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ハイパー営業マン恩田、異世界へ。  作者: 来栖もよもよ


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恩田、新居への引っ越しとエドヤの開店。

「よし、我ながら綺麗になったな!」

 首に巻いていたタオルで汗を拭い、俺はようやく一息ついた。

 ジローは現在水浴び中で、ポッポ、ポッポと機嫌よく風呂でパシャパシャしている音が上から聞こえてくる。汗だくの俺も水浴びしたいが、まだ色々とやるべきことが残っているので我慢だ。

 春とはいえ、確実に昼間の暑さは日々増している。

 俺の嫌いな夏が来るのも間近だ。あーやだやだ。

 ジルと賃貸契約をした翌日、俺はジローを連れて早朝からやって来た。

 二階の埃掃除をして、各所の雑巾がけを終わらせ、現在は一階の店舗の掃除である。


 アマンダとザックは家から出る話をしたら、目に涙を浮かべ残念がってくれたが、

「嫌だなー、まるでもう会えないみたいじゃないですか。商売でも私生活でもお世話になってるんですから、今後も顔合わせるでしょうに。新しい住まいも近所ですし」

 と答えると、

「……あ、そう言われればそうだよね」

 とケロリと涙が引っ込んだ。二人とも感情の起伏が激しい。

 日本で知り合った外国人は、感情表現が豊かで、身振り手振りも派手な人が多かったのでもう慣れているのだが、表情の変化の速さにいつも少々驚いてしまう。

 俺は全体的に動きも感情表現も控えめな日本人として育っているので、戸惑うことも多かったが、人間慣れるものである。今では笑顔で自然にハグをしたり、美味しいものや感動したことなどをオーバーに表現するのもお手の物である。

 引っ越しといっても大きな荷物はジローとトランク、あと止まり木と少々の衣類、皿だけだ。

 実は、一見とても地味な黒のトランクではあるが、俺の持っている財産で一番高いものである。

 イタリア製の百三十リットルの大きいタイプで、何と鉄より丈夫で軽いカーボンファイバーで出来ている。階段から転がり落ちようが、空港で乱暴に職員に放り投げられようがびくともしない。

 ただ笑っちゃうほど高い。このトランクだけで百五十万以上する。

 まあこればかりは素材の加工が難しく、加工コストが高いので致し方ないのだと思う。

 大事な商品を持ち歩くので、とにかく頑丈なものを! と調べまくってこれを見つけたが、まだフリーで成功できるかどうかも分からない状態だったので、値段を見てちょっと血の気が引いた。自分の旅行用のトランクですら、一万少々でも悩んだぐらいの人間である。

 だが、ちょっとお高いレベルの数万のトランクだって、状況によっては簡単に壊れる。営業マンが己の扱っている売り物を壊すなど、あってはならないのである。

 やはりこの安心感は捨てがたい、と一カ月悩んで購入した。

 ナンバーロックも五桁あり、盗まれてもなかなか開けられないのも良かったし、丈夫なので簡単にこじ開けられそうにないのもポイントだった。

 まあバールは怖くて試してないが、金づちで叩いても凹みもしなかった大変強い子である。

 逆にこのトランクを買うことで、口座の残高が半分近く消えたので、絶対に引き下がれないところまで自分を追い込めたのは良かったのかも知れない。

 エドヤの看板については、ザックの友人が看板屋をやっているので安く頼めるとのことでお願いしておいた。木製のもので四、五万ガル程度で作ってくれるらしい。

 事前にジルにエドヤの文字は聞いてたので、親しみやすい感じの丸みがある文字で、と自分で見本で書き、こんな感じでと依頼した。

 二日ぐらいで出来るらしいので楽しみだ。

 そして店舗の方だが、元が本屋だったので壁に棚が多くて本当に良かった。

 商品を売るのに見映えよくディスプレイしやすい。

 そして四角いテーブルが三つあるので、商品の使い方説明する時に使ったり、試食品を置いたりするのに便利そうだ。

 一階もしっかり掃除を終わらせたところで、俺は手帳を取り出した。

「テーブルクロスは必要だよな……カウンターは会計で使うとして、今後のためにレジとか金庫は買うべきだよなあ……」

 今はアマンダの店を間借りしているので、受け取ったお金はカゴに入れているが、さすがに自分の店でいつまでも八百屋スタイルはよくないだろう。

 レジはレシートこそついてないが、数字を打てば合計額が上部の枠に表示されるタイプのは売っている。値段は二万ぐらいが相場だった。忙しいと暗算して間違うのが怖いので、これは買おう。

 金庫についても、ちょっと高いので今は無理だが、のちのちは必要な気がする。

 銀行はあるし、先日ジルの口利きで俺の口座も開設できたが、町のかなり端っこにあるのだ。

 歩くと片道三十分ぐらいはかかるので、頻繁には通いたくない。

 できれば週に一回、二週間に一回ぐらいが望ましい。

 その程度の期間なら、売り上げがあったとしてもトランクにしまっておけばいいし、ボディーガードならぬボディーバードがいるので、泥棒が入ってもすぐ見つけて攻撃してくれると思う。

 でも下手に手出ししてジローに危険が及ぶのも困るのだ。もう俺の大事な家族なのだから。

(……とりあえず悩みは尽きないけど、一つずつ解決していこう)

 今も店を借りてお金も敷金も払ったので、溢れるほどお金があるわけではない。

 ただ二階も生活するにあたって、食事を摂るための食器やフライパン、鍋などの日用品も必要だし、ベッドに敷くマットレスなんかも買わないと。

 俺は二階にトントンと上がりながら、風呂にいるであろうジローに声をかける。

「おーいジロー、商店街にちょっと買い物行くけど一緒に行くか?」

 返事がない。慌てて風呂への扉を開くと、丸みが三割減になったジローが風呂に溜めた水の上で、糸目になってぷかぷか浮かんでいた。

「おい昼寝すんのはまだ早いぞ。夜眠れなくなっても知らないからな」

『……ポーゥ』

「そんなに寝たいなら留守番しとくか? お前用の新しいスカーフも見ようかと思ったんだけど」

『ポ!』

 ぱっちり目が開いたと思ったら、水場から出て床で水しぶきをあげて体を震わせた。

「うわっ、俺がびしょびしょになるだろうが!」

 ジローは俺やアマンダたちのような、ある程度馴染みがある人に触られるのはいいらしいのだが、他人に触られるのはとても嫌がる。まあ元々が人になつかない種族らしいので、俺たちが触らせてもらえるのも多分かなり珍しいことなのだが。

 しかし、オレンジのスカーフを巻いて止まり木にいた時に、子供や女性から「お洒落!」「可愛いわあ」ときゃあきゃあ言われたのが嬉しかったようだ。

 近頃は町を一緒に歩いていても、スカーフを売っているショップがあると立ち止まるようになった。

 最初は意味が分からなかったが、ちょうど洗濯するときに別のがあった方がいいよなと思っていたので、

「スカーフ洗濯したいから、別のも買おうか?」

 といったら飛び跳ねて喜んだ。

 だから現在彼には赤とオレンジ、二つのスカーフがあるのだが、未だにショップの前で立ち止まるってことは、まだ欲しいのだろう。ジローはお洒落に目覚めてしまったらしい。

 うちの看板バードなので、数枚増やすのはなんてことはないのだが、何でも頼んだら叶えてもらえると思うとワガママな子になってしまうので、適度に締めておくことにしている。

(オープンして少しの間は動けないけど、そろそろサッペンスから戻って一カ月近く経つし、モリーさんのカレールーの進捗状況も気になるな。ある程度在庫が捌けたらまた行かないと)

 定型サイズに戻ったジローを連れて商店街に向かいながら、やること多いなあ、と少しため息が漏れる。……でも、やることが多いって楽しいんだよなあ。

「俺もオーナーとして頑張るから、ジローも店の看板として頑張ってくれよ」

『ポッポッ!』

「元気でよろしい」

 さあ、店を開いたら、あとは新商品もそろそろ出しつつサッペンスへ向かわねば。





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― 新着の感想 ―
スカーフ欲しがるジローがなんともかわいいです!
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