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新たなステップ

 俺が新作レシピを伝えるために、今度はサッペンスに出向くという話をアマンダにしたら、

「今度は私も一緒に行くよ。毎回ジェイミーにこさせるのは不公平だもんね」

 とアマンダが言い出した。

「え? でもお店は?」

「私を誰だとお思いだい? アマンダさんはね、飲食店を長年やってきてるんだ。不在時の対応を考えずに動くわけないだろうよ」

 自信満々のアマンダに尋ねると、仕事の合間にアルバイトの女性にちゃんとテイクアウトメニューの作り方を仕込んだらしい。若いが飲み込みが早くてすぐに覚えてくれたという。

「ま、一週間ぐらいは大丈夫だろ。何なら不在の間に手伝いしてくれる人がいるならバイト料も出すよ、と伝えたら、母親にも手伝ってもらうって話だったしね」

 もう何年もサッペンスどころか他の町にも行ってないとのことで、サッペンスに行ったら色々買い物もしたいとウキウキしている。

「ザックさんは?」

「一緒に行かないかと誘ってみたんだけど、畑を放置できないから今回はパスだって」

「ああそうですよね、ガッカリでしょうねザックさん」

「そうでもないと思うよ。あの人料理も意外とできるし、身の回りのことも自分でできる人だから。この機会に旧知の友人と飲み歩くぞー、とか気合も入ってたしね」

「なるほど。ザックさんも自由時間ってことですね」

 アマンダは声をひそめた。

「ほらザックってば髪の毛がだいぶ伸びてきただろう? 絶対に飲むついでに周りにさり気なく自慢したいんだよ。友だちが髪の毛が心配になってきた人が多いからね。エドヤのお客さんが増えるかもしれないねえ、くっくっく」

「それはそれは。いくらでも宣伝して欲しいものです。ザックさんにはファイナルアップ買うお客さんが増えたら、割引しますよとお伝え下さい」

「ザックに伝えておくよ。堂々と自慢できる大義名分がつくってもんだしねえ。ひっひっひ」

 もうほぼ悪代官と商人のやりとりである。

 ナターリアは、もう慣れたので店の方は自分一人で何とかなるといい、

「ただ、どうしますジローたちは? 母さんと勉強なんかもあるでしょう?」

「そうなんですよねえ」

 でも店だけでなく、うちの子たちの面倒までナターリアに押しつけるわけにはいかない。

 ちょうどウルミも起きている時間だったので、俺は二階に上がって三人に尋ねた。

「なあみんな。俺はサッペンスの町に行く用事があるんだけど、一緒に行くか?」

 〇✕ボタンはプールのある家でも二階の自宅でも常備してある。一番返事が楽だからだ。

 三人は〇ボタンを足で踏んた。

「そっか。そうだよな。ずっと同じ家にいるもんな。たまには出たいよな。モリーさんやジェイミーもいるしな」

 三人とも〇ボタンを踏んだが、ダニーだけは少し迷って、魚の絵がついたパネルも持ち上げた。

「はははっ。そうだよな、サッペンスは新鮮な魚も安く売ってるもんな」

 ジローやウルミは俺が与えて慣れたせいか、肉も魚も焼いた状態の方が好きみたいだが、ダニーは生のまま頭から丸かじりするのもお好みなのである。

 そういや、俺はアマンダに教えられて知ったのだが、実は東にあるサッペンスが近隣の町で一番遠いらしい。

 馬の扱いに慣れてきたとはいっても七時間以上はかかる。

 ただ直線で広い道をまっすぐ進むだけなので、誰でも迷いようがない。だから近くの大きな町と聞かれて、まず真っ先にサッペンスを俺に案内したらしい。確かに他の町を案内して、俺が道中で迷って行方知れずになったら、アマンダたちも寝覚め悪いだろうしな。

 結果的にジローたちに会えたから感謝しかないけど。

 西にあるラズリーという町は馬車で三時間だが、細い道が多く入り組んでおり、馬車の場合は回り道が必須。

 北のルルガは四時間ぐらいで道もそんなに複雑ではないが、寒い地域で夏場でも防寒対策が必要らしい。

 南にある王都ローランスは道も整備されたところが多く馬車の移動も楽で、五時間ぐらいで到着できるらしいが、なにしろ王宮があるのでゲートの手荷物検査などに時間がかかるとのこと。

 そして当然だが出入りの商人や住民も多いので、到着しても数時間は馬車に乗ったままで検査まちが普通だそうだ。

 うちの子たちを連れて行くことを考えると、大人しくしていられるか分からない。

 ほぼ眠っているウルミは別としても、何かいい方法を考えるまでは後回しにした方がよさそうだ。

 そう思うと、サッペンスはすぐ荷馬車を預けられるし、移動も自由なので、むしろ最初がサッペンスでよかったような気がする。モリーやジェイミーにも出会えたし。

 ジルもほぼ毎日教えに来てくれていたから、彼女にも少し休養してもらわねば。

 彼女はジローたちが文法を覚えるのが苦手だと気づくと、木製パネルで簡単な絵と単語を大きく書いたものをたくさん作ってくれた。

 「好き」「嫌い」「よい」「悪い」「ご飯」「痛い」「眠い」「女性」「男性」「子供」など、よく使いそうで簡単なものばかりだ。何か思いつくたびに増えている。

 〇✕ボタン以外は、文字を並べさせるよりも、単語のパネルの方が早いと感じたらしい。

 まあ実際ダニーは手を使えばいいので楽だが、ジローやウルミは二本足でちょいちょい動かすか、くちばしで何とかするしかないので時間がかかる。

 文字の作りを覚える役には立ったが、実際の使いやすさを考えると、単語が書いてあるパネルを選ばせた方が手間がかからないのである。

(……サッペンスのジェイミーの店の件が落ち着いたら、まずは一番近いラズリーかルルガでも訪問してみようかな。モリーのしょうゆはまだ発酵とか時間がかかるだろうし)

 新たなビジネスチャンスは、ただ待っているだけではやって来ないのだ。

 別の町で、いいものがあれば仕入れたいもんな。

 新規開拓も大切な営業マンのお仕事なのである。





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