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プレゼンの日

 北の町内会で普段使っている集会場には見知らぬ顔の人たちも大勢いた。

 ベンジャミンに聞いたところ、東西南北の大きな商店街の町内会の面々らしい。

 いやしれっと言う内容じゃないでしょ。聞いてねえわ。


「こういうことは大がかりにして最初から大勢を巻き込んでしまうのが後々楽なんですよ」


 とのほほんと説明されたのだが、肝心の俺に一切の説明がないのが一番問題じゃなかろうか。

 集会の内容も『ホラール発展計画』などという御大層な名目になっている。

 何か気楽に良い案でもあれば教えてくださいね、とか言ってたくせに、これじゃあ俺がまるで発起人みたいじゃないか。

 ため息が出そうな気持ちで天井を見上げる。

 とは言え、時間を割いて集まってくれた人たちに何の手土産も持たせず返してしまえばベンジャミンの顏が立たないだろう。

 俺が彼にお世話になっているのは事実だし、ホラールを発展させたい気持ちも確かにある。

 ここは気持ちを切り替えてプレゼンするしかないか。

 俺は一癖も二癖もありそうな年季の入った商売人たちと全力で戦う意思を固め深呼吸した。


「ええ、初めてお目にかかる皆様も多いかと思われます。私はエドヤという調味料などを扱う店を経営しておりますオンダと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 俺は笑顔で深く頭を下げる。

 手前にいた顔馴染みの北町で大きな卸酒屋を経営している爺様が手を挙げた。


「オンダさん、ワシらはベンジャミンからこの町の未来について話し合いたいっつうもんで集められたんだけどよ。いったいどんな話なんじゃろか」


(俺もそれを一番知りたい人間なんですけどね)


 ニコニコと笑みを浮かべるベンジャミンを横目に見ながら、愚痴は飲み込んで営業マンモードになった。


「他国から来た若輩者として発言するのは恐縮なのですが、ベンジャミンさんから伺ったところによると、最近ホラールに転居してくる住民が増えたとか」

「そうじゃなあ。ここ数年で入って来る人間が一番多いみたいじゃな」

「確かに。まあリタイヤ生活者が多いですけどね」


 不動産業を長年営んでいる艶やかな頭の恰幅のいい爺様が頷く。

 この場にいる人たちもやはり人口の増加は感じていたらしく、見慣れない人が増えて来たとか近所に新しく引っ越して来た人がいるなどと雑談が交わされている。


「恐らく食い倒れフェスティバル開催などがローランスウィークリーに掲載されたりしたことでのイメージアップ効果もあるかと思うのですが、これを一過性のものにしてはいけないんじゃないかと思うんです私は」


 ベンジャミンが静かに口を開いた。


「それで最近精力的に新たな調味料を開発して人気のあるエドヤさんにも協力を仰ぎまして、もっとホラールを大きな町にしていくにはどうしたらいいか日々意見交換しまして」


 待て待ていつ意見交換したんだ。

 なんか考えといてねー、と全部俺に丸投げしただろオッサン。

 偽情報をさらっと混ぜ込んでんじゃねえ。

 ──まあジャストフィットするお高いジャケットにパンツ、ワイシャツに加え、めっちゃ歩くのが快適な靴までプレゼントしてもらったので強くは言えない。

 靴は長時間歩いても疲れないし変な負荷もかからず、本当に履き心地がいいので普段使いで愛用している。

 なめし革で柔らかく軽いのもポイントだ。

 上から下までオーダーは贅沢過ぎるが、次からも靴だけは絶対オーダーにしようと決めた。

 俺は笑顔で皆を見回した。


「ホラールはモルダラ王国の中で町としては一番小さいと聞いております。サッペンスのように港がないとか王都ローランスのように最初から勝負にならない大きさの町もありますが、私はホラールの町を愛しています。長年お住まいの皆様なら尚更かと思います」


 男女の長老たちがそれぞれ頷いている。


「別にこのままでいいというお気持ちもあるでしょう。ただ人口が少ない町は商売も活発にはなりにくいですし、税収が少なく道路や公共施設にお金を注ぎにくいという難点もございます」


 長老たちの協力を得るには分かりやすい説得力である。

 俺は話を続けた。


「リタイヤしたご年配の方の転入が増えたというお話もありましたが、それでは足りません。大事なのは今現役で働いている世代を取り込むことです。そのためにはまず何が必要か? 仕事です、そして観光客です」


 俺の話を大人しく聞いていた長老たちだが、首を捻った老女が「ちょっといい?」と声を上げた。

 彼女はレストラン経営をしている人だそうで、話し方もキビキビしている。


「仕事だ観光客だって言うけれど、正直ホラールは元々人口が少ないから仕事だってそこまで多くないし、観光ってほど目立った何かがある訳じゃないわ」

「大きなイベントだってそんなに頻繁にも開催出来ないだろう」

「土地は広いけど酪農と畜産、それに畑ばっかりだもんなあ。歴史ある建物なんてのもないし」


 はっはっは、と隣の爺様が笑ったが、俺はそこです、と笑みを浮かべた。


「私も色々とホラールの発展について考えたのですが、ぜひとも皆様のご協力も仰がせていただきたいと思いベンジャミンさんに無理を言ってお集まりいただいた次第なのです」


 適当に話を繋いで俺は両手に力を入れた。

 当然ながら俺だけが苦労するつもりはない。

 町内会の長老連中をボケる暇もないほどコキ……働いてもらうつもりである。





転職したばかりで時間がないものでなかなか更新できずすみませぬ。

いずれ落ち着くとは思いますので気長にお待ちくださいまし。


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