに少し町を案内してくるからな」
『キュ』
『ポゥ』
『ナナナ』
三人とも了承したといった返事でぽてぽてと歩いて行った。
モリーが笑みを浮かべる。
「ふふっ、ジローたちって、まるでちゃんと分かってるみたいに振る舞うわよね時々」
「モリーもそう思うかい? 私もすごく賢い子たちだと思ってるんだよ」
「え? ああ、そうですね」
モリーとアマンダの言葉に無難な返事を返す。
話が理解できてるし、最近では意思の疎通もできることは、今のところジルとナターリアしか知らない。まあまだ学習中ではあるんだけど。
王国の研究所なんかにバレたらろくなことにならないとジルも懸念していたし、俺もうちの子たちを連れて行かれて、国の実験に使われるなどまっぴらごめんだ。
だが今回はアマンダやモリー、ジェイミーには話しておこうと思い、〇✕ボタンと幾つかの絵と文字の入ったパネルは持って来てある。
長くなりそうな付き合いだし、三人ともある程度の人柄は把握している。口も堅い。
そして一番は警戒心の強いうちの子たちが、撫でられても嫌がらないことだ。
野生育ちの子は、自分に害を与える存在かどうかを無意識に判断している気がする。
少なくともダニーたちが苦手とする人には、いくら親しくなろうとも教えるつもりはない。
万が一の際には、モリーたちに頼ることもあるかもしれないので、俺やナターリア、ジルがいない場合に、彼らの把握をしている人はいるに越したことはない。
(……まあジェイミーが戻った夕食の後にでも話をしよう)
俺はそんなことを思いつつ、アマンダに話を振った。
「アマンダさん、とりあえず明日と明後日はみっちりレシピの勉強してもらいますので、今のうちにモリーさんのお勧めの土産物でも見てきましょうか?」
「そうだね! ねえモリー、うちの旦那と従兄がお酒好きなんだけど、サッペンスの酒の肴で人気があるもの教えてくれるかい? あと服でお勧めの店もあれば聞きたいんだけど」
「そういうことなら任せてちょうだい。ああもう、お店なんて開けてる場合じゃないわ! 地元の私が代わりに案内するわ。いいでしょうオンダ? ジローたちと留守番をお願いね」
「いや、それはありがたいんですが」
いそいそとクローズの看板を出しに向かうモリーに、申しわけない気持ちになりつつも、やっぱりいい人だなあと改めて思うのだった。




