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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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エドヤのバイト探し。

「はい、ホコリトレール三世とピラにゃん、ビーフジャーキーとバウムクーヘンですね」

「バウムクーヘン二つですね、少々お待ちください」

「こちら新商品のモリーカレーです。アマンダさんのお店で出しているのとは少し違うんですが、こちらも美味しいのは保証しますよ。はいはい、スパイシー一つで。ありがとうございます!」

 小さい店とはいえ週に六日、朝の十時から夕方六時まで一人で営業するというのは、思った以上に大変だった。

 それなりに客は来るし、商品を知らないお客さんへの説明もおろそかにはできない。

 ジローとダニーに食事を与えつつ、自分もサンドイッチやおにぎりを頬張り、お客さんがいない時には裏手に設置してあるプールで彼らの様子も見たりする。

 閉店後はなくなりそうな商品があれば、ジルの屋敷の倉庫まで荷馬車で取りにいく。

 いやまだ三十二歳など働き盛り、ぴちぴちなんだと言い聞かせてはいたが、フリーの営業マンとして働いていた時には、自分である程度休みを取れてたので問題なかった。

 だから店を構えるぐらい、なんてことないと思っていた。

 だが、接客、販売、その他もろもろを全部一人でこなすのはけっこうきつかった。

 ジローもダニーも利口だし、知らない人について行かない、危ないことはしない、と言い聞かせているので、その辺は心配ないが、何にでもアクシデントというのはある。

 もしケンカでもしたら、ダニーの噛む力の強さでジローが大ケガするんじゃないかとか、俺の目を盗んで人の食べ物食べて病気になったら、など心配は尽きない。

 かといって店をほったらかしにするわけにも行かない。

 自分の自由時間が睡眠と風呂と夕食時だけになっている。

 週五日の営業にしようかとも思ったが、休めば休んだだけ売り上げは減る。

 今後はモリーのところの商品開発費、仕入れ代金もお金はどんどん必要だ。

 サッペンス往復の際の数日の休業も痛い。

 今の俺の一番の願いは、

(……バイトが、店に信用できるバイトが欲しい……)

 なのである。

 アマンダに聞いてみようかとも思ったのだが、彼女のところも串焼きとカレーが思った以上に出ているらしく、今はランチタイムも店を開けているらしい。

「まったく忙しいったらないんだよ。儲かるのは嬉しいけどさ」

 などと嬉しそうに愚痴をこぼしつつ、アマンダも昼間は店に出ているようなので、忙しそうで声をかけづらい。

 ザックはザックで、

「カレーが売れているせいで、野菜畑を増やさないといけなくなった」

 と伸びた髪の毛をいたわりつつ畑仕事に精を出しているので、こちらも難しい。

 かといって、信頼できるからってジェイミーをサッペンスから連れてくるわけにも行かないし。

 俺はまだ信用できる人がそこまでいないので、選択肢が限られてしまう。

「……やっぱりジルさんに聞いてみるか」

 仕事を終え、倉庫に取りに行く商品をメモすると、プールでまだ遊んでいたジローとダニーに声をかける。

「おーい、ジルさんのところ行くからそろそろプールから二人とも上がれー。荷馬車借りてくるからダニーもタオルで拭いとけよ」

『キュウ』

『ポッ』

 返事を聞くと、俺はそのまま歩いて二分ほどの場所の馬車のレンタル屋に向かう。

 あまりにも何度も借りるので、顔馴染みになった主と月契約を結んで、今では割安で荷馬車を貸してもらえるようになった。近くにレンタル屋があるのは本当に便利だ。

「いっそのこと荷馬車を買った方が安上がりじゃないか?」

 と主が言うのだが、馬の面倒までみるゆとりは俺にはないのだ。荷馬車はサブスクでいい。

 この先環境に優しいトラックなどが出る可能性に期待しよう。


 ジローたちを連れてジルの屋敷に向かうと、開いた窓から女性が言い争うような声が聞こえてきたので驚いた。一人はどうやらジルの声のようだ。

「でもメイドさんは昼間しかいないはずだけどなあ」

 ジローとダニーにはちょっと待ってて、と声をかけて自分だけ荷馬車を降りると、そっと開いている窓の方へ近づいた。確かここはジルさんの研究資料が置いてある書庫だったと思うけど……。

「だからね、陰湿な嫁いびりを『母さんも悪気はないんだから』でなあなあにする旦那なんて要らないのよ私は」

「だからって母親に何の相談もなしに、勝手に離婚していきなり帰ってくるこたないだろうよ!」

 ……ん? 母親? ジルさん娘さんがいたのか? 

 話を聞いた覚えがないが、結婚していたようだし、離れた場所に住んでいたのかな。

「ナターリア、お前は旦那さんの優しいところが好きだって言ってたじゃないか」

「あれは私の間違いだったわ。優しいんじゃなくて、単に事なかれ主義だっただけなの。普通、自分の嫁が『結婚して一年も経つのに子供すらできない欠陥品』なんて母親に言われたら怒らない?」

「──いやまあそりゃひどい言われようだとは思うけど」

「でしょう? でもまあ最初は我慢したわよ私だって。でも味方であるべき旦那がことごとく敵を擁護して『考えすぎ』だの『悪気はない』だの『母さんは昔の人だから』で流されたら、私だって立場ないじゃないの! もうプチーンと来て、この家ではもう暮らせない! ってさっさと離婚してやったわ。ごねてたけど、どうせご飯や掃除をする人がいなくなるのが不便だっただけよ」

「ちょっと落ち着きなさいよ。まあお茶でも飲んで」

 ──うーむ。なかなかヘビーな話題を立ち聞きするのはよろしくないぞ。

 俺は足音を消して離れるとまず倉庫に向かい、必要な商品を荷馬車に積んだ。

 いかにも荷物積んでたので何も聞いてないですよー、というアリバイ工作だ。

 意味があるかは分からないが、何もしないよりはいいだろう。

 そして、覚悟を決めて玄関の呼び鈴を鳴らす。

 毎回荷物を取りにきたらお茶をする流れなのに、それをせず帰ったら逆に不審に思われてしまうじゃないか。それで、来客があるって流れならまた今度、と爽やかにすすすっと帰ればいい。何も言われなければ、今日はちょっとやることが残ってまして、ですすすっと帰る。

 よし、シミュレーションは完璧だ。

「こんばんはーオンダですー」

 あくまでもいつも通り。いつも通りの笑顔だぞ俺。

 少し待っていると、ジルが玄関から出てきた。

「いらっしゃい。ジローもダニーもよく来たね。実は今娘が帰ってきててね」

「そうですか、それは失礼しました! じゃあまた日を改めますね。行こうかジロー、ダニー」

 俺は頭を下げ帰ろうとしたが、がしっと後ろから手を掴まれた。

「ちょっとお待ち。ちょうど良かった、第三者の意見も聞きたかったんだよ。さあ入って入って」

「え、いや、家族水入らずのところをお邪魔するのは──」

「いいからいいから。ジローとダニーもお入り。おやつあげるよ」

 引っ張るように屋敷の中に連れ込まれ、おやつと聞いていそいそと続く二人に、俺は心の中で(裏切り者~)と叫んでいた。





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