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ホラール発展計画

 俺がホラールの各町内会の長老たちに提案したのは以下である。


 ●ホラール特産品の開発・販売


 ホラールでは牧畜業が盛んで肉以外にもミルクやバター、チーズなども大変美味しい。

 また野菜や果物も肥料に困らないせいか味も濃厚で、自然災害などの影響がなければ収穫量も多く比較的安価で市場に出せる。

 ならばこの「ホラールの特産品」を使った独自の土産物を開発すべきであると熱弁した。

 実は前々から不思議だったのだ。

 モルダラ王国には各町というか地域独自の名物・名産品がないのである。

 日本に居たころは、例えば北海道なら何とかの恋人たち、宇都宮なら餃子、浅草なら雷おこし、名古屋ならういろうだの手羽先、福岡なら明太子などと、都道府県だけでなく各地域に至るまで名産品が山のようにあった。


「うちのウリはこれでっせええ」

「この町に来たらこれ食べないと(買わないと)!」


 という感じで本当に多種多様な名産があり、旅行者たちの購買意欲をそそるのが上手なのだ。

 しかも店や企業ごとに独自に研究を重ねているのでクオリティーも高いものが多い。

 せっかく品質のいい肉だの乳製品だの野菜だのが溢れんばかりの町なのに、単純に現物を各地域に卸すだけなのだ。もったいないことこの上ないのである。


「加工していい商品を作ればそれがホラールの売りになり、評判になれば商品を求めて旅行者が訪れます。例え短時間立ち寄るだけでも名産品を購入してくれればそれが利益に繋がります」


 そしてホラールの食品自体の質も周知され生産卸業者への注文も増えるかも知れないし、品質の信頼度が高くなれば商品の卸値も上がり、上がった利益をまたより良い生産のために回せるのだ。

 俺が話している内容は何も悪人になりましょうということではない。

 ホラールの名前だって広まるし、せっかくいいものがあるんだからそれを加工して何か作ってより儲けましょうよ、というだけの話だ。

 ぶどうだってそのまま売れば安いがワインにして売れば当然価格も上がる。

 労力を払えばいいのだ、利益に繋がればいいんだから。


「開発するにも販売するにも人手は要ります。ここでまず雇用がある程度見込めます」


 一人の壮年の男性が挙手をした。


「確かにオンダさんの話ももっともだ。我々だってもっと利益が上がればいいと思っているさ。でも開発だってすぐにいいものがパッと出来る訳じゃないし、人が集まったとしてもしばらくは赤字持ち出しだ」

「いくら町内会のメンバーがそれなりに大店だったり金銭的なゆとりがあったとしても、いつプラスになるか分からない事業にずるずると金を出せるかと言うと難しいね」


 興味がないわけじゃないが、とポツポツ意見が出始めた。

 俺は頷いた。


「もちろん皆様、私も含めて商売人です。当然ですが利益の出ない話が好きな方なんていません」


 和やかな笑いが漂った辺りで俺は笑顔から真顔になる。


「ただそこまで長くはかからないと思います。せいぜい半年から一年で結果が出ます。そして私オンダもかなりサポートは出来るかと思います」


 遠い島国ニホンからモルダラ王国にやって来た商人は現在のところ自分しかいないと思われること。

 島国だったので他国との交流が少なく独自の料理、調味料文化が形成されていたこと。

 この国では珍しい調味料や食べ方など王国の方にも一定の評価が出ており、他の町に比べてオリジナリティーのある商品が提供出来ること。


「ぶっちゃけた本音が伺いたいのですが、今後のホラールの発展の可能性を考えて、飲食店や調味料販売でそれなりに利益も上げている私という異国の人間の協力を得ての名産品開発、販売」


 俺は満面の笑みで手を広げた。


「商売人としての長年の経験則でも構いません。賭ける価値があるかないか、どちらでしょう?」


 少し静かになった集会場の中で、俺は内心ちょっと結果を急ぎ過ぎたかなあと反省していた。

 決して自信がないわけじゃない。

 でも今集会場の中にいる人たちは俺よりかなり年上の人たちばかりで、顔を合わせたこともない人たちも大勢いる。

 そんな初めて会うような小規模な店の若いオーナーの意見をまるっと受け入れられるか。

 普通なら無理だろう。

 だがベテランの商売人なら俺の話を聞いて興味を惹かれないはずがないのだ。

 名産品開発。

 雇用の増加とホラールの発展。

 そして俺という付加価値だ。

 どう転ぶかは正直未知数だが、賛成か反対かなら賛成の確率の方が高いと思う。

 何故かって?

 んなもんチャレンジしなきゃ今の一番小さな町のまんまだからだよ。


 しばらく無言の時が流れる。

 もしかして保守的な人たちばかりだったか、と俺の中で反対の声を覚悟しそうになった時、ベンジャミンが手を挙げた。


「──私は彼の友人ではありますが、ここは商売人として発言させていただきます。私はホラールで生まれ育った人間ですし、垢抜けないのどかなホラールも愛してます」


 ですが、と続ける。


「だからこそ、ここで生まれ育った子供たちはホラールでは仕事がなく、ローランスや他の町に行かざるを得ないことが多い状況を憂いています」

「……確かになあ」

「自営でもなきゃ難しいかもな」


 いい風が吹いたかも知れないな。

 ベンジャミンいいぞもっと応援してくれ。


「ですから一年。東西南北の町の垣根を捨てて、一年だけホラールの発展のため投資をしてもらえませんでしょうか? もちろん私も投資します」


 ベンジャミンは俺を見る。


「彼は商売でこの国に来て早々、強盗に襲われて無一文になり、それでも一から店を持つまで努力して来た人間です。最近では大元の商会まで潰れてしまって大変なようです。それでも腐ることなくホラールの発展に尽力してくれようとしているのですよ! こんな若者いますか?」


 握りこぶしで熱く語ってくれているが、大半はつじつま合わせのため捏造している情報なので、周囲の驚いた様子や同情的な視線が居たたまれない。


「逆に言えばここまで不遇でも立ち上がって決して諦めない彼の不屈の魂こそ、これからのホラールに必要なものと言えないでしょうか?」

「いえベンジャミンさんそれは言い過ぎです」


 慌てて止めるが彼は分かってますよ、というように温和な笑みを見せた。


「彼は謙虚な性格なので、褒められると照れてしまう。ですがそんな彼に私は大きな可能性を感じるのです。これからのホラールをしょって立つのは彼らの世代なのですし」


 いやそこまで可能性を感じなくていいんだってば。

 軽い感じで「まあやってみてもいいんじゃない?」ぐらいで。

 そこまで言われて失敗でもしたら俺の評価めっちゃ落ちるじゃん。


「──そうだな。一年と区切りがあるなら私らもそこまで目くじら立てることもあるまい」

「町の人間の高齢化問題も段々深刻になるわけだし、若い人たちが増えるならありがたいさ」

「全町内会で頭割りすればそこまで大金ってこともないだろうしな」

「そうよね」


 ベンジャミンの熱弁のお陰で全体的に賛成ムードが漂い出したのは幸いだった。

 しかし予想以上に俺の負担が増えそうな期待値まで上乗せされてしまった。

 こういうのを味方に背中から撃たれると言うのだろうか。


(……やるしかないかあ)


 営業マンモードになるとつい熱が入りすぎることがあるので自業自得な面もあるのだ。

 まあ、色々手は考えてある。

 ホラール発展の石ころぐらいにはなれるだろう。

 俺は笑みを浮かべながら今後のことを考え始めていた。





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