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大魔女レオンティーナの愉快で滑稽な旅路  作者: 智慧砂猫


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第47話「アタシはアタシを否定しない」



 レオンティーナの言葉が真実だと分かったのは、すぐだった。ヴィルヘルミナが手配した小型船舶に乗って、十分ほど航行した先にある港町からも見えている小さな島の林の中に、ぽつんと建った大きめの別荘へ着くなり、エルザは手を引かれて「ここがアタシの別荘よ!」と紹介された。


 その後、一番広い部屋に──本来はヴィルヘルミナが使うはずだったと思われる──寝泊まりするように言われて、戸惑いながらも頷いた。


「おい、俺の部屋の方が小さい気がするんだが」


「魔女だからって初めての子に嫉妬でもしてるの?」


「……いや、お前らしくてむしろ気に入ったよ」


 別荘に用意された三つの部屋のうち、レオンティーナがあてがわれたのは一番小さな部屋だ。それでも十分すぎるほど広いので不満はなかったが、なぜ自分が? といささか待遇の差を感じずにはいられない。


 しかし、返答が意外にも厳しめの物言いだったので、彼女はくすっとして、それならまあいいか、と納得して部屋の中に入っていく。


「最初から色々と用意されているんだな?」


「友達が来る予定だったからね」


 部屋には袋に入った菓子や酒の瓶がテーブルに所狭しと並んだ。夜中に集まって騒ぐも良し、誰よりも長く起きて、小腹が空いたら食べるも良し。あるいはしっとり深酒に興じてみるのも悪くない。そんなもてなしだ。


「なら、その友人は残念だな。遊ぶためだけに随分と上質なものばかり揃えてくれたというのに。その分、俺が得をするんだがね」


 なんだかんだと言いながらも、島に来た事でレオンティーナも自分好みの酒が目の前にあれば上機嫌だ。さっそくコルクを抜こうとして「アタシの料理が出て来るまで待ちなよ」と言われて、それもそうだと手を引く。


「……こほん。急ぎ過ぎたな」


「本当にね。ゆっくり待っててちょうだい、すぐ支度するから」


「頼むよ。それまで本を読んでいよう」


 エルザがひょいと小さく手を挙げて「私も手伝っていいですか」と勇気を振り絞る。初対面なのだから、少しくらい仲良くなりたい。同年代の友達が欲しいと思っての事だ。ヴィルヘルミナは当然だと了承した。


 それから二人でキッチンへ行って、用意していた食材を蔓で編んだ蔓籠に入れて持って来る。紙に包んであった魚は船をだす直前に用意したもので「オーブン焼きにしよう!」とてきぱき準備を始める。


「あ、あのう、私は何をしたらいいですか?」


「そっちは野菜を食べやすい大きさに切り分けてくれるかな」


「わかりました、頑張ります!」


 ナイフを握るのがぎこちない。いくら彼女が伯爵家で立場のない人間だったとはいえ料理にはやはり縁がなく、切り分け方は見た事があるのを真似するくらいで手つきが危なっかしい。


「こんな小さいトマト、どうやってスライスするんですか?」


「んー? どれ、ちょっと貸してみて」


 手を石鹸で綺麗に洗ってからエルザのナイフを手に取って、トマトを細長い指でしっかり支えて小さく切っていく。


「……子爵令嬢が料理を嗜まれるなんて、すごいですね。周りから反対とかはされなかったんですか?」


「アハハ、言うわね。反対は当然されたよ、お姉さまたちにもね」


 料理とは料理人がするものであって、由緒正しき家柄の子爵令嬢が自らナイフを手に取るなど下品だとさえ言われた。社交界でも評判の良い話ではない。どうせいつか必要のなくなる事を何故にするのか、とも。


 二人の姉も良く思わなかった。子爵令嬢という立場なら、嫁ぐ事も考えて傷跡の残るような真似はしない方がいいと忠告された。


「正直、悔しかったわ。令嬢であるからといって、アタシにもアタシのしたい事や夢がある。子爵令嬢なんて立場に縛られたくなかったから、腕を磨けばきっと認めてもらえるって信じてた。今はあまり言わなくなったけど、それでも対応は変わらないわよ。いずれやめるって、まだ認めてもらえない」


 ふう、と疲れた表情でナイフを見つめながら微笑む。


「でも諦めないんだ。アタシはアタシを否定しない。どんなときも最後まで自分の味方で在り続ける。このナイフみたいに綺麗に研がれて、立派なレディになってやるわ。誰も文句が言えないくらい立派な料理人のレディにね」


 その言葉に、エルザは羨ましいと同時に憧れを抱く。


 何もかもを諦めて生きてきて、ただの一度だって自分は自分だと認められた事はない。周囲からの否定の言葉に塞ぎ込み、嘆き悲しんで、全てを奪われる事を『仕方ない。自分は出来損ないなのだから』と諦めてきた。


 公爵家に嫁ぐ事が決まったときも、やっと両親のゴミを見るような目と卑しい奴だと口汚く罵られる毎日から解放される。少しは彼らの役に立てるなどと考えて、自分の味方をするとは考えもしなかった。


(……ああ、眩しいな。だからこの人はレオンと友達なんだ)


 やっと新しい自分の人生がやってきて、それでもなお不安だった。レオンティーナの言葉に縋りつき、自分を信じる糧にした。これでいい、これで間違ってない、これで正しい。あらゆる方向からそう思い込む事にした。


 やっと眩しい陽の光の下に立てたのだから、もっとヴィルヘルミナのように堂々と生きて良いんだと、今になって胸の中に新しい想いが芽生えた。


 こんなふうに明るくて優しい人になれたら。いや、なりたい、と。


「さあ、続き続き! あまりレオンティーナを待たせると先に酒盛りを始めちゃうから急ぎましょう。アタシも早くお酒が飲みたくてたまらないからね!」

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